第17話 呪われた花束

「まさか、呪いが霊閉を使うなんてね。驚いたぞ」


 霊閉れいへいとは、心で描いた理想を構築させ、現実に創り出し守護神を降臨させる先天的に刻まれた最終奥義。扱える者は、ほんの一握りなのだ。


「んで?アンタにとって、俺達は合格か?」


 100人の命の引き換えかえに、零夜達が呪霊少女に勝つ事が条件だった。だが、零夜は手加減すらされていて、彼女にとって零夜達との戦いは、戦いすらになっていなかった。


「個々の実力は充分。あとは最悪って感じ」


「チーム戦って事か...まぁ、これは経験で学ぶしかねぇな...やはり、100人の命を奪うのか?アンタの復讐の為に」


「...いえ、考えを改める。私1人では戦わない。貴方達が、今より更に強くなり、私の復讐に手伝って」


「...分かった。これは縛りだ。呪いと言うアンタが人に危害を加えない事で、俺はアンタの復讐を手伝う。それで良いか?」


「うん。それで、充分...だから、私は貴方の中に、時が来るまで眠っているわ。これなら、私の気配が感知されなく、祓ったと思われるよね」


「俺の中に入るのかよ。プライバシー侵害だな」


「興味ないわよ。彼以外の男性の生活なんて」


 これで零夜と呪霊少女は縛りを付けた。もしどちらかが縛りを破ってしまえば、破った者に重い罰を課せられる。


「でもよ、平将門は今封印されてるんだぞ?どうやって、祓うんだ?もしかして、俺に封印を解かせるとかじゃねぇよな?失敗したら、晴れて俺は大悪党になる」


「大丈夫。私は失敗しない。彼の無念を晴らす為なら、この私自身が鬼になっても構わない...」


「もし、復讐を終えたらどうするんだ?」


「それは未練がなくなって成仏するわよ...あの世で、生前伝えられなかった想いを伝える。彼が好きな赤い薔薇の絵と一緒にね...だから、貴方の血を頂戴。私の絵が完成するわ」


呪霊少女は黒い薔薇のキャンパス画を出した。


「これじゃ、彼の想いじゃなくて、平将門に対しての想いわよ。黒い薔薇って...」


黒い薔薇の花言葉は「憎悪」と「恨み」。 

 これは呪霊少女の、彼を殺した相手に対しての気持ちを表しているもの。彼女のもう一つの未練は、彼に想いを伝える事だ。


「永遠の愛とか決して滅びる事がない愛とかの意味もあるぞ?」


「...ふっ、何?慰めてくれてるの?私も知っているわよ。でも、やっぱり色的に赤の方が縁起が良いし、それに彼は赤い色の方が好みなのよ」


「そっか」


呪霊少女は零夜の言葉に、優しく微笑むのであった。


「ありがとうね。なんか、少し気持ちが晴れた気がする...」


「そう言えば、あんたの名前は?」


 呪霊少女と呼ぶ訳には行かず、零夜は彼女名前を尋ねる。


「私の名前は谷戸やと加奈子かなこ...これはお礼ね」


「?」


 呪霊少女は霧の様に消えると、白い霧の中から人影が見えるのだった。中から現れたのは、奏であったのだ。


。零夜様」


「なんだよ?別にそんなお礼されなくても良いぞ」


婚約者である奏を合わせるのがお礼と考える。

 だが、零夜は六道眼から見た彼女の霊力から、奏と同じ色をしていたのだ。


「...本物?」


「私の事忘れたのですか?」


「いや、あり得ない。奏は成仏したんだ。現世うつしよにはいない...」


「はい、もう居ませんよ。私は零夜様からの記憶から現れた岩倉奏です。なので、本物であって本物ではない存在...ですが、これからの発言は全て彼女の発言でもあります」


全て零夜の記憶の中から、奏と言う女性を再現させた、写本の様なものであり、本物であって本物ではない存在。


「...」


「まだ、信じられませんか?私達しか知らない事でも言います?外出禁止の私に、夜な夜な外に連れ出して、外の世界を見せてくれた事や、私の為に絵の多い書物を持ってきてくれた事や...零夜様?」


零夜は走り出し、奏に抱きつくのだった。


「紛れもない本物だ。さっきの偽物なんかより、ずっと似てる」


零夜は力強くギュッと抱きしめる。


「本当に大きくなりましたね。こんなに健康良く生きてくれてありがとうございます。そして、貴方を置いて逝ってしまい、申し訳ありません」


「謝るべきなのは俺だ。すぐに助けられなくて...」


「私より、家族の方を優先的に助けるのは仕方ありません」


「でも...家族でさえも」


「知ってます。だから、これだけ覚えて下さい。私達は決して貴方を恨んでいません。貴方が幸せに生きているだけでそれで充分です。だから、復讐だけは辞めて下さい。そんな物、誰も望んでいません」


「...」


「知っています。貴方の性格なら...なら、やるなら生きる事を前提にやって下さい」


「ああ」


「ふふ、流石です...あっ、それまだ持ってたのですか?」


 奏は零夜の首のネックレスに付いている2つの指輪を見つける。それは零夜と奏の結婚指輪だった。


「そりゃ、大切なモノだからな...え?」


すると、奏の周りが黄色く光り出す。


「あ、そろそろ時間の様ですね」


「ま、待って。まだ、話したい事が沢山ある!ま、まだ行かないでくれ!」


「ダメだよ。これは約束だもん。時間を守らないと...零夜様、元気でね。ずっと、ずっと愛しています」


「...俺もだ!俺も愛してる」


そして奏は涙を流しながら、笑顔を浮かべる。


「最後に貴方に捧げます」


奏は氷で作った、カスミソウの花束を零夜に渡す。


「これは呪いです。私を永遠に愛す呪い...そして、新たな人を探し、幸せに生きる。貴方の心を埋める人が見つかる為の愛情のろいです」


 零夜が受け取ると、カスミソウは解ける様に零夜の中に入っていく。


「さよなら。私はずっと貴方の中で見守っています...」


 奏は光となり、零夜の唇に触れる様に通り消えて行った。


「ああ、さよなら。アンタの呪いをしかと受け取った...」



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