第8話 初任務

「へぇ〜、元病院にしちゃ、シャレてる設計だな」


 零夜達は廃墟の病院に入ると、よく見る病院の構造とは思えないほど、階段や廊下がぐちゃぐちゃな迷路式の様になっていた。


「本当に下級呪霊なんですか?これって幻想領域...?!」


「幻想領域?なんじゃ、そりゃ?」


 幻想領域とは、呪怪の呪力の力量が多い程、理想の世界を結界空間として顕現させる事が出来る。


「簡単に言えば呪いの結界...下級呪怪が出来る街頭じゃないです...最低でも上級。あの、クソボケ野郎。下級って言ったくせに、これは流石に無理です!引き返しましょう!」


 相手が最低でも上級と知った時、黒恵は来た所を引き返し扉を開けようとする。だが、扉はビクともしなかった。


「壊すか?」


「やってみましょう」


 零夜は拳に霊力を込めて、思いっきり殴るが、ガラス製の扉は壊れる事はない。


「やはり、結果内に入ってしまったら、術者を倒すか、数百倍の霊力で壊すか2択...」


ピリリっ、ピリリ


すると黒恵のポケットから、電話音が鳴る。

 黒恵はすぐに確認すると、着信相手は豪木からだった。


『あっ!出た出た』


「これはふざけてるのですか!私達2人に上級を任せるなんて、流石に冗談が度を過ぎてます!」


『冗談じゃないよ。僕も上からの命令で初めて聞いた時、少しはびっくりしたけど、ここから感じ取れる呪力からすれば、君たち二人でも大丈夫って判断したからね。君達なら祓えるさ。んじゃ、頑張って〜』


「ちょっ、待って...」


電話は切れてしまった。

 怒りによって黒恵は電話を地面に叩きつけるのだ。


「まぁまぁ、落ち着こう。俺ら2人でなんとか出来るレベルって言ってたから、大丈夫でしょ」


「...取り乱してすみません。こんな無茶な事に巻き込んでしまい、申し訳ありません」


「今はここから出る事を考えよう。その、幻想領域を作り出した呪いを見つけて祓わないとね...そんで、領域内に入ったら、まずはどうするの?」


「そうですね。本来、結界で周りの構造を調べたり、式神で先に行かせて調べるのが妥当です」


「...終わったね」


「はい、終わりましたね」


 結界も使えなく、式神も居ない2人にとって、ほぼ詰みな様なモノだった。仕方なく2人は自分の足で調べる事にした。


「神楽沙君」


「あいよ」


 目の前にゴリラの様な二足歩行の呪怪がいた。零夜は銃口を向けて霊力を込めた銃弾を3発放った。

3発とも命中したが、消滅する事なく零夜達の位置に気づき突進する様に走ってくる。


「任せて下さい!天武六式てんぶろくしき嫋羅乃剣じゃくらのけん!」


 拳を手刀に、霊力で大きな刃を作り、ゴリラの呪怪の胴体を真っ二つに斬った。この威力に1番に驚いていたのは黒恵だった。


「(これが、本来の私の力...)」


「おぉ!すげぇ!」


 その威力に零夜も感心する様に拍手していた。黒恵が使った流派は、天武心道てんぶしんどう流。三大流派の一つ、霊力で自信を強化して呪いを祓う。陰陽師はこの流派を取得している者が多いが、それは強式であって、その中で1式から12式まで存在する技で呪いを祓う天賦十二公式が存在する。これを取得出来る者は、天武の師範に認められた者。黒恵が取得している理由は、ある天武師範が気に入らられただけであった。


「この強さ...下級。神楽沙君、敵は一体では無いようです。この弱さで幻想領域を発動する力はないです。本体は他にいます」


「ちょっと、面倒くさくなってきたな。あったから来ない限り、こんな複雑な道を歩くのも朝になっちまうぞ...九條さん?あれ?」 


 零夜は本体がどこにいるのかと、適当に周りを見渡していると、返事が返ってこない事に黒恵の方は視線を戻すとその場に黒恵の姿が見当たらなかった。

 黒恵は幻想領域によって、他の場所に飛ばされ、自分達を離れ離れにされる。


「油断なんてしてなかったのに、いつの間にか私達の空間を無理矢理遠ざけた。早く神楽沙君と合流しないと!!」


カサカサカサ


「傘?」


 黒恵の目の前に紅色の和傘がクルクルと宙に浮いていた。呪怪の仕業だと、すぐに脚に霊力を纏い、蹴り壊した。


「違う?弱過ぎる。これも別なのでしょうか?一体、何体の呪怪が生息しているのですかね...」


カサカサカサカサ

カサカサカサカサ


 その場から離れようとした時、和傘が浮いていた場所から音が聞こえる。そこに視線を移すと、和傘が2つになっていた。青い火の玉が2つ浮き、同時に黒恵を襲いかかる。黒恵は2つとも避けて、浮いている和傘を壊した。


「...なるほど。これはやっかいですね。壊せば2つに分離する仕様ですか...」


壊したはずの和傘が2倍に増えていた。

 4つの和傘がクルクルと黒恵を囲む様に飛び回るのだった。

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