第5話 蘆屋

「右だよ、右右!!」


「っ?!!」


 零夜の脇腹に目掛けて、霊力を込めた蹴りを入れるが、咄嗟に脇腹に霊力を集中させて痛みを和らげる。だが、すぐに視線の先から拳が飛んできて、顔面に直撃したのだ。


「おお!反射速度すごい!」


 すぐに顔に霊力を集中させ、勢いを殺す為に、拳が当たる前に零夜は後ろに下がるのだった。だが、威力を和らげても直撃した零夜は地面に叩きつけられる。


「うんうん!良いよ良いよ!おっと!」


 飛び上がると同時に、蹴りを飛ばす。零夜は立ち上がり、豪木と激しい組み手を交わす。


「(うーん、剣術は凄かったけど、まぁまぁ良い線は行ってるけど、体術は型がめちゃくちゃだな。まるでヤンキー君の喧嘩だぁ...流派はないかな?こんなめちゃくちゃな体術は)」


「おっ?!今の危ないね」


 零夜は地面や壁を蹴りながら、豪木の周りを走り飛び回る。次の攻撃を悟られないように飛び回りながら、打撃を放つが全て避けられてしまった。


「死ね」


 自身の手首を掴み、剣のように扱い手刀から霊力で作った刃ができ、豪木に向かって斬りつける。だが、豪木はギリギリに避けて背中を向かって蹴りを入れる。


「うん、もう良いよ。【結界術と式神術を見せて欲しいな】」


 蹴りによって吹き飛ばされた零夜は、地面に激突する前にくるりと受け身を取る。


「んなもん、ねぇ!!」


「え!マジ?それは結界術と式神術をどちらも扱えないのは、陰陽師として恥みたいなものだぞ?」


「ぐっ」


「あっ、あっちにももう1人居たんだ」


豪木の言葉に刺さった黒恵がいた。

 黒恵も少なかった霊力量から結界を扱う事が出来なく、式神と契約する事が出来なかった。だが、それは今黒恵の中にいる取り憑いている式神の原因だった。


「なら、試験は終わりかな?ある程度は...んんっ?待て、よくよく見たら、その瞳って六道眼か!神楽沙ってどっかで聞いた事あると思ったら、あの化け物一族の名前か!」


「あ?知ってんのか?」


「知ってるも、何も...まぁ、その話は良いや。君の父と母親の名前を聞きたい」


「は?それって関係あるのか?...まぁ、父が神楽沙徳敏のりとし、母が蘆屋あしや由亞ゆあだけど」


「?!!...あっははは!マジかよ!!あの女の息子だったのかよ!結局徳敏とくっついた訳かよ、化け物2人の間に生まれた怪物に会うなんて。なら、君はって訳か」


「はぁ??さっきから何言ってんだ?」


「(なら、あの腕に憑いているゴッツイのは...12年前に盗まれた...そうか、こいつが...)」


「九條ちゃん...君、とんでもない男を連れてきたね。こりゃ、陰陽師界も荒れるぞ」


 豪木は2人に聞こえない様に呟き、ニヤリと笑うのだった。そして試験が終わったと確認した黒恵は2人に近づく。


「あ、霊開は使えるの?」


「一応。霊開」


 霊開とは、基本的には才能を持った者にしか扱えない。陽公術と陰公術を結合させ、特殊能力を発動させる。基本的には1人につき、1種の霊開しか扱えないと言われている。特殊能力は、遺伝によって受け継がられるのもあるが、自分で新しく作り上げたモノもある。


「おお!流石だ」


「(本当に由亞ちゃんの息子なんだな。これは、あの女の霊開だ)」


 人差し指と中指を立てると、影の球を作り出す。豪木をそれを見て、懐かしそうな表情を浮かべる。


「どうです?」


 今回の試験で合格かと、黒恵は恐る恐る聞き出すのだった。


「問題のない合格だよ」


「え?!本当ですか?!!


「うんうん!この僕が花丸合格を与えるよ。ちょっと待っててね。今点数を記入するから」


 豪木は机の上にある紙を手に取り、スラスラと何かを書き出す。


「はぁい、試験の点数」


ーーーーー

神楽沙零夜


身体能力10.0 反射8.5 精神6.0


剣術9.5 体術5.5


陽公術8.0 陰公術9.5


結界術0.0 式神0.0 霊装術7.5


64.5/100.0

ーーーーー


「ちなみに、50点以上が合格だよ。もうちなみに、九條ちゃんは52点とギリギリの点数だったよ」


「私の点数は言う必要はないじゃないですか!!」


「てか、どうやって陽公術と陰公術を調べたんだ?」


「簡単だよ。君、僕に向かって霊力を込めた組み手をしたじゃん?その時に君の霊力を調べさせてもらったんだ」


「そんな事出来るのか?」


「それが、出来るんだよ。この僕がね」


「...そうか。まぁ、約束は守ってもらうぞ」


「へ?」


「ココ、気づいていなのか?」


「ん?...あ!!」


 零夜が自分の腕にチョンチョンと指を指すと、豪木は指された場所と、同じ所を自分の腕を確認すると小さな切り口があった。ほんの少しどが、血が垂れていた。


「あっ!もしかして最後の攻撃か!霊力の刃の中に模擬用の砕けな刀の刃を僕の視界外から投げたな!」


「正解。確かに今の俺じゃアンタには勝てない。だが、次は勝つ。絶対に」


「今日はありがとうございます!」


「ほんっとう、親子そっくりだな。負けず嫌いな所が。負けたからって少し拗ねる所が、本当に似てるな!」


 部屋を後にした零夜を見て、昔を思い出し、思わず思い出し笑いをする。


「さてと、もう器としては上位の陰陽師として匹敵する。あとは経験を注ぐだけだ。あれは怪物になるぞ...それに、九條ちゃんの呪いを肩代わりした事に、本当の九條ちゃんの霊力の質を見れたが...アハっ、あれがコンビになると考えるとゾッとしちゃうよ。良いねー、速く強くなってもらわないと、今の腐った陰陽師の世界を変えて貰わないとね」


 楽しそうに笑う豪木の目的を知らずに、零夜達はビルを後にする。


「ライセンスとちゃんとした説明は、また後日だと思います。今日はせっかくの休日を、私の為にお使いしてくれてありがとうございます」


「いや、陰陽師になるって言ったのは俺だからね。むしろ、俺から感謝したいものだ。俺は晴れて陰陽師って訳だ。これからもよろしく頼むよ、先輩」


「先輩として負けられないな。絶対、私も神楽沙君の横に立てるぐらい強くなって見せますよ!それでは、今日はありがとうございます」


「...え?」


「え?」


「いや、てっきりこの後遊ぶかと思った」


「...へぇ!?い、良いのですか?」


 もう、解散して帰ると考えていた事に、少し寂しい思いをしていた黒恵にとって、嬉しい言葉が飛んでくる。


「もし、暇なら。遊びに行かない?」


「...はい!」






〜〜〜〜〜〜〜

5年間陰陽師として鍛えられた場合の平均点数


身体能力5.0 反射5.5 精神5.0


剣術5.5 体術5.5


陽公術3.5 陰公術6.5


結界術5.5 式神4.5 霊装術4.5


51.0/100.0

ーーーーー


 あくまで平均点数であり、殆どの陰陽師は剣術、体術、結界術のどれかが点数が高く残り2つが低いのが多い。


ーーーーー

九條黒恵


身体能力7.0 反射8.0 精神7.5


剣術2.5 体術10.0


陽公術5.0 陰公術5.5


結界術1.0 式神1.0 霊装術4.5


52.0/100.0

ーーーーー

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