20
10月に入り、遠足の時期になった。遠足では学年別に子供たちがさまざまな所に行き、楽しい経験をする。1年生の遠足は、地元のうどんの体験施設に行くらしい。ほとんどの子供は初めてだ。だが、望は以前行った事があるし、本物のうどん職人の作る様子を、小学校に行く前にいつも見ている。前に行った事があるとはいえ、どんな事があるのかわくわくする。
前日の夜、望は楽しみにしていた。小学生になって、初めての遠足だ。うどんの体験施設に行くのは初めてじゃないが、みんなと一緒に遠足に行けるのが楽しみだ。
「明日は遠足か」
俊作も明日香も楽しみにしていた。望とはまた違う所に行くけど、楽しみな事に変わりはない。
「どこに行くの?」
「讃岐うどんの体験施設」
それを聞いて、俊作は思った。望は初めてじゃない。行った事があるし、やった事がある。それに、栄作が作る所をよく見ている。体験したことがあり、ある程度知っている望の姿を見たら、驚きそうだな。
「ふーん・・・」
「どうしたの?」
明日香は、俊作は少し考えるようなしぐさをしていたのが気になった。
「ちょっとやった事あるんでしょ?」
「うん。だけどまだまだだよ」
望はまだまだだと思っていた。栄作は合計2時間も踏むし、もっと工程がある。自分はまだまだだ。
「そうだね。大将のようにできないもんね」
「だけど、近づかないと」
望は思っていた。いつかはこれぐらいできるようにならなければいけないんだ。そして、池辺うどんを継がなければならないんだな。そうなると、この遠足が大事になってくるように思える。
「そうだね。跡を継ぎたいんだもんね」
「ああ。これの体験が重要になって来るんじゃないかと思ってる」
望はひそかに思っていた。これがい浮辺うどんを継ぐためにも必要になってくるのでは?
「そうかな? でもそこの講師の人も、大将ほどじゃなかったりして」
「それ言っちゃだめ!」
望は強い口調だ。講師の人をなめたらいけない。謙虚にしなければならない。
「そうだね」
ふと、俊作は思った。明日の遠足の事を、栄作はどう思っているんだろう。先日行った、うどんの体験施設に行くのだから、栄作の反応が気になるな。ひょっとして、その様子を見に来たりして。
「大将、明日の遠足の事を知って、どう思ってるんだろう」
「どうだろうね」
望は思った。去年、俊作はどこに行ったんだろう。ひょっとして、うどんの体験施設だろうか? とても気になるな。
「俊作兄ちゃんは、どんな所に行ったの?」
「うどんの体験施設だった」
俊作も去年はうどんの体験施設だったとは。定番なのかな?
「一緒なんだね」
「うん。それが定番なのかな?」
俊作は思った。1年生でここに行くのは、だいぶ昔から定番なのでは?
「いいじゃないか。ここらしくて」
「望・・・」
望は横を向いた。そこには栄作がいる。僕に話したい事があるんだろうか?
「父さん・・・」
「話がある。来なさい」
「はい・・・」
望は栄作と一緒に下に向かった。望は寝室の扉を閉めた。これは2人だけの話だ。声が漏れてはだめだ。
2人は暗い和室に座った。望は緊張している。何を言われるんだろう。
「明日、体験施設に行くのか?」
「うん」
望はびくびくしている。やはり、遠足の話だ。うどんの体験施設に行くのだから、何か言われるだろうと思っていたが、本当に言われるとは。どんな事を言われるんだろう。
「お前の実力、見せてやれよ」
「は、はい・・・」
栄作は望の肩を叩いた。栄作は望に期待しているようだ。望は少し嬉しくなった。栄作のためにも、この遠足での経験は大切になりそうだ。
「俺の子供だろ? お前はいつかこのうどん屋を継ぐんだ。わかってるな?」
「はい・・・」
栄作は家を出ていった。実家に戻って、寝るようだ。望は立ち去った後の玄関をしばらくじっと見た後、2階の寝室に戻った。
寝室には、俊作と明日香がいる。望が戻ってくると、2人は望に目をやった。
「どうしたの?」
「何でもないよ」
望は何も話そうとしない。だが、見当はついている。きっと、うどんの体験施設に行くから、栄作に何か言われたんだろう。
「ふーん・・・」
「大将と何を話してたのかなって。それにしても、どうして来たんだろう」
「わからない」
栄作が来た理由を、望もわからなかった。期待してきたのは知っているけど、まさか来るとは。
「そっか」
「今夜はテレビゲームできないね」
明日は遠足だ。早く起きて、小学校に集合しなければならない。早く寝ないと。
「うん。早く寝ないといけないから」
「いいよ。帰ってからやればいいじゃん」
「そうだね」
俊作は時計を見た。そろそろ寝る時間だ。明日の遠足のために、しっかりと疲れを取らないと。
「明日、楽しもうね」
「うん」
「もう寝ないと」
明日香はすでにベッドに横になっている。自分たちも寝ないと。望と俊作はベッドに向かった。
「おやすみー」
「おやすみー」
望は消灯した。2人もベッドに横になった。明日香はすでに寝ている。いよいよ明日は遠足だ。楽しみだな。
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