24

 望はいつものように小学校にやって来た。望は周りの視線が気になった。先日の体験学習で何か言われないだろうか? 話しかけてこないか、気になっていた。


 と、そこに同級生の鈴木がやって来た。


「私、あの店、行った事あるんだ。何時間も並んだんだけどね」

「夏休みとか、行列がとても長かったもん」


 望は知っていた。あのときの行列はすごかった。あの店は本当に人気なんだな。これだけの行列ができるのは当たり前だな。


「全国からやって来るからね」

「全国からって、そんなに有名だとは」


 鈴木も知っていたんだ。この店はこんなに有名だとは。望は改めて、栄作のすごさを知った。


「香川県で一番おいしいって言われている店だから」

「噂で聞いたんだけど、やっぱりそうなんだね」


 望は外を見た。よく見ると、池辺うどんが見える。今はまだ開店前で、行列ができていない。だが、開店する11時の1時間ぐらい前になると多くの人が集まり、行列ができるだろう。


「聞いた事あるの?」

「うん」


 と、鈴木は思った。望はうどん作るのがうまいんだから、ここを継げばいいのに。もし継いだら、望の作るうどんが食べたいな。


「将来、あそこでうどん作ってよ」

「うーん・・・」


 だが、望は言おうとしない。あまり言わないようにしているようだ。


「どうしたの?」

「まだ先は決まってないから」

「そっか。でも、望くんに似合ってるんじゃないかなって」


 鈴木はちょっと照れた。似合っていると思ったのにな。


「そうかな?」

「きっと似合ってるよ!」


 と、そこに先生がやって来た。それを見て、生徒は席に戻った。


「あっ、もうすぐ授業だ!」


 先生は教卓に立った。先生は真剣な表情だ。


「起立! 礼!」

「おはようございます」


 と、先生は望に視線を送った。先日のうどん打ちの事で、望に注目しているように見える。望は少し照れた。


「ど、どうしたんですか?」

「あっ、ごめんごめん。何でもないよ・・・」


 だが、先生は話そうとしない。だが、望にはわかっている。きっと、うどん打ちの事だろう。




 そんなある日の夜の事だった。望はいつものように寝ていた。明日は休みだ。しっかりと寝て、小学校での疲れを取ろう。そして、みんなとゲームをしよう。望は夢を見ていた。いつか、ここで池辺うどんで働き、うどんを作る事を。


「望・・・」


 誰かの声で、望は起きた。そこには栄作がいる。どうしたんだろう。どうして呼び出したんだろう。望は首をかしげた。


「ちょっと来い」

「はい・・・」


 言われるがままに、望は栄作についていった。こんな深夜にどうしたんだろう。まさか、池辺うどんに連れて行かれるんだろうか? またうどん作りを見学するんだろうか?


「ん? どうした?いいから来なさい」


 栄作は望の表情が気になった。どうして戸惑っているんだろうか?


「はい・・・」


 2人は家を出て、池辺うどんに向かった。やはり池辺うどんに向かうんだ。また見学だろうか? それとも、俺の前で作ってみろというんだろうか?


 2人は店内に入った。客室は暗くて、厨房だけが明るい。先日見た深夜の作業風景と一緒だ。


「どうしたの?」

「お前、うどん作りたいと思ってるのか?」


 望は驚いた。作りたいという事を知っているとは。まさか、俊介が栄作に伝えたんだろうか?


「はい・・・」

「そっか。じゃあ、俺の前でやってみろ!」

「わ、わかりました・・・」


 そういわれて、望は背筋が立った。体験学習よりもずっと厳しいだろう、栄作がそばにいる。どう言われるかわからない。


 望はボウルに入った生地をこね始めた。栄作はその様子を見て、笑みを浮かべている。やはり噂は本当だった。なかなか腕があるな。


「なかなかいいな・・・」


 だが、続けていくうちに、疲れてきた。深夜に起きて、作業をするなんて初めてだ。昼間のような力が出ない。だが、栄作はそれをほぼ毎日やっている。


「もっとだ!」

「はい!」


 後ろから聞こえる栄作の声で、望は背筋が立った。栄作に言われたのだから、もっと頑張らないと。


「体験版とか屁にもならんぞ!」

「はい!」


 望は徐々に疲れてきた。だが、まだまだこねなければならない。栄作が見ているのだから。


 次に踏みの作業に入った。これも体験学習でやった。だが、体験学習とは時間が比べ物にならない。1時間を2回に分けて作るのだから。


 望は真剣に踏んでいたが、またしても疲れてきた。栄作はその様子を真剣に見ている。


「まだですか?」

「いいか、1時間だ! これを2回やるんだ!」


 栄作がまるで鬼のような形相になっている。栄作は普段から怖い表情だが、こんなに怖いのは初めてだ。望はびくびくしながら進めていく。


「2回? そんな・・・」


 望はため息をついた。だが、栄作の前で肩を落としてはダメだ。


「そうじゃなきゃ、俺のうどんにはならん!」

「そんな・・・」


 望は踏み続けていく。栄作は直立不動で見ている。


「これではまだまだだぞ!」

「は、はい・・・」


 2回目の踏みに入る頃には、すでに朝になっている。すでに望は眠そうな表情だ。だが、栄作が見ているんだから、頑張らなければならない。


「疲れてきたか?」

「うん・・・」


 そろそろ踏み始めて1時間になってきた。時計をじっと見て、栄作は望の方を向いた。


「よし、これで終わりだ!」

「ふぅ・・・」


 その瞬間、望は肩を落とした。だが、それで終わりではないだろう。この後、伸ばしと切りがある。終わりはまだまだなのだ。


「いいか。俺はこれをほぼ毎日してるんだぞ」

「そんな・・・」


 それを聞いて、また栄作は厳しい表情になった。


「そうじゃなかったらうちのうどんにならんのだぞ!」

「はい!」


 望は肩を落とした。先日の体験学習でやってきた事は、まだまだなんだな。プロはもっと厳し世界なんだ。もっと頑張らなければ。もっと腕を上げなければ。

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