第4話 試験

「神楽沙君!」


「すまねぇ。結構待たせちまったか?」


「いいえ、約束の時間通りですし、それに私も今来た所ですよ」


 土曜日に2人は歌舞伎町に集まる。黒恵は零夜を陰陽師に推薦すると、陰陽協会に報告して、そのテストを行うらしい。本来は下級陰陽師からの推薦は認定されないが、九條家の者は無視出来ないと、試験を受けられる様にしてくれた。


「九條さんの、私服初めて見たけど...似合ってて可愛い」


「か、可愛い...神楽沙君って意外とヤンチャさん?」


 可愛いと言われた黒恵は嬉しそうになるが、スッと可愛いと言える事に、他の人に言い慣れてるじゃないかと、ジト目で見るのだった。


「歌舞伎町に会場があるのか?」


「はい。まぁ、地下にありますが」


 少し歩いていると、何も変哲もないビルの入り口に辿り着いた。ビルの中に入り、エレベーターに乗ると、黒恵はカードを取り出し、カード入れにはめ込み、7と5を同時に押したのだ。

 地下2階までしか表示されて居ないのに、地下3階に降りるのだった。


「ここが、試験会場になります。私は横で見ているので、試験監の指示に従って下さい」


「やぁやぁ。君が九條ちゃんの彼氏かい?」


「か、彼氏?」


「ちょっと、何回言えば分かるのですか?!土御門さん!彼氏ではなく、クラスメイトです!」


「でも〜、彼の事話してる時...」


「うるさい!!」


「痛っ!」


 髪は黒い短髪に、着物を着ている男に向かって手提げバックを投げ飛ばした。


「あはは、今日は宜しくね。僕は土御門つちみかど豪木ごうき。これでも日本に3人しかいない、天極級陰陽師だよー」


「天極級って、1番強い奴らじゃん。すげぇー、そんな有名人に会えるなんて。そんな人が俺の様な訳の分からん人間の為にわざわざ来てくれたのか?」


「いや、普通に暇だったんで。それに、九條ちゃんが珍しく頼んで来たからね、ちょっと面白そうだったから、引き受けたんだ」


「私が陰陽師の中で1番信用できる相手です」


「そうそう。だから、期待して下さい!あの、九條ちゃんに信用と尊敬されている、この僕が担当するからね」


「いえ、信用はしてますが、尊敬はして居ません」


「...」


「速く初めて貰って良いですか?」


「...はい」


 少し泣きそうになる豪木は、大きめな空間に案内をされる。


「本来は色々とやるんだが、正直言って面倒だ。僕と戦う事を試験にする。安心したまえ、多分この方法は上が納得いかないかもしれないけど、僕が何とかするから、全力で来たまえ」


「はぁー、武器は使って良いんですか?」


「良いよ!刀で良い?」


「はい」


「九條ちゃん。模擬用の刀渡しちゃってちょうだい」


「分かりました」


 黒恵は壁に掛けられている刀を手に取り、零夜に渡した。零夜は軽くストレッチを始める。


「それで、アンタは武器は使わないのか?」


「え?僕が試験に武器使っちゃったらダメでしょ?危うく殺しちゃうよ?あ、【怒る?】」


「...」


零夜は豪木を睨みつける。

 少し怒らせてしまった事に手を合わせて、ウィンクしながら、可愛いらしく舌を出し詫びる。


「あ!ごめん?怒った?でも、事実なんだ。驚きなんだけど、霊力量は君の方が僕より遥かに上回っているけど、実力は僕の方が千倍強いね」


「そうですか。まぁ、始めましょうよ。試験監督を倒しても構わないんですよね?」


「無理だけど、良いよ!あ!なら、こうしよう、もし僕に一撃でも当てたのなら、一つだけ何でも聞いてあげる」


「一撃も当てられなかったら?」


「特にないよ。どうせ、無理だから」


「あっそう」


「うんうん!なら、初め!」


 開始の合図と共に、零夜は飛び込み刃を土御門の首に目掛けて飛ばした。だが、豪木は2本の指でピタリと止めた。


「おおー!速い!それに重い!!」


「(霊力を感じないって事は、素の身体能力で、僕のほんの少しの霊力を込めた身体能力を上回るのか...怪物かな?)」


「まずは剣術から見てみようか」


「マジかよ」


自分の剣を止められた事に、零夜は純粋に驚いた。

 豪木は敢えて刃から手を離し、零夜に次の攻撃を待った。無数の光の剣筋は豪木の周りを舞うが、全て2本の指で弾き返す。


「ふむふむ、大体は分かった。【流派があるなら、見せてくれない?】」


「さっきから、舐めた態度をとりやがって... 弥生やよい餓狼天がろうてん!」


 一振りで、地面を抉りながら前方へ向かう5つの斬撃を豪木に飛ばす。少し驚く豪木は、すぐさまにニヤリと笑い霊力がこもった2本の指から霊力の刃が伸び斬撃を受け止めた。


「チッ、普通の刀じゃ耐えきれないか」


 今の一撃を放った事に、刀は耐えきれなくなり、刃が粉々に砕ける。


「うんうん!良いね!刀も壊れた事だし、次の科目を採点してみようかな」

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