28
翌日、いつものように望は小学校から帰ってきた。だが、望は落ち込んだままだ。小学校ではいじめられてはいないものの、栄作が本当の父じゃないという事がいまだに信じられない。これからどうやって栄作と付き合えばいいんだろう。この先、どうすればいいんだろう。全く答えが見つからない。
「ただいま・・・」
「おかえり、大丈夫?」
玄関から家の中に入ってきた望に、安奈が話しかけた。だが、望の表情は変わらない。安奈は心配している。どうしたら元の望に戻るんだろう。このままでは、継いでくれないかもしれない。そして、池辺うどんは栄作の代で終わってしまうかもしれない。もう池辺うどんは終わりだろうか?
「まぁまぁ」
望は元気がなさそうだ。誰が見ても、そう思えるような表情だ。
「そっか・・・。早く元気になってね」
安奈は望の肩を叩いた。望は少し顔を上げた。だが、望の表情は変わらない。
そこに、2階から俊作がやって来た。俊作も望を心配しているようだ。このままでは一緒に遊べない。望と一緒に遊べるのがとても嬉しいのに。
「大丈夫かなぁ」
望は下を向いたまま、2階に向かった。3人はその様子を、不安そうに見ている。なかなか元に戻らない。どうすればいいんだろう。全くわからない。安奈は気になった。栄作はどう思っているんだろう。早く望が立ち直ってくれないだろうか? 将来が不安でしょうがない。
と、インターホンが鳴った。今度は誰だろう。すでに5人とも帰って来たのに。まさか、栄作だろうか?
「はーい」
俊介は扉を開けた。そこには栄作がいる。自宅にいると思われたが、まさかここに来るとは。望に話したい事があるんだろうか?
「大将・・・」
「望の事が気になって」
栄作は硬い表情だ。栄作も悩んでいた。早く立ち直ってほしい。また元気になってほしいと思っているようだ。
「相変わらずだわ」
「毎朝、見に来てたんだけど、あれ以来全く来なくなって」
栄作は心配していた。毎朝、作業場に見に来てくれるのに、ここ最近全く来てくれない。やはり、あの事がショックだったと思われる。
「心配なの?」
「ああ。継いでくれると信じてるんだが、不安だな」
栄作は不安になっていた。この子なら店を継いでくれると思っていたのに、先日の事で落ち込んでしまった。継いでくれないんじゃないかと不安になった。
「本当だね」
「ちょっと話そうかな?」
「うん。いいけど」
栄作は2階に向かった。2階には望がいるはずだ。話したい事があるので、知らせに行ったようだ。
その頃、望は勉強をしていた。望は暗い表情だ。テレビゲームをする気分じゃない。まだ立ち直っていなかった。
突然、ドアをノックする音が聞こえた。誰だろう。望はドアを開けた。そこには栄作がいる。いつもの硬い表情だ。
「望、話したい事がある」
「はい・・・」
2人は1階の座敷に向かった。話したい事って、何だろう。望は興味津々だ。
望は座敷に入った。そこには栄作がいる。栄作は緊張した表情だ。2人は向かい合わせに座った。望も緊張している。
「大丈夫か?」
「うーん・・・」
望は落ち込んでいる。栄作はとても気にしている。
「元気出せよ。望は俺が育てたんだから、俺の子だ。わかってるな」
「でも、本当の子供じゃないんでしょ?」
望はいまだに言っている。自分が育てたから、うちの子だと言っているのに、どうしていまだにそう思っているんだろう。
「そうだけど、俺の子だ。わかってほしいんだ」
「でも・・・」
突然、栄作は望の肩を叩いた。望は驚いた。何か重要な事を言いたいんだろうか?
「いいか。父であることは偽りだが、うどんの味に偽りはないんだ」
「えっ・・・」
望は呆然となった。これまで栄作が与えてきた愛情にも偽りはない。なのにどうしてそんな事で悩んでいたんだろう。本当の両親がいなくて、違う男に育てられたのに、どうしてそれだけで悩んでいるんだろう。今まで悩んでいた自分が恥ずかしく思えてきた。
「それだけ言いたかったんだ。じゃあな」
栄作は帰ろうとしていた。それを見て、望は立ち上がった。
「あの・・・」
栄作は振り向いた。何か話したい事があるんだろうか?
「どうした?」
「お父さんじゃないんだったら、大将って呼んでいい?」
栄作は驚いた。従業員から大将と言われているけど、まさか望からもそう言われるとは。栄作は少し戸惑ったが、すぐに元の表情になった。
「どうでもいいよ」
「ありがとう」
栄作は家を出ていった。それと入れ替わりに、俊介がやって来た。2人の話を聞いていたようだ。
「大将って・・・」
「いいじゃない。おじさんもおばさんもそう言ってるんでしょ?」
2人は苦笑いしている。まさか、こんな子供にもそう言われるとは。
「そうだけど・・・」
望は元気に2階に戻っていった。先ほどと表情がまるで違う。すっかり立ち直ったようだ。これにて一件落着といったところか?
「少し元気が出たみたいだな。また明日、見に来てくれるのかな?」
「わからないけど、きっとまた見に来てくれるだろうな」
2人はそんな望を温かく見守っている。これでまた明日、作業場を見に来てくれるだろう。
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