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 夏休みになった。だが、望はいつもと様子が違う。望は中学校3年生だ。いよいよ高校受験が迫っている。今のうちに勉強をしておかないと、専願の高校に行けないと思って頑張っている。そのために、あまり外で遊ばずに、頑張っている。俊介や安奈、明日香も俊作も知っている。今年は受験だから、勉強ばかりの夏休みになりそうだ。


 今日も望は机に座って勉強をしていた。入試の過去問題集や、暗記本、問題集を買ってきて、毎日頑張っている。そんな望の様子を、4人は頼もしそうに見ている。


「どう?」


 望は振り向いた。そこには安奈がいる。安奈はアイスを持っている。たまには甘いのを食べてリラックスしてはどうだと思っているようだ。


「順調だよ」

「大変だけど、頑張ってね」


 安奈は望の机の上にアイスを置いた。


「うん」

「みんな経験している事なんだから」


 確かにそうだ。4人とも、高校受験は経験している。俊介は大学受験も経験したらしい。自分もいよいよ受験を考える時が来たんだなと感じている。


「そうだね」

「望、頑張ってね」

「うん」


 望は背伸びをして、アイスを食べ始めた。少し休んでから、また勉強をしよう。たまには休憩も大切だ。


「俺も去年は大変だったな」


 入れ替わるように、明日香と俊作がやって来た。2人は望の受験勉強の妨げにならないように、リビングでテレビゲームをしていた。


「うん」

「私も!」


 明日香も経験しているのか。自分もいよいよその時が来たんだなと痛感している。家族のためにも、受験を頑張らないと。高校受験は自分の人生にかかわってくる重要なイベントに違いない。


「そしてみんな頑張る事を覚えるのかな?」

「そうかもしれない」


 と、俊作は気になっている事がある。最近、作業風景を見に来ることがないのだ。おそらく、受験が原因だろうけど、栄作が心配していた。


「それに、最近大将のところに行ってないみたいじゃない」

「うん。受験勉強優先だもん」


 望は決めていた。受験勉強が終わり、入試の結果が全て出るまでは作業風景を見に行かない。


「確かに。その心意気、いいね」

「ありがとう」


 だが、望は思っていた。最近、テレビゲームをしていない。受験のためだとは言うけれど、テレビゲームができないのがつらいと思っていた。だが、それを乗り越えて人は成長していくんだろう。そう思うと、今は我慢の時だと感じる。


「あー、ゲームしたいなー」

「だけど、頑張ろう」

「うん」


 と、俊作は望の肩を叩いた。望は驚き、気合が入った。


「みんな経験するんだ。頑張ろう」

「わかってるよ」


 望は再び受験勉強を始めた。だが、なかなか進まない。この問題がなかなかわからないのだ。このままでは高校受験で失敗しそうで怖い。


「うーん、どうしよう」


 そこに、俊作がやって来た。俊作は高校1年生で、クラスで評判の優等生だ。


「悩んでるの?」

「うん」


 望は指をさした。そこには、とても難しい数学の問題がある。望は数学が苦手で、定期テストであまりいい点を取っていない。


「ここがわからないんだよ」


 すると、俊作はいとも簡単に解いた。これが高校生なのか。望は開いた口がふさがらなかった。


「これは、こうすればいいの」

「ありがとう俊作兄ちゃん」

「どういたしまして」


 俊作は少し笑みを浮かべた。ほめてもらって嬉しいようだ。


「僕の受験勉強もそうだったな。お姉ちゃんにお世話になったっけ」

「そうだったんだ」


 俊作の場合、わからない所があったら、明日香に聞いていたようだ。まるで今さっきの自分に似ているな。


「そして今度は僕が望に教えているという」


 俊作は苦笑いをしている。自分と同じように教えてもらっているからだ。まさか今度は望に教える立場になるとは。


「明日香姉ちゃんはどうだったの?」

「お母さんに教えてもらったんだ」


 明日香は母に教えてもらったようだ。母は優しいし、頼りになるな。これからも何か悩んでいる事があったら、母に相談しようかな?


「そうなんだ」

「私もあの時は大変だったな」

「そうなんだ」


 ふと、望は気になった。東京で食べた、あのセルフうどんの事だ。まるで本物の香川県民が作っているように見える。うどんチェーンがここまでできるとは。それとも、本物の香川県民が作っているんだろうか?


「どうしたの?」

「修学旅行で食べたうどんチェーンが気になってね」


 どうしてそれを考えているんだろう。セルフうどんチェーンよりも、池辺うどんが、本場の讃岐うどんがいいに決まっているのに。


「どうしたの?」

「なぜか大将の味に似ててね」


 望は思った。どことなく、栄作が作っている讃岐うどんに似ているような気がする。どうしてだろう。まさか、親族が作ってるんじゃないだろうか? 栄作にはもう何年も会っていない本当の息子、薫がいる。薫は東京の刑務所にいたそうだが、もう出所しているらしい。まさか、薫が作った讃岐うどんなんだろうか?


「そうだったんだ。どうしてだろう」


 俊作も気になった。望がこんなに気になるのなら、何かがあるはずだ。また今度、調べてみたいな。ひょっとして、栄作の身内かもしれないから。

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