第25話
第二騎士団とは違い第一騎士団は超エリート集団の詰所なので少し広さが違う。
置かれているものはあまり変わりはないのだけれど。
父は一番奥の真ん中で執務をしているようだった。兄達はどうやら護衛の任務に出ているようで部屋には居なかった。他には数人の騎士がいたが私達を見ても気にする素振りは見せない。
まぁ、書類を持ってきたのだろう程度の感じかな。
父は私とラダン副団長の二人が来るとは思っていなかったようで書類の手を止めて私達を見ている。
「ボルボア団長、お話があります!」
「……ついに来たのだな……」
私はドキドキしながら父の元へ。
「私ラダン・リンデルは先ほど、シャロア嬢から結婚の約束を取り付けました!! 義父上、許可をお願いいたします」
ラダン副団長大きな声に一斉に視線が集まった。
は、恥ずかしいっっ。
穴があったら入りたいっ。
「シャロア、本当に奴でいいのか? 仕事一筋で生きると言っていただろう?」
「お父様。前回の婚約破棄の時、生涯一人で生きていこうと思っていました。でも、こうしてずっとラダン様に陰日向となって支えられてきたことやこんな勝気な私を好きでいてくれる、生涯私だけを愛してくれると言ってくれる人なら私の残りの人生を共に過ごしてもいいのかなと思ったのです」
「そうか。シャロアが望むのなら許可しよう。ただ、彼は次期侯爵だ。騎士を辞める事になるんだぞ? 大丈夫か?」
「そうですね。お母様もお姉様も結婚のため騎士を辞めましたわ。結婚する覚悟はしております」「そうか。なら何もいう事はない。私の方からリンデル侯爵に話をしておこう」
「「ありがとうございます」」
私とラダン副団長が頭を下げると、周りにいた騎士達から拍手が起こった。おめでとうという言葉と共に。
それからラダン副団長はすぐに父であるリンデル侯爵に話をしたようで我が家に知らせが届いた。
どうやら侯爵はラダン副団長がこのまま生涯独身を貫くのではないかと心配していたようでホッとしたようだ。
しかも代々王家の剣と称される程の我が家から貰い受ける姫と聞いて喜んで迎えると言ってくれているのだとか。
王家の剣って凄い響きよね。
私から見ればただの剣術バカといっても不思議ではないほど脳筋家族だけど。もちろん婚約契約書を交わして婚姻は一年後と決まった。彼はすぐにでも籍を入れたいと言っていたけれど、やはりそこは侯爵家。
他貴族への周知も必要でそれなりにしっかりとした物でなければいけない。
そして私は今騎士として働いているけれど、仕事を減らして侯爵家に夫人見習いとして勉強しにいく事になった。半年後には仕事を辞めて結婚の準備に入る。
「シャロア、今度の休みに食堂に行かないか?今流行りの食べ物があるときいたんだ」
「ラダン様、行ってみたいです!」
彼の休み毎に私を誘って街でデートを重ねる。ただ他の人と違うのは彼も私も帯剣をしながらのデートということかしら。
令嬢ならドレスや平民の簡素なワンピースを着て街に遊びにいく。そして数人の護衛に守られてね。
私達はこうして帯剣する事で騎士だということを周知していて安全に街を歩く事ができているの。下手すれば護衛より強い私達。とは言っても護衛は離れて付いてきているけれどね。そう言っている間に店に到着。
私達騎士が通っている王都の有名な店『ボルボード』。
ここは様々な料理を提供してくれてしかも量が多い。取り扱うワインは地方から取り寄せた物も多いため王都でも人気の食堂なのだ。
「ゼスト牛の香草焼きとシチューが期間限定のメニューだそうだ」
「ゼスト牛といえばエーラ地方の牛ですよね?滅多に流通する事がないって聞いていたのに」
「エーラ地方と王都を結ぶ道路の整備が完了したそうだ」
「なるほど。これからもっと流通が盛んになってゼスト牛も沢山食べられそうですね」
ラダン様と期間限定メニューを注文する。騎士として同じ釜の飯を食う仲間であったため、一般の令嬢のように見た目を優先した食事より体力重視の食事を摂ってもラダン様は何も言わないの。
むしろ他の令嬢とは違い行く店が限定されることがないせいかとても喜んでくれている。
いつも安価な食堂という訳ではないのよ?
貴族が通うレストランにだって行くし、オペラにも行ったわ。王都の店全て彼となら周れるのではないかと思う。
一緒に経験できるというのはこんなに幸せなのかと感じてしまう。ダイアンが婚約者だった頃は幸せだったし、楽しかったわ。けれど、彼とはまた違う楽しさがある。言葉に出来ないけれど、彼となら何でも一緒に挑戦したいし、色々なところを見て歩きたい。
食事を終えて私達は帰路に着く。
「今日は楽しかった。今度は植物園に行かないか?」
「私も楽しく過ごせました。植物園、いいですね。今ならジョーゼアの花が見頃だと思いますし」
「そうか、それは楽しみだ」
次のデートの話をしながらラダン様は私を家まで送り、帰っていった。家に帰ると父が待っていたようで執務室に呼ばれた私。
今日のデートのことを思い出しながら上機嫌で執務室へと入っていった。
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