第34話

明けましておめでとうございます。

本年もどうぞよろしくお願いします。


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王女の話を聞いた数日後、珍しくコラリー様からの手紙が届いた。


姉に息災の手紙を送るなら分かるけれど、私に直接送ってくる理由……。


私は早くなる鼓動を抑えつつ手紙を開いた。


その内容に手がカタカタと震える。


嘘、でしょう?


コラリー様の手紙には先日の王妃主催のお茶会の席でラダン様を呼びつけ、椅子に座るように命令し、彼の膝の上に座ったのだとか。


もちろんそんな破廉恥極まりないことをお茶会の席で行ったものだから王妃様は烈火の如くエリアーナ様を叱り、お茶会を追い出した。

けれど、エリアーナ様は『ラダンが望んでいるの。私は彼と結ばれる運命、一時も離れたくないわ!』と皆に叫ぶように言ったらしい。


その場は王女の奇行でざわついていたようだ。それはそうだろう。一国の王女様が皆の前で騎士を呼びつけて椅子の代わりにするなんて有り得ない。


その後、王女様の二週間ほどの謹慎が決まったようだ。そんな事で反省をするのか疑問が残るところだが。



ラダン様と私は仲睦まじい婚約者だと王宮では知られているのでとても心配していると書かれていた。


心の中は不安で一杯になる。


ラダン様のことは信じているの。


でも、どんなに思っていても権力には敵わない。無理やり引き離されてしまうのではないかと。心は重く沈んでいくばかり。けれど誰に当たることも不安を口にすることも許されない。

下手に何処かに漏れて王女様の耳に入ったらそれこそ不敬罪で嬉々として私は処分されてしまう。


耐えるしかない。


もうすぐ私は結婚するのだから大丈夫。大丈夫。そう自分に言い聞かせる。


私は家族にこのことを告げることなく手紙をそっと引き出しの中に仕舞った。





それから二か月ほどした後、突然王女様からお茶会の招待状が送られてきた。普通お茶会と言えば一月前に招待状を送り、日にちを調整出来るようにしておくのだが、王女様からの招待状は三日後となっていた。


どうしたものかと悩むけれど、出ないわけにはいかなそうだ。私は侍女に三日後のドレスの準備をお願いする。


行きたくないわ。きっとラダン様との婚約を詰ってくるつもりなのだろう。言い返すことができない歯がゆさ。


私は重い息を吐きつつ過ごした三日間。


気だるい目覚めと共にお茶会の準備に取り掛かる。


「はぁ、行きたくないわ」


つい愚痴が漏れ出てしまう。




準備の出来た私は馬車に王宮まで軽やかに送られてしまったわ。


「本日はどんな御用でしょうか?」


城の入り口に立つ護衛騎士に止められる。今日も騎士はしっかりと仕事をしているようだ。私はエリアーナ王女様からの招待状を見せるが、騎士達の眉に皺が寄っているわ。


「本日、エリアーナ王女殿下はお茶会を開かれる予定はございません」


……早速の嫌がらせがきた。


ここで帰れば何故来ないのかと締め上げる理由を作るのだと思う。


「おかしいですね。この招待状は偽物なのでしょうか? なら、父に確認してもらうことにします。ボルボア・エレゲンに連絡を取って下さい」


私は首に掛けていた家紋の入ったネックレスを取り出して護衛騎士に見せる。すると護衛騎士達は家紋を見て焦っているようだ。彼らには本当に伝えていないのかもしれない。


「あぁ、気にしなくていいわ。私が直接第一騎士団へ向かいますから」


護衛騎士達は私が誰だか気づいた後、一礼をし、どうぞと王宮へと入れてくれた。私は嫌がらせにイライラしながらも第一騎士団へ直接向かった。


「ボルボア騎士団長はおられますか?」


私は声を掛けながら部屋に入った。


騎士の時は『失礼します!』と敬礼をしながら大声を張り上げていたけれど、ドレス姿でそれをするのはちょっと違うわよね。私が部屋に入ると、父はいなかったが、クレート兄様と王太子殿下が何やら話をしている様子だった。


「おぉ!我が妹よ。今日はどうした?」


私は王太子殿下に礼と挨拶をした後、言いづらかったが、王宮に来た理由を話しながら招待状を見せた。


「クレート兄様、今、お父様は護衛中ですか? 少し確認したくて。エリアーナ王女殿下に今日、ここへ来るようにと招待状を貰ったのですが、王宮でそんな予定は無いと断られたのです」


私の言葉に二人とも何かを感じ取ったようだ。


「エリアーナの嫌がらせだろう。シャロア嬢、本当にすまない。今、エリアーナは謹慎中なんだ。外部の誰とも会うことは許されていないんだよ」


「……そうなのですね。知らずに申し訳ありません」


ふた月前、コラリー様の手紙には確かに謹慎中と書いてあったわ。流石にそんなに長く謹慎をしている訳がない。また何かしでかしたのだろう。もちろんそれを口には出さない。


なぜ謹慎中なのか確認したいという意地悪な自分が顔を覗かせるけれど、そこはやっぱり聞くと嫌な女だと思われそう。ここは黙って悲しい振りをする。


「あー。まぁ、なんだ。シャロア、お前はエリアーナ王女様に嫌がらせをされたんだな。後のことはこの王太子殿下が全て処理してくれるから心配するな。そうだ、ちょうどいい。お前、最近ラダンに会えていないのだろう?偶には会いに行くといい」

「本当ですか? ラダン様は忙しいと聞いていたので今日も会えないと思っていたのです」

「シャロア嬢……。すまない」


王太子殿下は兄から白紙を一枚を受け取り、サラサラとその場で一筆を書いて私に見せる。『ラダン・リンデルの休暇を許可する』


「王太子殿下、ありがとうございます」

「いや、これくらい構わない。いつもエリアーナの事で迷惑を掛けているからな」


私は王太子殿下にお礼を言いつつ、紙を受け取った。思ってもみなかった事態だったけれど、父に会いに来て良かった。

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