第2話-2 工藤の独白

 サイレンが鳴っている。どうやら怪獣が出たらしい。今日は僕の担当じゃないからでなくていい。怪獣と対面しなくていいというのは本来喜ばしいことなのだろう。僕も心の中では安心を感じている。でも、心の片隅には焦燥感に似た、複雑な感情が、小さく、ほんの小さく生じている。僕が出撃したかった。そんな考えが、小さな感情から生まれてくる。僕は自殺志願者なのか? ……いや違う。初めて怪獣と対峙したとき、背筋が凍るような思いがあった。あれは本当かどうかわからないけど、死に対する恐怖だったと思う。……本当はわかっているんだ。自分が称賛されたくて怪獣と戦っていることを。自分が誰かに認められたくて怪獣と戦っていることを。特戦機の乗ることがただ楽しいだけだということを。でもそんな考えは否定されるべきなんだ。怪獣が現れると人が死ぬ。そんな災厄の象徴であるはずの怪獣と戦っている自分は高潔な、誰かのためにという思いで戦わなくてはならないはずだ。でもそんな高潔な思いは僕の心の底からは湧き上がってこない。クソッ、こんな僕はいていいのか? こんな人間が戦っていいのか?

 小さな心の揺らぎが、大きくなっていく。僕はそれを見なかったことにして、パイロットスーツに着替えた。

 またシミュレーションしよう。強くなるために。誰かを助けるために強くならなくてはならないのだと自分に言い聞かせて。

「あ、工藤君。またシミュレーション?」

「は、はい。そのつもりです」

「ちょっと待っててね」

 自分の機体に七瀬さんがいた。また機体のチェックをしてくれていたのだろう。

 七瀬さんが下りて、すれ違いざまに声をかけてくれる。

「いつも頑張ってるね。ありがとう。私たちのために」

 そういわれて少し、心が温かくなる。でもごめんなさい。みんなのために頑張ってるんじゃない。自分のために頑張ってるんだ。こんな汚れた人間でごめんなさい。

 乗り込んで個人認証カードを挿入、起動させる。

 そういえば今日の怪獣はどんなデータなんだろう。アップロードされているはずだ。それを見つつ、交戦記録をみて、もし自分が戦ったらという想定で動こう。

 あれ? まだ交戦記録が出てない。まだ戦っているのか。じゃあ中継映像を見よう。多分、リアルタイムで送られてきているはずだ。

「え? ちょっと……」

 送られている映像を見て顔がこわばる。

 そこには大きく映し出された怪獣の顔が。この体勢は組み伏せられているのではないだろうか。

 僕の手に汗がにじんだ。

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