第42話
翌日の早朝。
「お父様、お兄様、お姉様。では行ってまいります。今まで本当にありがとうございました。家族で本当に幸せでした。お母様と一緒に今まで出来なかった旅が出来るのですから幸せ者です」
「シャロア、旅を楽しんできてね。いつでも戻ってきなさいね」
「シャロア、父上や俺達がいるから心配せずゆっくり養生してこい。こまめに連絡するのを忘れるなよ?」
「はい。では行ってまいります」
私は一人一人をギュッと抱きしめた後、母と馬車に乗り込んだ。
御者の合図で馬車はカラカラと伯爵家を後にする。
この光景を決して忘れはしない。
「シャロア、本当に後悔はない? 引き返すなら今のうちよ?」
母の言葉に詰まる思いが溢れそうになるけれど、グッと耐える。
「お母様、大丈夫です。もう、振り返らないと決めたのですから」
「……そう。なら旅行を楽しみましょうね。隣国に到着するまでは気を引き締めなさい」
「そうですね。この剣が役に立つことがないのを祈るばかりです」
母も私も旅装で帯剣している。
馬車の中なのでローブは羽織っていないが、馬車を降りる時は着用するようになっている。これは人物を特定しにくいようにするために。
馬車は順調に王都を出て一日目は順調に進む事ができた。
二日目の昼過ぎにやはり事は起こった。
「クローディア様、一台の幌馬車が一定の距離を保ちながら付いてきております」
「……やはり。迎撃準備を開始する。フードを被れ。矢による攻撃もありうる。鎖帷子、仮面を忘れるな」
「「ハッ!!」」
伯爵家の馬車はもちろん一台ではない。普通の貴族なら荷物や使用人を連れて歩くため何台かの列になり旅をする。
我が家は武人一家ということを忘れてはいけない。
母も私も元が付くが騎士だ。荷物はトランク二つほどで済んでしまうほどで貴族の女性というにはほど遠い荷物。その分、馬車には使用人と称した護衛騎士が乗っている。
襲撃してくることを予想していたのでこちらは抜かりない。母は指揮官の如く全ての者に端的に指示を飛ばしていく。
「ここから少し先にある開けた場所で一旦止まり、敵を迎え撃つ。相手が出てきたのを確認後、C班は突撃せよ!B班はC班の後方支援に回れ。残りは馬車を守りながらこちらに向かってくる敵を討て。敵は野盗に扮した騎士である可能性も高い。心してかかれ」
私も母も鎖帷子はずっと装着している。他の騎士達もそれは同じ。仮面を被り、剣の柄に手を置いてその時を待つ。
知らせに来た護衛騎士は母の命令を受け、後ろの馬車に飛び移り、伝えに戻った。
馬車はスピードを落とし、ゆっくり走った後、迎撃するのに絶好の場所を選び、停車する。やはり幌馬車は私達の馬車を通り過ぎることなく同時に停まった。
幌馬車から野盗が十人ほど剣を持ち、こちらに襲い掛かってきた。
こちらからもフル装備をした騎士達が突撃し、応戦する。幸い相手に弓使いは居ないようだ。
母の指示通りにB班は幌馬車へ突撃する。C班は短弓で襲撃者を撃っていく。こちらは指示通りに動く騎士達。襲撃者はまさか迎え撃たれると思っていなかったようで動揺し、声を上げていた。
あっさりと敵は討たれていく。
野盗のリーダー格の男を残し、他はこと切れている状態となった。護衛騎士達はリーダー格の男を縛り上げ、猿轡を噛ませた後、幌馬車を確認する。
「クローディア様、報告します。敵はやはり野盗に扮した騎士達でした。ただ、正規の騎士ではないです。剣に彫られている名前を確認しましたが、何名かの男達は元騎士です。あと、捕まえたその男ですが、ポケットから王家の家紋が入った指輪を持っていました。この者が何者かは分かりませんが、王家が絡んでいるのは間違いなさそうです」
護衛騎士が母にそう告げると、母はリーダー格の男の前まで行き、頭を蹴り上げた。
「さて、どういう事か? エリアーナ王女から指示されたのか? ここで口を割らせてもいいけれど、時間が惜しい。まぁ、どうせ金をやるから私達を襲撃しろって言われただけでしょう。このまま弁解、自害を許すことなくボルボアの所へ送る」
母は貼り付けた笑顔で男の腹部を蹴り上げると、男は苦しそうにしながらドサリと横に倒れ込んだ。更に母は腹を蹴り上げ、その足で頭を踏みつける。
「我が子へ攻撃するとは良い度胸だ。死ねばいい!」
飛んだ捨て台詞!
スイッチの入った母を止めに入る。
「お母様、落ち着いて? 悪役になっているわ。私は怪我していないし、相手は全て死んでいます。後はお父様にお願いしましょう?」
母はギリギリと踏みつけている足を仕方なく降ろして護衛騎士に指示を出す。
「……そうね。幌馬車に死体を全て詰んで証拠となる物全て確保し、そのまま王宮へ突き出しなさい」
そうして襲撃はあっけなく幕を閉じた。
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ここで無くてもよい補足説明。
B班C班があってA班が無い理由。
単にリーダーの名前を取った班でした。
後から気付きました。たまたまです。汗
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