第33話
「母上、言ってはなりません。王宮では厳しく緘口令が敷かれており、王女の悪い噂一つ上げてはならないことになっているのです。そんな中、ラダン君は王女に目を付けられた」
兄は厳しい表情でそう話をした。
……なんてことだろう。
足元が崩れていくような感覚になる。
「陛下や王妃様は王女様を諫めないのかしら?」
「王妃様や王太子様は常に苦言を呈して止めてはいますが、陛下は王女を溺愛してますから王女の言うことなら全て聞く感じですね」
「ですが兄様、いくらラダン様に目を付けても私と正式に婚約をしているのですよ?」
「甘いな妹よ、あの王女が気に食わないというだけで令嬢を殺そうとするんだぞ? お前は邪魔者なんだよ。わかるよな?」
つまり、ラダン様を取られ、私は王女から命を狙われていてもおかしくない、と……。
兄の言葉に母も絶句する。
まさかのことで頭が付いていかない。
「陛下はそれで良しとなさるおつもりなのですか?」
「流石にそれを許すようには思えないが、確実ではない。シャロア、お前には酷だが最悪の事態も想定しておいてくれ」
真面目にそう話す兄の言葉が私にはとても重かった。今度は好きな人とちゃんと結婚できると思っていたのに。
無理やり引き離される可能性や私が邪魔だから殺される可能性があるのか…。
頭を殴られたような感覚に自然に涙が溢れてくる。
「嫌だ。嫌だ! 兄様の嘘つき! 嫌だっ。ラダン様と結婚するのは私なのっ」
「……すまない。だから今、父上も私もクレートも必死で抵抗しているんだ。酷な話を聞かせてしまったな。少し休むといい。ガード、シャロアを部屋まで連れて行ってくれ」
泣きわめく私を母も兄も止めることはなかった。そっと執事が部屋まで送られる私。
「お嬢様、きっと旦那様が何とかしてくださいます。お気を確かに」
「……ガード。そ、うね、きっと何とかなる、わよね」
私は不安になりながらも父達を信じるしかない。私は騎士を辞めてしまったので滅多に王宮に行く事はないし、情報も入ってこない。私はただ小さなぬいぐるみをギュッと抱きしめることしか出来なかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます