第23話

――お見合い当日。


私は誰が来るのだろうかとソワソワしながらドレスを着てサロンで時間前に座って待つことにした。

結局兄も父もニコニコするばかりで教えてはくれなかった。


「お嬢様、お客様が参られました」


執事の声にピクリと反応したけれど、すぐに入ってもらうように話をする。


……どうしよう緊張してきたわ。


私の不安が大きくなるよりも先に彼は部屋へと入ってきた。


「ラ、ラダン副団長……? え? どういう事ですか?」


彼の後に続いて兄が部屋へと入ってきた。


「お待たせ。シャロア、驚いただろう?ラダン、そこに座って」


兄の言葉にラダン副団長はソファに座る。執事は少し微笑みながらお茶を淹れたわ。


「クレート兄様、どういう事ですか? ラダン副団長が私のお見合い相手って。なぜ言ってくれなかったのです?」

「言うとお前は気を使って仕事が出来なくなるだろう? 俺は気を使ってやったんだぞ? これでも」


「シャロア、驚かせてすまない。気を悪くしたか?」

「い、いえ! とんでもないですっ! まさかラダン副団長とは思わず。と、とっても嬉しいです」

「ハハハッ。シャロア、顔が真っ赤だぞ?まぁいい。俺がここにいても邪魔なだけだし俺は仕事に戻るわ。後はラダンとよろしくな」

「に、兄様!?」


私が驚いている間に兄はさっさと部屋を出て行ってしまった。残された私とラダン副団長。何だか気まずいわ。


「ラ、ラダン副団長、質問してもいいですか?」

「あぁ。何だい? 出来ることであれば何でも答えるよ」

「兄から相手の希望でお見合いをすることになったと聞いたのですが、本当なのですか?」


私はドキドキしながらストレートに聞いてみることにした。

会ってすぐにその質問は大胆過ぎたかな。しまったと思ったけれど聞いてしまったので仕方がない。彼はフッと笑いながら答えた。


「あぁそうだ。私がクレートにシャロアの婚約者になりたいと願ってずっと相談していたんだ」


相談?


「えっと、相談、ですか?」

「あぁ、シャロアには伝わっていなかったのか。

君が婚約破棄をした後、君の父君であるエレゲン伯爵に打診をしていたんだがいつも躱されてね。本人は結婚する気はないとね。

それでも諦めきれなくてクレートに相談していたんだ。

何度も相談しているうちにクレートは駄目もとでいいならと今日という日を設けてもらった」


「父に話をしていたのですね。全然気づいていませんでした」

「それもそうだろう。君は恋愛に心が傷つき見ないようにしていただろう?そんな時に声を掛けても断られるだろうと待っていた」

「……そうなのですね」

「最近のシャロアはようやく吹っ切れたように見えた。打診をしていたのだが、ずっと躱され続けてようやくこの日を迎えることになったんだ。

私はホッとしている。シャロア、君の事は入団の時から知っているつもりだ。

どうか私と結婚前提に婚約をしてほしい」


情報量の多さに混乱する私。


えっと、ラダン副団長は以前から婚約を願っていた?


父が許可しなかったのを諦めきれず兄に相談してお見合いに至ったということだよね?


ラダン副団長はいつも騎士団で気に掛けてくれていて悪い人ではないことはもちろん知っている。むしろ優しい人だろう。


「なぜ、私なのでしょうか? ラダン副団長なら令嬢を選び放題だと思うのです」

「シャロアも知っている通り、昔から令嬢に追いかけられていたせいかあまり結婚に興味がなかったんだ。

シャロアの人柄を知るうちに君となら生涯支え合える関係になれると思うようになった。

けれど君には婚約者が居た。


身を引こうと思っていたところに婚約破棄があった。傷ついた君の優しさに付け込もうかと考えたけれど、立ち直った時に君は自分が許せなくなるんじゃないかと思った。

だから元気になるまで待っていたんだ」


「そうだったんですね。何も知らずラダン副団長の優しさに甘えていました」


ラダン副団長はきっと陰日向となり私を支えてくれていたのだと思うと嬉しい気持ちが湧き上がる。そして今まで相手の気持ちを知らずに過ごしていたと思うと恥ずかしくなった。


「ラダン副団長、わ、私でいいのですか? こんなに男勝りでお淑やかではないんですよ? 顔だって他の令嬢に比べて日に焼けていますし」

「なんだそんなことか。全然気にしていない。ずっとシャロアの人柄を見てきたつもりだ。

それに他の令嬢と比べて自分は劣っているというが、シャロアは美人で有名だぞ? ジルドさんやクレートがシャロアに近づく男を蹴散らしていたに過ぎない」


兄達は私の知らないところで何をしていたのだろう?いや、でも家族の絆が強い我が家。兄なら家族を守るためにこっそりとやっているかもしれない。

きっとそんな兄達の攻撃を上手く躱し続けて残ったのがラダン副団長なのかもしれない。


私の気持ちは嬉しいけれど、好きになってまた裏切られてしまうのではないかという不安がある。私も彼の人柄をよく分かっているつもりではいるの。

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