第18話 四天組

「零夜!」

「神楽沙君!」


目を覚めると、凛と黒恵に囲まれていた。

 どうやら、術に掛かっていたのは零夜だけの様だった。零夜は起き上がり、隣に自分の刀が置いてあった。


「呪怪は?」


凛はキョロキョロと呪霊の姿を探す。

 零夜が眠ったと同時に、呪霊の姿も消えたそうだ。零夜が眠っていた時間は5分程度。


「アイツは俺が祓った...だから、もう大丈夫」


ここで嘘を吐いておこう。まだ、あの女は信用できん。


零夜は現場監督である橘の方へ見る。

 上級呪怪に、霊閉を使える元最上級陰陽師がまだ生きていると分かれば、無理やり祓われる可能性がある。零夜達は縛りを結んだとは言え、もし祓われそうになれば抵抗しなくちゃいけなくなる。それに、正直に話しても、零夜達の目的は平将門の封印を解く事、どっちも狙われる可能性があるのだ。


「これで上級か...辛ぁ〜」


 ほぼ手も足も出なかった上級相手に、零夜は悔しい気持ちがいっぱいだった。


でも、楽しかった。


 零夜は口元を抑えながら、ニヤケ顔を隠すのだった。それから4人は、貰ったお札を千切ると結界領域から出るのだった。


「あっれ〜?みんな遅かったね?手こずってた?」


「おい、後で詳しく話したい事がある」


「...え?僕なんかした?」


豪木を睨みつける様に橘は、先に車の中に入る。


「どうだった?ちゃんとした上級クラスは」


「強かった。これじゃ、もっと強くならないとね」


 上級ですら相手になっていなかった。これじゃ、呪霊少女との約束は守れなくなる。


それに、このままじゃアイツらを...


「...神楽沙君、どうしたの?なんか、?」


「?」


「...いや、なんでもない。着いたよ」


零夜達は最寄駅まで運んでくれた。


「んじゃ、九條ちゃんから連絡するよ。ばいば〜い」


分かれの挨拶をして車は走っていく。

 子供達が消えた事に、大人2人は会話を交わすのだった。


「どうだった?」


「...まず、言うべきなのは。4人とも結界術を覚えるべきです」


「えぇーいきなりダメ出しか...まぁ、しょうがないよ。九條ちゃんは、式神とやらのせいで霊力がほぼない状態だったし、それ以外は陰陽師として育てられてないからね」


「これからの為に習うべきだ。結界術が使えない陰陽師は、あまりにも致命的だ。今日に至って、上級が結界領域に入り込んだ瞬間、私の結界を発動しなければ、やられてたかしれない」


「あっははは、それはないよ。多分彼女らなら、何かしら防ぐ術はあるよ。あまり彼女らを甘く見ない方が良い...それで、そんなにダメ押しはされてるんだ、良いことはないのか?」


「まず、九條黒恵。彼女は、状況の判断力の選択が素晴らしい。実力的にあの4人の中で1番弱いが、あのチームの指揮を取るのに必要な存在」


橘は上級との戦いを見て、観察していた。


「次にアイ=ブラッディフォール。初対面にも関わらず、すぐに仲間のペースに合わせるサポート力が凄い。次に緋村凛、本気を出していないから、あまり言える事はない。まぁ、彼女の血統的に戦闘面に置いて問題はない。最後に神楽沙零夜...こいつは問題児だ」


「お?僕のお気に入りなんだ。何て言われるか、楽しみだね」


「1番驚いた事は、どうやら霊開を2つ扱える点」


「...え?マジ?何それ?初耳なんだけど」


 流石の豪木でも、今の情報を聞いて物凄く驚いていた。


「資料に書かれていたのは、影を操ると事だ。これはお前が書いたから間違いはないだろ?」


「うん」


「でも、今回私が目をしたのは、雷を操っていた。それも強力なもの。最初はアイの様な2つの性質を合わさったモノだと考えるが、二つの性質を合わさった物を発動する時、必ずどちらかの性質が顕現するはず...」


「うーん、僕の時もそうだったね。あれはちゃんとした操影術だった。あの時雷の様やビリリっとした物は使ってない...くっくっ、やっぱり面白いな。僕を飽きさせない...橘ちゃん、彼が二つ持っている事は上層部に内緒ね」


「やっぱり、そうよね...」


「もしバラしたりしたら...マジで殺すよ?」


 車を止めて、豪木は後ろの席に座る橘に向かって、強い殺気を放つ。その殺気は圧をかけられる様な感覚を感じる。


「...分かってるわ。それにもしこの事が知られれば、彼も平穏な日々を暮らせなくなる」


「うんうん、良い子だ...んじゃ、今日は後輩達の未来の為に、焼肉パーティだ!」


「...奢ってくれるのなら、行ってもいいわ」


ルンルンと騒ぐ豪木は焼肉屋に走るのだった。

 その頃零夜達も、ファミリーレストランで外食を取っていた。


「零夜!零夜!これとこれ食べて良い?」


「ああ、良いぞ」


 お金がない、いや信じ難いがお金の概念を知らない凛は、ここは零夜が奢ると言った。どうせならの全員分を奢ると言う。


「本当に良いのですか?」


「良いよ良いよ。こっちは使えきれない程の貯金があるから...」


 2つの家の財産を受け継いでいる零夜は、使えきれないほどのお金を持っていた。


「ご飯奢るやつはいい奴。グッジョブ!」


 アイは目をキラキラにして、ぱんぱんに膨れ上がった頬になりながらサムズアップを送る。


「おい、凛。1人で食べ切れるのか?」


「...あの〜2人ともいつの間にか下の名前で呼び合ってませんか?」


 さっきから下の名前で呼び合っている2人に対して、黒恵は気になっていた。


「成り行きだな」


「なら、ボクもアイで良い。零夜と凛って呼ぶ」


「おっけ。アイ」


 アイも零夜と下の名前で呼び合うのだった。黒恵も覚悟を決めて頑張ろうとするが。


「...れ、れ、れい...神楽沙君、今日はありがとうございます」


「?...おう?」


「(とほほ...2人に先越された)」


 やはり、ヘタレな黒恵はいつまで経っても進展する事はなかった。それから、4人は解散となり自分の家に戻ろうとするが、零夜の背後にずっと凛が着いてくる。


「凛って、同じ方面なの?」


「何が?」


「...どこに住んでるの?」


「え?アタシ、零夜の家に泊まれって、豪木が言ってた。どうせ、一人暮らしだからって」


「...え?」


そんな事、聞いていない

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