29
望は2階で、夜空を見ていた。今頃、死んだ本当の両親は僕を見ているんだろうか? 今までの成長を見てきたんだろうか? 全く会った覚えがないけど、どんな人だったんだろう。
「父さんの事、どう思ってる?」
望は振り向いた。そこには俊作がいる。話しかけたのは俊作だ。
「僕の父さんって、もう死んじゃったんでしょ?」
「いや、生きてるよ。うどん屋の・・・」
それを聞いて、望は何かを感じた。栄作が本当の父じゃない。育ての父だ。あれだけ父だと思ってきたのに、それは嘘だった。
「あの人はお父さんじゃないんでしょ?」
「詳しく言うとそうだけど、望を育てたのは大将だから、あの人がお父さんだよ」
だが、望は全くそうと思えない。生んだのは栄作の妻じゃないのに。どうしてそれが言えるんだろう。おかしいじゃないか。
そして、望はある事を考えた。だが、誰にも話そうとしない。
「うーん・・・」
望は何かを考えているようだ。俊作はそれが気になった。その理由を聞いてみようと思った。
「どうしたの?」
「何でもないよ」
「そっか」
だが、それでも望は何かを考えている。どうしたんだろうか?
「どうしたの?」
「あの人、お父さんじゃないんだよね」
望は、栄作が本当の父じゃない事を少しずつ受け入れていた。ここまで父だと言ってくれて、ありがとうと思っている。
「そうらしいね」
「ショックだった?」
俊作は思った。今さっき、ショックを受けていたみたいだが、もう大丈夫なんだろうか? 明日から元気に小学校に行けるんだろうか? もし大丈夫なら嬉しいが。
「ショックだったけど、今はもう大丈夫」
「本当?」
ふと、望は思った。みんな、栄作の事を大将と言っているんだから、僕も大将と言おうかな? 本当の父じゃないんだし。
「今度から大将と言おうかな?」
「大将か・・・。みんなからそう言われてるからね」
俊作は少し戸惑ったが、みんなからそう言われているんだから、いいじゃないか。どう呼んだって、自由だから。
「いいでしょ?」
「別にいいんじゃない? みんなから言われてるんだから」
俊作は笑みを浮かべた。まさか、望も大将と言うとは。みんなから尊敬されているうどん職人だなと思った。
「そうだね」
「大将か・・・。望くんも池辺うどんに就職したら、いつかそう言われる時が来るのかな?」
俊作は思った。将来、池辺うどんに就職する事になったら、そこでの呼び名も対象になるんだろうか? それとも、今まで通りに父さんと言うんだろうか?
「そうかもしれないね」
気が付けば、もう午後10時だ。もう寝る時間だ。
「もう寝よう」
「おやすみー」
「おやすみ」
3人は明かりを消して、ベッドに横になった。明日も小学校だ。しっかりと寝て、明日に備えよう。
その下では、3人の様子を俊介と安奈が見ていた。望は果たして大丈夫だろうか? 立ち直ったんだろうか? 明日は小学校に行くんだろうか? 不安でたまらない。
翌日、望はいつものように小学校に登校した。ショックから立ち直ったようで、今まで通りの明るい表情だ。それを見て、俊介と安奈は安心したという。これにて一件落着といったところだろうか?
その頃、栄作はいつものようにうどんの生地を踏んでいた。この頃になると、望が見に来るだろう。だが、本当に来てくれるんだろうか? もう来ないのでは? 栄作は不安になっていた。
「さて、そろそろだな」
その時、望がやって来た。どうやら立ち直ったようで、いつもの表情だ。それを見て、栄作はほっとした。
「おう、来たのか」
「おはよう、大将」
栄作は驚いた。父さんと言わずに、大将と言うとは。栄作は少し驚いたが、みんなから大将と言われているんだから、すぐに元の表情に戻った。
「えっ、大将?」
「お父さんじゃないんでしょ?」
望は少し笑みを浮かべている。栄作は戸惑っている。父さんじゃないのは事実だけど、育てたのは栄作だ。
「そ、そうだけど・・・」
「じゃあ、大将って言ってもいいよね」
「好きにしろ!」
栄作は少し苦笑いを浮かべている。確かにみんなから大将と言われているけれど、俊作同様、こんな子供からも大将と言われるとは。
「えへっ・・・。行ってきまーす」
「行ってらっしゃい」
望は通学団の集合場所に向かっていった。栄作はその後ろ姿を見ている。また元気に小学校に登校していく。どんな大人になってでもいい。ただ、本当の息子、薫のようにはなってほしくない。
望と入れ替わるように、俊介と安奈がやって来た。今さっきの会話を聞いていたようだ。
「はぁ・・・」
「どうしたの?」
栄作は驚いた。まだ、出勤時間ではないのに、2人がやって来たからだ。どうしてこんなに早く来たんだろうか? まさか、望が今日から大将と言い始めたので、言いたい事があるんだろうか?
「あの子、これから大将って言うらしいよ」
俊作も苦笑いしている。まさか、自分だけではなく、望も大将と言うようになったとは。
「へぇ、いいじゃない。いつかここで働くようになったら、そう言うのかもね」
「そうだろうな」
栄作は思った。もし、ここに就職するようになっても、大将と言うんだろうな。そして、自分を尊敬するようになるんだろうな。そんな望の未来に期待したいな。
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