第21話 伊奘冉の会

「ヤバい」


時刻は夜の10時前を指していた。

 一応メモも残してあるが、少し心配だった。

1人で残されてる凛を心配しながら、早歩きで帰る。


「凛、いるか?」


「零夜!おかえり!」


元気な姿の凛を見てホッと安心する。

 トコトコと零夜の方は向かう凛。


「飯食ったか?」


「まだ、食べてない」


どうやら、まだ夜飯を食べていない様だ。

 なら、零夜は急いで晩飯を作る為にキッチンに向かいリビングに入る。


「え?」


 だが、リビングの机の上には今朝作った料理に手を触れてない状態だった。凛、笑顔で机の上に置いてある食べ物の皿を持つ。


「ねぇねぇ!これ食べないなら食べて良い?」


「食べて良いって、それ凛の為に作った奴だぞ?」


「え?!そうなの!ありがとう!」


 凛はラップを取り、今朝からある冷めたおかずを口に運ぶ。


「メモて書いてなかったか?...あ、てかもう冷めてるだろ?新しいの作ってやるから」


待てよ、なんかおかしいぞ?


「昨日もそうだったけど。零夜、優しいね。残り物じゃなくて全部くれるもん...それは昨日の暖かい料理は美味しかった。あんまり暖かいの食べた事ないから」


「...」


もしかして...


零夜は嫌な予感がする。

 美味しそうに食べる凛の皿を取り上げる、


「あっ...ご、ごめんなさい。アタシ、なんか悪い事した?」


 何かに怯える凛を見た零夜は、ある予想が頭の中を過ぎる。


「っ...ちょっと待ってろ。新しいの作ってあげるから。暖かいご飯の方が美味しいだろ?」


 零夜は急いで新しく料理を作り、暖かい料理を凛に差し出した。目の前にある、出来立ての料理を見て目をキラキラにさせていた。


「こんなに、良いの?昨日も沢山食べさせてくれたのに」


「いっぱい食べな。俺はちょっとあっちにいるから、何かあったら呼んで。おかわりはキッチンに行けばあるからね」


そう言い残しベランダに向かう。

 零夜は黒恵に電話を掛けるのだった。

電話を掛けた瞬間、一瞬で出てくれた。


『か、神楽沙君!ど、どうしたのですか?』


「夜遅くごめんね?土御門の連絡先貰っても良い?」


『土御門さんですか?分かりました。なら、メールで電話番号を送りますね』


「ああ、ありがとうね。んじゃ、また明日」


『はい、また明日』


電話を切り、零夜は急いで豪木に電話を入れる。


『はい、もしもし土御門ですよ〜』


「俺だ。神楽沙零夜」


『お?神楽沙君?どったの?電話番号教えたっけ?』


「そんな事は良い。凛の事を聞きたい...もしかして、凛って虐待とかされてないよな?」


 零夜は自分の予想が当たってるのは思いたくはなかった。恐る恐る豪木に尋ねると、豪木はすぐに答えを出さなかった。


『...そうだね。虐待はされてたよ。正確にはある計画の実験体の子だよ』


「...」


 実験体と言葉を聞いて、零夜は怒りが込み上がってくる。強く握り締めるスマホから、豪木は話を続けた。


『本当はすぐに言うべきだったけど、上層部からこの事は他言するなとキツく言われてたんだ。でも、可愛い後輩からの質問されちゃ、答えなくちゃいけないけど...今から1ヶ月前にね、僕が任務である場所で拾ったんだ。でもね、彼女は実験ばっかりでちゃんとした教育はされてないんだ」


 凛が料理のメモに気付かなかったのは文字が読めなかったのだ。それに、凛の性格が子供の様な行動を取る理由は、子供の時から仲間が成長出来ていなかったのだ。それも全て、実験の副作用だった。


「...伊奘冉いざなみの会の仕業か?」


『正解』


 伊奘冉の会とは、初代会長である、いや初代盟主である源博雅みなもとのひろまさが陰陽師としての大きなサポートをしてくれる組織を作り上げてくれた。だが、二代目花山はなやま奥正おくまさは神の血筋を宿した天才法師安倍晴明に憧れていた。第二の安倍晴明を作り上げる為に、擬神を作り上げる実験を開始させた。


天照計画あまてらすけいかく


月読命計画つくよみけいかく


 第二の天才法師安倍晴明を作り上げる為に、乳幼児の段階から徹底した英才教育を施す組織。その実験は人間の身でありながら、神を作る非道で最悪な実験。


「アンタ、それを知って俺に託したのか?」


『うん。彼女は天照計画の被検体なんだ。彼女の辛さを癒すには...。君なら何とかできるだろ?』


「...」


 零夜はだんまりとなり、タバコを取り出し火をつける。


「...話は分かった」


『うん。君に託して正解だったよ。明日、君に嬉しいプレゼントをあげるよ』


いきなり不安を覚える零夜は電話を切る。

 零夜はリビングに戻り、ジッと皿を見つめていた。


「凛、どうしたんだ?」


「...この1ヶ月、ずっと美味しいのばっか食べてばっかりだから...嬉しくて...家族と一度もこんな美味しいご飯と食べた事なかった...ずっと1人で...冷たいモノばかり...お父さんもお母さんも...私自身の事を見てくれない...」


「...そうか。なら、これからもどんどん美味しいモノを食べれるぞ。俺が食わせてやる...それに、俺達はもう家族だ!」


分かるよ。神を作る為なら、守ってくれると信じてた親すらにも見捨てられる事なんて...俺も...


「...零夜、優しいね。ありがとう」


ポロポロと涙を流す凛の頭を撫でる零夜。


「もう、凛は自由なんだ。好きな様に生きても良いんだぞ。デザートも買うか?」


「良いの!」


「ああ、一緒に買いに行くか?」


「うん!零夜大好き!」


 満面な笑みで笑う凛に、一瞬ドキっとする零夜だが、子供がよく言うLikeの方だと思い、凛の頭を撫でるのだった。


「...おう!」



 

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