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 10月に入り、遠足の時期になった。遠足では学年別に子供たちがさまざまな所に行き、楽しい経験をする。1年生の遠足は、地元のうどんの体験施設に行くらしい。ほとんどの子供は初めてだ。だが、望は以前行った事があるし、本物のうどん職人の作る様子を、小学校に行く前にいつも見ている。前に行った事があるとはいえ、どんな事があるのかわくわくする。


 前日の夜、望は楽しみにしていた。小学生になって、初めての遠足だ。うどんの体験施設に行くのは初めてじゃないが、みんなと一緒に遠足に行けるのが楽しみだ。


「明日は遠足か」


 俊作も明日香も楽しみにしていた。望とはまた違う所に行くけど、楽しみな事に変わりはない。


「どこに行くの?」

「讃岐うどんの体験施設」


 それを聞いて、俊作は思った。望は初めてじゃない。行った事があるし、やった事がある。それに、栄作が作る所をよく見ている。体験したことがあり、ある程度知っている望の姿を見たら、驚きそうだな。


「ふーん・・・」

「どうしたの?」


 明日香は、俊作は少し考えるようなしぐさをしていたのが気になった。


「ちょっとやった事あるんでしょ?」

「うん。だけどまだまだだよ」


 望はまだまだだと思っていた。栄作は合計2時間も踏むし、もっと工程がある。自分はまだまだだ。


「そうだね。大将のようにできないもんね」

「だけど、近づかないと」


 望は思っていた。いつかはこれぐらいできるようにならなければいけないんだ。そして、池辺うどんを継がなければならないんだな。そうなると、この遠足が大事になってくるように思える。


「そうだね。跡を継ぎたいんだもんね」

「ああ。これの体験が重要になって来るんじゃないかと思ってる」


 望はひそかに思っていた。これがい浮辺うどんを継ぐためにも必要になってくるのでは?


「そうかな? でもそこの講師の人も、大将ほどじゃなかったりして」

「それ言っちゃだめ!」


 望は強い口調だ。講師の人をなめたらいけない。謙虚にしなければならない。


「そうだね」


 ふと、俊作は思った。明日の遠足の事を、栄作はどう思っているんだろう。先日行った、うどんの体験施設に行くのだから、栄作の反応が気になるな。ひょっとして、その様子を見に来たりして。


「大将、明日の遠足の事を知って、どう思ってるんだろう」

「どうだろうね」


 望は思った。去年、俊作はどこに行ったんだろう。ひょっとして、うどんの体験施設だろうか? とても気になるな。


「俊作兄ちゃんは、どんな所に行ったの?」

「うどんの体験施設だった」


 俊作も去年はうどんの体験施設だったとは。定番なのかな?


「一緒なんだね」

「うん。それが定番なのかな?」


 俊作は思った。1年生でここに行くのは、だいぶ昔から定番なのでは?


「いいじゃないか。ここらしくて」

「望・・・」


 望は横を向いた。そこには栄作がいる。僕に話したい事があるんだろうか?


「父さん・・・」

「話がある。来なさい」

「はい・・・」


 望は栄作と一緒に下に向かった。望は寝室の扉を閉めた。これは2人だけの話だ。声が漏れてはだめだ。


 2人は暗い和室に座った。望は緊張している。何を言われるんだろう。


「明日、体験施設に行くのか?」

「うん」


 望はびくびくしている。やはり、遠足の話だ。うどんの体験施設に行くのだから、何か言われるだろうと思っていたが、本当に言われるとは。どんな事を言われるんだろう。


「お前の実力、見せてやれよ」

「は、はい・・・」


 栄作は望の肩を叩いた。栄作は望に期待しているようだ。望は少し嬉しくなった。栄作のためにも、この遠足での経験は大切になりそうだ。


「俺の子供だろ? お前はいつかこのうどん屋を継ぐんだ。わかってるな?」

「はい・・・」


 栄作は家を出ていった。実家に戻って、寝るようだ。望は立ち去った後の玄関をしばらくじっと見た後、2階の寝室に戻った。


 寝室には、俊作と明日香がいる。望が戻ってくると、2人は望に目をやった。


「どうしたの?」

「何でもないよ」


 望は何も話そうとしない。だが、見当はついている。きっと、うどんの体験施設に行くから、栄作に何か言われたんだろう。


「ふーん・・・」

「大将と何を話してたのかなって。それにしても、どうして来たんだろう」

「わからない」


 栄作が来た理由を、望もわからなかった。期待してきたのは知っているけど、まさか来るとは。


「そっか」

「今夜はテレビゲームできないね」


 明日は遠足だ。早く起きて、小学校に集合しなければならない。早く寝ないと。


「うん。早く寝ないといけないから」

「いいよ。帰ってからやればいいじゃん」

「そうだね」


 俊作は時計を見た。そろそろ寝る時間だ。明日の遠足のために、しっかりと疲れを取らないと。


「明日、楽しもうね」

「うん」

「もう寝ないと」


 明日香はすでにベッドに横になっている。自分たちも寝ないと。望と俊作はベッドに向かった。


「おやすみー」

「おやすみー」


 望は消灯した。2人もベッドに横になった。明日香はすでに寝ている。いよいよ明日は遠足だ。楽しみだな。

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