21

 翌日、3人は早めに目を覚ました。今日が遠足だからだ。3人とも、楽しそうな表情だ。いつの時代も、遠足や社会見学、修学旅行は楽しみな事に変わりはない。安奈も今日に併せて起きるのが早い。だが、安奈はそんな状況に慣れている。


「おはよう」


 3人が起きてきた。3人とも眠たそうだ。


「おはよう」

「いよいよ今日だね」


 それを聞いて、望は背筋が立った。今日の遠足の事で昨夜、栄作に言われた事を思い出した。いい所を見せないと。


「うん」

「どうしたの?」


 その様子を見て、安奈が気になった。どうして背筋が立ったんだろうか? まさか、栄作に何かを言われたからだろうか? 昨夜、栄作が来ていたのを俊介から聞いた。ひょっとして、うどん作りの体験施設に行くから言われたと思われる。


「いや、何でもない」

「うどん打ち体験だから、気にしてるの?」

「うん・・・」


 やはり気にしているようだ。栄作がやっているぐらいじゃないけど、栄作がやっている事を、今日は自分がやるんだ。相当緊張しているようだ。


 3人は席に座り、朝食を食べ始めた。いつもより早いが、味は変わらない。


「大将にいい所見せようと思ってるでしょ?」

「そ、そうだけど・・・」


 望は戸惑いながらも、本当の事を話した。それを聞いて、安奈は少し笑みを浮かべた。


「継ぎたいと思ってるんだもんね」

「うん。だけど、まだまだ未来は決まってないんだから、どうかわからない」


 だが、望は継ごうとまだ決めていない。これから自分が何をやりたいのか、考えるようだ。


「そっか。今日は遠足だよね」

「うん」


 遠足は楽しいが、今回の遠足は少し緊張する。自分は栄作のようにできるんだろうか?


「うどん打ってくるらしいね。頑張ってきてね」

「わかってるよ」


 望は苦笑いをしている。どんな1日になるんだろう。全くわからないけど、楽しんでこよう。


「見せつけてやれ!」

「わかったよ」


 俊作も期待している。それを聞いて思った。俊作はあそこで働きたいと思っているんだろうか?


「みんな、期待してるね」

「うん。頑張っちゃおうかな?」


 望は食べ終わり、少しリビングで休んでいる。もう少ししたら、洗面台に行き、歯を磨いて、遠足の支度をする。


「いいじゃん! やったれ」

「うん!」

「さて、支度をしないと」


 望は洗面台に向かった。これから歯を磨くようだ。


 数分後、望は2階に向かった。安奈はその様子をじっと見ている。それを見て、俊作と明日香も洗面台に向かった。


 そこに、俊介がやって来た。俊介はいつものように起きた。この時間に起きたが、通常通りの勤務のようだ。


 しばらくして、3人がやって来た。遠足に出発するようだ。


「行ってきまーす」

「行ってらっしゃい」


 3人は家を出ていった。安奈は手を振っている。俊介はそんな3人の様子をじっと見ている。その時、彼らは気づいていなかった。栄作も3人の様子を見ている事に。




 数十分かけて、3人が小学校にやって来た。だが、教室には入らない。そのままバスに乗って、目的地に出発だ。すでに何人かの生徒が来ている。みんな嬉しそうな表情だ。今日の遠足を楽しみにしているようだ。


「おはよう」

「おはようございます」


 望は生徒に挨拶をした。すると、何人かの子供が反応し、挨拶を返した。


「今日は楽しみ?」

「うん。うどん打ち、した事ある?」

「ちょっとだけ・・・」


 生徒は驚いた。まさか、やった事があるとは。どれだけできるんだろう。ぜひ、作る所に注目したいな。


「ふーん。面白かった?」

「まぁまぁ」


 望はそんなに楽しいと思っていない。それに、体験施設のより、栄作のしているうどん作りの方がずっと大変だと知っている。


「そっか。将来、うどん作ってみたいと思ってる?」

「まだわからないよ」


 と、その生徒はある事を思い出した。栄作はこの辺りでは有名なうどん職人だ。その店に行った事がある。大型連休になると大行列ができる人気店で、旅行雑誌にもたびたび掲載されている。この辺りではちょっとした有名人だ。


「ふーん。お父さんの事、知ってるんだよ」

「知ってるの?」


 望は驚いた。この子も池辺うどんに行った事があるとは。栄作はこの辺りではかなり有名なんだな。


「知ってる。香川県で一番のうどん職人だって」

「知ってたんだ。かなり有名なんだな」


 こんなに栄作は有名な人なんだな。これぐらい腕を上げれば、自分も有名になれるかな?


「たぶんここら辺の人はけっこう知ってるんじゃないかな?」

「そんなに有名なんだな」


 この辺りではなく、全国的に有名なようだ。讃岐うどんだけでこんなに有名になれるとは。


「望くん、いつかそこを継ぐのかな?」

「わからない」


 望は苦笑いした。まだわからないのに、継ごうと思っているのと言われると、少し笑ってしまう。どうしてだろう。


「まだ将来は決まってないもんね」

「ああ」


 と、そこに先生がやって来た。そろそろ出発の時間のようだ。先生を見て、生徒は緊張している。


「あっ、そろそろだ!」

「皆さん、遠足に行きまーす!」

「はーい!」


 望のクラスは遠足に向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る