第30話

―国王陛下誕生祭当日。


私は騎士の正装をして王宮へと出勤する。父と兄二人は早朝からの警護で既に居ない。


「今日は誕生祭だ。王宮も祝いムード一色でバカ騒ぎする者も出てくると予想している。しっかりと気を引き締めて各自警備に当たるように!」

「「「はい」」」


第二騎士団団長の声が詰所に響き渡った。


本日の仕事の内容は巡回班と王族がパレードへ移動する際の警備だ。第三騎士団は会場となる広場の警備。第四騎士団はパレードのルートを警備。第五~第八騎士団は王都内の巡回警備となっている。誰もが緊張し、無駄口を叩く者はいない。


私は式典会場から馬車に乗り込むまでの警備担当だ。式典が始まり、第一騎士団は会場の袂で待機している。会場は上位貴族から前に座っており、男爵位は会場の一番後ろの席になっている。


ざわざわと会場は賑やかであったが、陛下の登場で一気に静まり返った。

その後に王妃陛下、王太子殿下、王女殿下が入場した。国王陛下の挨拶の後、教会からの祝福の言葉が述べられる。各大臣や貴族達からの祝い品も紹介された。会場の場を乱す者は現れなかったのでホッと胸を撫でおろす。


……そろそろ移動ね。


陛下達が雛壇から降り、会場に向かい始める。父は陛下の護衛、兄達は王太子殿下の護衛のようだ。

ラダン様はというと……。


王女殿下がニコニコとラダン様の腕にしがみつくようにしながら歩いている。


これでは王女殿下の警備がままならないのではないのかしら?


それに私の婚約者なのになぜ王女殿下は腕を絡ませているの?


不安を感じながらも私は同僚と共に殿下達の周りを囲むように移動する。チラリと彼を見ると彼は無表情のまま歩いている。

そして彼らが馬車へと乗り込んだため私達第二騎士団の任務は半分終了となった。


あとはパレードから帰ってきた後、王族の居住スペースまでの護衛のみ。ここから巡回班が交代となる。


「只今戻りました。第一班問題な警備終了しました。巡回班と交代し、巡回を行ってきます」


団長に報告し、そのまま仲間と巡回に出る。


「なぁ、シャロア。エリアーナ王女様っていつ見ても可愛いよな。ラダン副団長は役得だなぁ」


同僚はわざと私を揶揄うように言ってきた。


「なに? 私にシめられたいのかしら? 私がまた婚約破棄になると言いたいの?」


「いやー流石にそれは無いだろ。副団長はシャロア一筋なんだから。だが王女様の方はどうだろうな? 一悶着なければいいんだが」


「もうっ、嫌なことを言わないでよ。それでなくても気にしているのだから」

「ごめんごめん。でもさ、婚約もしているんだから大丈夫だろう。それに団長からしたら王女様は子供だろう?」

「まぁ、そうだけど……」

「大丈夫だって。心配するな。さ、巡回だ」


そうして私と同僚は王宮内をゆっくり巡回していく。先ほどのことが気になって仕方がなかったが、王族の我儘はしかたがない。


因みに私は現在二十歳。ラダン副団長は二十五歳。エリアーナ王女は十六歳だ。


歳が離れているとはいえ、婚約しているとはいえ、腕にしがみつくような格好を見ていい気分とは言えなかった。

けれど、相手は王女様。文句をいうわけにはいかないのよね。

悶々としながら各部署を回り、不審者や不審人物がいないかを確認する。


「巡回から戻ってきました」

「ご苦労だった。報告書を忘れずにな」


私達は団長に報告した後、いつものように報告書を書き上げた。


「シャロア、今日で仕事最後だな。また何かあったら頼むかもしれんが、次期夫人としてこれからもラダンのことを頼んだぞ?」


「シャロア、お疲れ様!いいなぁ。夫人! たまには差し入れをしに来てくれよ?待ってるから。あ、結婚式には絶対行くからな!」


「皆様、本当に、長い間有難うございました。騎士団に入団してから色々なことがありました。いつも皆様に支えてもらい過ごしてきた日々は宝物でしかありません」


そう軒並みな言葉で最後の挨拶をする私。けれど、言葉を発すると同時に思い出す情景。


本当に色々な事があった。


涙がいつの間にか頬を伝いながらも最後まできっちりと挨拶をする。


最後には挨拶になっていなかったけれど、みんなは笑いながらも聞いてくれたの。長い間苦楽を共にしてきた大事な仲間。


ここを去る一抹の寂しさを覚える。


私が去って彼は第二騎士団へ戻ってくる事になっているわ。


これから夫人教育も待っているし、前を向かなくてはね。


そうして私は第二騎士団のみんなに見守られながら無事に退団する事ができた。

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