第44話
王都からエレナの街は遠く、馬車で一週間ほどかかった。街に到着した時は私達も疲れてクタクタだったわ。
エレナの街はどうやら第二の王都と呼ばれるほど栄えている街らしい。
この街は気候が温暖で一年を通して過ごしやすいらしい。穏やかな気候のせいか人々ものんびりしていて治安は国一番だと検問の衛兵が言っていたわ。私達も街に出て肌身で感じる。王都とはまた違った街の良さ。
そして海が近いため食事も魚介類を使ったものが多い。ここは貴族も避暑地としてよく訪れるらしい。分かる気がする。いつも仕事に追われて忙しくしていると海を眺めながら穏やかな時間を過ごし、心を癒したいと思ってしまうもの。街に訪れてから何日か私達は観光して回った。
海辺の人々の暮らしは今まで過ごしてきた街とは違い観光で暮らしている人が多かった。
私は母と食堂へと入った。ここは衛兵が教えてくれた食堂。一番人気といわれるだけあってとっても混んでいる。たまたま空いたばかりのテーブルを見つけ、私と母、護衛と侍女で席に着いた。
「ちょうど空いて良かったわ。店員さん~こっち!」
私は大きな声で店員を呼ぶと大柄な男は両手に六本ものエールを持ちながら『待ってな!』と笑顔で答えた。
店員はテーブルに来るなり、お勧めを教えてくれる。どうやらこの店は本日のお勧めとエールしか置いていないらしい。
私達はそのままお勧めを人数分頼むことにした。今日のお勧めは魚介のパスタとスープらしい。同じ物を注文したのに隣同士で食べている物が違うのは愛嬌ということだろう。
「お母様、とても美味しいですね。この街に来てよかったです」
「そうよね。美味しいわ。ボルボアにも食べさせてあげたいくらいよ」
私達は和気あいあいと食事をしていると、どこからかエールで酔っぱらった男が大声で話し始めたのでそちらの方に視線が向いた。
「おい、聞いたか? クランツ王子と隣国のお姫様の婚約が無くなったらしいぜ?」
「あぁ、お姫様には好きな男がいたんだろ? クランツ王子が愛する二人を引き裂く悪役じゃないか。婚約が無くなった隣国のお姫様はこの間結婚したんだったよな。クランツ王子のおかげで燃え上がったんじゃないか? ガハハハッ」
男の声が大きく周囲もその話を聞いて話に乗っている。
「お、お母様。もう、ラダン様は婚姻したの、ですね……」
「どうかしら。あの人が噂話として話をしているだけなのだから気にしてはいけないわ。さぁ、私達は食べてしまいましょう?」
「そうですね」
そうよね、ただの噂話に過ぎない。
だってここは隣国だし、王都から離れているもの。噂なんて尾ひれが付いているに決まっているわ。
忘れていた気持ちが蘇り、心を重くさせる。
そんな気持ちを察してか母は優しく頭を撫でてくれる。
そうよね、傷ついた心を癒すためにここに来たのだもの。忘れよう。私は無理やり気持ちを切り替えて食事をする。
この日は早めに宿に戻った。湯浴みをしてベッドに潜ったのはいいけれど、食堂での話を思い出し、モヤモヤした気分のまま夜を過ごした。
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