第3話 陰と陽

「どうやって肩代わりするのですか?」


「簡単だよ。俺達の魂を繋げる霊法術を使うんだ」


 霊法術とは、霊力を浴びるだけではなく、流れを理解して、術式を発動させるモノ。霊法術には陰公術いんこうじゅつ陽公術ようこうじゅつが存在する。


陰公術いんこうじゅつとは、身体エネルギーから出来て居て、主に身体能力の強化。攻撃力や防御力を上げたりする。


陽公術ようこうじゅつとは、精神エネルギーから出来て居て、主に細胞の強化。怪我の再生能力や精神力が上がる。


「それって禁術では?」


 禁術とは、使うと術者が死ぬ恐れがある、倫理的に問題がある、都市が壊滅する恐れがあるモノを禁術と認定される。魂を使った霊法術は全体的に禁術扱い。


「それに、魂を繋げるだけで、肩代わりにする事は出来るのですか?」


「うん。まぁ条件はあるけど。繋げる相手との霊力量が数十倍の差があると、量が多い方に優先的に肩代わり出来るんだ。気を悪くさせてしまったらごめんね?俺と九條さんとの差は10倍以上もあるんだ」

 

 魂を繋げる行為は、お互いの霊力量が繋がり、2人分の霊力量を扱うメリットがある。だが、デメリットはどちらかが怪我をすれば、もう一方にも同じ怪我をし、どちらかが死ねばもう一方も死んでしまう。だが、結んだ相手との霊力量が10倍以上の差が開いていると、多い方が怪我をしても、少ない方に影響がない。だが、少ない方が怪我をすれば、多い方は同じ怪我をする。


「それだと、神楽沙君。危険すぎませんか?私は陰陽師なので、結構怪我する事が多いのですよ?」


「だからだよ。俺の霊力を使えば、怪我の治りが速くなる」


「でも...」


「大丈夫だよ。俺は魂を結んでいない人を治癒するのは出来ないけど、自分自身の治癒は得意なんだ。俺は九條さんが怪我する方が嫌だ」


「...それってどう言う意味ですか?」


最後の言葉を聞いた黒恵はドキドキと心臓を鳴らす。それってもしかして彼は自分の事を...


「友達だから、あまり酷い目には合わせたくない」


「...さっきの言い方ズルいです」


 勝手に期待したのは自分だと分かっているが、期待した答えと違った答えを聞いた時、頬を膨らませるのだった。


「どうする?する?」


「...やはり、辞めときたいです。私が任務中に怪我した時に、普通に過ごしている神楽沙君に迷惑かけてしまいます...」


「なら、俺も陰陽師になろうか?」


「え?」


「俺も陰陽師になって、一緒に任務を受ければ、安心だろ?」


「でずが...」


いや、神楽沙君が陰陽師になれば、実力的に上級以上。人手が足りない状況、神楽沙君と任務を受ければ、被害を抑えられる。


「分かりました。なら、私から紹介します」


「オッケー。なら、紹介お礼として俺が肩代わりす。期間は、式神と正式に契約した時までで良いね?」


「はい。本当に申し訳ありません。色々と助けて頂き...」


「アハハ、助けてもらってるのは、むしろこっちだよ。いつも、学校で俺らを気にしてくれたりしてありがとうね。始めるよ」


零夜は人差し指を中指の背に付けて印を結ぶ。

 零夜は自身の心臓部分に触れると、魂の線が伸びて黒恵と繋がった。


「あれ?」


 すると黒恵は、今まで感じた事がない霊力が溢れ出てくる。これが本来、自分の霊力量だと分かった。だが、それ以上に零夜の霊力も流れてきて、より多く霊力量を所持する事になる。


「神楽沙君...貴方って一体...」


 自分の式神であろう者から、そして自分から零夜の霊力を吸い上げているのにも関わらず、零夜に流れている霊力が弱まる様子が見えない。


「...マジか」


だが、零夜の方も違う事で驚いて居た。


「複数感じ取れると思ったら...前鬼と後鬼じゃねぇか」


「それが私の式神なんですか?」


「ああ。こりゃ、魂を繋げて正解だったぞ。ここまでデカい式神だとは思わなかった。あと数年したら死んでた所だ」


「え?!!」


 自分に取り憑いている式神のせいで、あと数年の命だと聞かされた時は、物凄く驚愕した。


「鬼系の式神は、強力な上に制約が色々と厄介だからな。まぁ、使えこなせば、九條さんに勝てる陰陽師は少なくなる...あ、お茶のお代わり持ってくるね」


 黒恵のコップの中身がなくなっている事に気付いた零夜は、新しくお茶を注ぎに行くのだった。


『なんで、そこまで良くしてくれるのですか?』


「...」


フと黒恵の質問が頭によぎる。


「全然似てないのに...九條さんを見てると、アイツを思い出すんだよな...」

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