第24話
家族が公認というのならこのまま結婚してもいいのかもしれない。私は思っていることをしっかりと口にする。
「私は行き遅れだし、ラダン副団長のことを好きになって、また裏切られてしまうんじゃないかって考えると不安で」
「行き遅れ? まだ二十歳だろう? それに私はずっと待っていたんだ。裏切るようなことを一切しないと誓える。シャロアを生涯一人だけ愛し続けると」
ラダン副団長は不安がる私の隣に来て手を包む。大きて温かな手。一人で勝手に不安がるのは子供かもしれない。
こんなに私のことを思ってくれているのなら身を任せてみようと思う。
そう思うと涙が勝手に頬を伝っていた。
「どうしたんだ? そんなに嫌だったのか?」
「いいえ、嬉しくて。こんなに私のことを想ってくれる人がいるなんて考えてもいなかったのです。もう誰も愛さず、愛されることなく一人で生きていこうとさえ思っていたんです。ラダン副団長、私を嫁に貰ってくれますか?」
「!! あぁ、もちろんだとも」
トントン拍子に決まった婚約。
初対面の相手であれば何度か顔合わせをしてお互いを知った上で婚約する運びとなるけれど、そこは上司と部下。何年もの付き合いが婚約までの道のりを短縮させた。
「これからはラダンと呼んでくれ」
「ラ、ラダン様」
するとラダン副団長はがばりと私を抱きしめた。
これには私も側にいた執事も驚いた。
「あぁ、すまない。嬉しくてどうにかなりそうだ。そうだな、すぐにエレゲン伯爵に知らせて婚約を取り付けよう」
彼はそう言うと突然立ち上がり、私の手を優しく繋ぎながらサロンを退室しようとする。
「ラダン様? 父は仕事中だと思いますが……?」
「これから第一騎士団の詰所に行くんだ。シャロアと婚約することを皆にも知らしめる必要もある」
「は、早くないですか!?」
「善は急げというだろう? シャロアと婚約したい男は大勢いるんだ」
「ですが、この格好で騎士団に行くにはちょっと……」
流石に普段騎士服で王宮に出勤している私にとって私服、それもお見合いと聞いて侍女が張り切って準備してくれたドレスとこの髪型では恥ずかしい。
「少し待ってもらえますか? 着替えてきます」
「わかった」
ラダン副団長はあっさり承諾するとソファにまた座り、執事にお茶を淹れて貰うようだ。私はすぐに自室に戻り、ドレスから騎士服に着替えた。
髪型を変えるには時間も掛るのでこのままでいいかな。
侍女にさっと解れた髪を直してもらい、またサロンへと戻った。
「お待たせしました」
「先ほどのドレス姿も美しいが、他の騎士達も喜ぶから仕方がないな。では行こう」
私はラダン副団長のエスコートで玄関前に来た。この場合馬車で行くべきだろうと考えていると、執事が預かっていたラダン副団長の馬を連れてきた。
どうやら今日、ラダン副団長は馬でやってきていたようだ。
「ラダン様、私も馬を取りにいきますので待っていて下さい」
「いや、このまま行こう。時間がもったいない」
そういうと副団長は馬に乗り、私に手を差し伸べてグッと引き上げる。二人で乗るなんていつぶりだろう。
昔、父や兄に馬に乗りたいとせがんで一緒に乗せてもらっていたなと懐かしい記憶が蘇ってきた。
馬はすぐさま王宮へ到着し、騎士団の厩舎に馬を入れて第一騎士団へと向かった。途中何人かの同僚とすれ違う。
「あれ? シャロア、今日出勤だっけ? 休みじゃなかったの?」
と聞かれたけれど、曖昧に笑って言葉を濁したわ。
「シャロア、行くよ」
「はい」
私は緊張した面持ちで第一騎士団の詰所へとやってきた。
あぁ、父や兄達は何というだろう。それにここには他の先輩騎士達もいるわ。
心臓が口から出てきそうなのをなんとか気力をふり絞りラダン副団長の後を追うように部屋に入った。
「失礼します」
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