第28話 妖刀

「クソッタレが化け物すぎん?」


 豪木は横たわっているアレスを見て、深いため息を吐きながらしゃがみ込む。


「あの2人大丈夫かな?」


「...成仏したか、盟友よ」


「あ?おい!次はおにごっこかい?」


 アレスは立ち上がり、豪木に向かって手招きをする。まだ、倒しきれなかった事に、走り出したアレスを追いかける。


「来たかアレス」


「アレス、もう十分だ」


 辿り着いた所は、凛を肩に担いでいるユリウスと、全長3メートルある、顔が牛の大男は零夜を手に持っていた。


「(やべぇな。これ全員相手すんのは骨が折れるぞ)」


「ミノス。盟友の最後はどうだった?」


「最高に笑っていたぞ。この男が成し遂げた」


「そうか。戦って成仏したか」


 ユリウスとミノスは凛と零夜を豪木の目の前に置いて、森の奥に消えていくのだった。


「...」


「(2人の霊力が格段と上がっている?やはり、この2人を同行させたのは正解だった。天災級との戦闘経験はどれほど役に立つのか、すぐに思い知らせるだろう)」


「2人ともお疲れさん」


豪木は2人を担いで、森を後にするのだった。

 零夜は目を覚ますと、そこは自分の家の天井であった。


「あ!零夜!」


「...凛」


 草書体が書かれている包帯を、グルグルと巻いている凛の姿がいた。自分の身体を見ると、同じ包帯が巻かれていたのだ。


「なんだ、この気色の悪い包帯は?呪われてるの?」


「なんか、里佳子が傷の治りを強める包帯だって」


「里佳子?...あー、あの人か」


どうやら自分達を治療してくれたのは橘の様だった。

 零夜は立ち上がり、ベッドの横に立てられている刀が視界に入った。


「こいつは...」


空狗の愛刀である刀だった。


確か、最後にあいつに壊されたんだっけ?師匠からもらった大切な刀が...まぁ、質優先だから、あんな刀はもう忘れるか!


 零夜は刀に触れると、刀に関しての情報が記憶の中に入り込む感覚を味わう。


「妖刀喰我焰修羅くうがえんしゅら

 

 霊力を流すと、霊力に込められている負の感情のエネルギーを量によって、怨念の炎を生み出す妖刀。怨念の炎は相手を喰らい、己まで喰らうと言われている。だが、負の感情のエネルギーの塊である呪力には反応しない。


「負の感情か...まさに、俺に相応しい刀だ。空狗、アンタからの貰い物、絶対に使いこなす」


「零夜!零夜!お腹空いてると思って、豪木から色々と差し入れしてくれたよ!」


零夜は起き上がりリビングに向かう。


「...普通に怪我人相手にジャンクフードの差し入れするか?」


 コーラはハンバーグ、ナゲットやポテトなどが、机の上に置いてあった。


「凛は食ったのか?」


「ううん、まだ。やっぱりご飯はみんなと食べないとね」


「そうか。から一緒に食べよう」


 零夜は飲み物を取りに台所に向かう。凛は零夜の背中を見て、大きく見開いたのだ。


「背中の傷大丈夫?」


「ん?あー、これは古い傷だよ」


 背骨を沿う様に点の様な傷、それに身体中は何かに斬られたような傷跡だらけだった。


「...あ、あれ?」


 零夜はベランダでタバコ吸いにカーテンを開けると、そこはオレンジ色の日差しが現れる。零夜達が任務に向かったのは真夜中の10時ぐらい。焦りながら時計を見ると17時を越していたのだ。


「も、もしかして、俺ってほぼ1日中寝てた?」


 いつもはスマホにタイマーをセットしている。今日はなんと試験の日なのだ。せっかくみんなから勉強を教わったのに、試験をほったらかしにしてしまったら、信用を無くしてしまう。零夜は急いでケータイを探すのだ。


「なんで、ケータイがないんだ!...あっ!もしかして」


部屋の机に置かれているボロボロな黒い袴を漁る。

 そしてポロリと落ちたのは真っ二つになっているケータイだった。


「...最悪だ。どうりで、電話も来ないと思ったら、綺麗に真っ二つにされていた...」


ピンポーン


 零夜は真っ青になり、今日の試験を受けられなかった事に焦っていると、ベルが鳴る音が響く。ドアを開けると、少し頬を膨らませている黒恵が来たのだ。


「神楽沙君!試験当日にサボりは関心しませんね...って!なんですか、その怪我は!」


「...か、階段から落ちた」


「そんなわけがありません!階段から落ちた様な怪我には見えませんし、階段からの怪我なら、霊語包帯は無意味です!何をしていたのですか!」


「...任務を受けてました」


 何故か下手な嘘をつく零夜だが、怒っている黒恵を見て本当の事を言うのだった。


「に、任務??土御門さんから、そんな事は聞いていません!一体何級の任務を受けていたのですか」


「...天災」


「は?天災?ちょっと土御門さんに、文句言いに行きます!流石に天災級を受けさせるのは酷いです!死んでもおかしくないのですよ!」


 黒恵の言う通り、零夜達は死にかけていた。もし、相手が本気に殺しにくる悪ならば、もう死んでいたかも知れない。任務経験が少ない零夜は天災級の任務を受けさせた豪木に対して、黒恵は本気で怒っていたのだ。


「声がすると思ったら、黒恵じゃん!!どうしたの?遊びに来たの?」


「...は?り、凛さん?な、なんで、ここにいるのですか?」


「え?だって、アタシここに住んでるだもん」


「...」


「...」


 そんな話聞いていないと、睨みつけられる黒恵に、零夜は目を逸らすのだった。

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