第23話 天災
「今日はこれを着てもらうよ」
動きやすく作られている学ランの様な特攻服な黒い袴。
「上級までなら、普通の服じゃ何とかなるけど。相手が天災と来るなら、隊服を着てもらわないとね。それはね、呪いや霊力からの攻撃をある程度防げる程の強度なんだよ。それに、普通の人間には認知されにく効果もある」
「へぇ、こんなのあるんだ」
「本来は上級陰陽師から支援されるけど、今回は特別だね。わざわざ僕がバレない様にパクってきたものだよ」
「バレたら洒落にならんだろ」
零夜は隊服を見て、勝手に取ってきたと言われ心配になる。ルンルンと豪木は鼻歌を歌いながら土地神が居ると言われている森の中のお寺に向かう。今から天災級の呪怪を祓うテンションではない。
「...やべぇ!」
「おい!」
急ブレーキした事に、零夜は目の前の座席に頭をぶつけるのだった。すると、目の前のボンネットに黒い物体が降りかかる。ぐしゃりと潰れたボンネットを見て豪木は目を大きく見開くのだった。
「お...まだ、ローンを払い終わってないの...2人とも【やばかったら、本気を出すんだよ】」
豪木だけはいつも通りな呑気な態度だが、零夜と凛は目の前から感じ取れるヤバい何かに、背筋が凍る感覚が走る。
「ほーう、なんと素晴らしい戦闘能力だ」
こちらを覗き込む眼球は、零夜達は無意識で息を飲む。ガブト虫の様な黒い全身甲冑に、頭には2本の角が生えている。そして、獣の尻尾の様なモノが動いていた。
「ようこそ。挑戦者どもよ。汝中に相応しい者がいるか、まずはこの我が見極めてみせよう」
一言一言、言葉を発するだけで、この場の空間は圧する様に膨れ上がる。零夜達の中に鳴り響く危険信号は、零夜達を直ちに戦闘態勢に入れた。
だが、先に動いたのは豪木だった。豪木はその場からフロントガラスをかち割る勢いで、いきなり現れた呪怪に蹴りを飛ばした。呪怪は後ろに吹き飛ぶのであった。
「今のは良い蹴りだ。まずは名乗らせて貰おう」
ビクともしなかったのか、蹴られたことなんて構わなく、自己紹介を始める。
「我はアレス、もし良ければ汝らの名前を聞きたい」
「あっはは、最悪だ。神の名前に似てるって事は仮想型の呪怪か!」
仮想型とは都市伝説や神話や妖怪などを作り話で出来た恐怖の対処が、呪いが蓄積し呪怪として顕現してしまう存在。その物語で人間がどれだけ恐れられているかで、その呪怪が強くなってしまう。神は本当に存在している。だが、現世で現れる事は絶対にない。神の名を持つ呪怪は本当の神ではないが、それ同様な力を持つ天災級以上の強さになる。
「さてと、名乗らぬのなら、このまま始めるぞい」
「無駄だよ〜【僕に直接触れる事は不可能だし】、【君の攻撃は僕に当たらない】」
アレスは超素早い動きで豪木に飛び込む。豪木の顔面に目掛けて強い打撃を放つが、当たる事はなく、豪木の目の前に拳が止まる。
「そんな攻撃で僕に当たるのでも?不可能に決まってるよ【潰れろ】」
「なぬっ?!」
何もないはずなのに、アレスは何かに潰れるような衝撃を食らった。土御門豪木の霊開は『|言霊』、霊力が籠った言葉を催眠の様に、実現的にさせる能力。だが、色々と制約があり、あくまで催眠であって、生物を燃えよと言っても燃える様な痛みを感じても本当に炎を出す事は出来ない。
無生物には効かない、モノを動かしたり、何もないところから水を沸かす事は出来ない。
「ほーう、面白いモノを持っているな。だが、これで我に勝ったとは思わせぬぞ」
「あらそう?でも、もう終わりだよ。こっには後輩まで連れてるんだ。かっこいい、先輩を見せる為にカッコ悪いところを見せないだろ?君は僕の為にカッコよくさせてもらうよ【死ね】」
「がはっ?!」
アレスは目や鼻から、口から穴という穴からの全てに血が流れる。そのまま死ぬかと、勝ちを確信を得た豪木は驚く光景を見るのであった。
「これしきで、我は倒せない」
「参ったな。本当に死なないか」
死ぬと言う概念を頭の中に埋めつける事で、大抵の呪いは【死ね】と言う言葉だけで殺せるが、アレスの様な強者は耐え切ってしまうのだ。
「【止まれよ】」
「もう、見飽きた!」
止まれた言われようが、アレスは止まる事はなく、そのまま拳を豪木に直撃する。だが、再び何か見えない壁の様なモノが豪木を守っていた。拳は当たる寸前に止まったのだ。
「【痛覚10倍】!【僕の攻撃が防がれることは、不可能だ】」
「ぐっ!」
豪木のパンチを警戒したアレスは両手をバッテンにして防ごうとするが、その腕をすり抜いて、アレスの胸に直撃して吹っ飛ばされる。
「これが天災と天極の戦いだ。勉強になった?」
「おい!!前を見ろ!!」
「...?!」
豪木の右腕が吹き飛んだ。それはアレスの後ろから斬撃を飛ばした者の攻撃。森の中から全身真っ黒な海外でよく見るフルプレートアーマー姿だった。
「(...この僕が存在に気づかなかった?何者だ?呪怪か?微かに呪力を感じるが...霊力も感じる...そんな事より天災級が二体...いや、よくよく感じ取れば、この森に...5体の天災級がいるな。その中の一体の呪力が弱まっているのが感じ取れるが...)」
「アレス、何遊んでいる?」
「ユリウス殿よ。すまぬな。我の悪い癖が出てしまった。やはり、強者となると最初は軽く運動して徐々に本気を出すのが楽しいんだ」
「貴様の趣味に付き合う時間なんてないんだぞ?あいつに残された時間は少ない」
「ぶっはは、お二人さんよ。なんの話をしているか分からないけど、2人と黒い鎧をしているけど、それがオタクの組織証の仮装かい?正直ダサいぞ」
「...うるさいぞ。人間...霊開・獄骨【爪】」
「なっ?!」
ユリウスと呼ばれる呪怪は、豪木に向かって2本の指を向ける。そして横に振り払うと、黒い影が豪木を襲い吹き飛ばした。その技を見た、零夜は驚いたのだ。
「そこの人間。何に対して驚いているかは知らないが、悪いがこっちも時間がないんだ。アイツの最後の願いだからな。もし、お前らの中に相応しい者が居ないなら、ここで死ね」
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