19

 それから1週間が経ち、盆休み真っただ中だ。夏休みも終わりが見えてきたようだ。だが、望と俊作と明日香は全く考えていなかった。まだまだ夏は続く。焦らなくていいと思っていた。


「おはよう」


 望はいつものように目を覚ました。だが、今日も俊介と安奈はいない。今日も朝から池辺うどんで働いているようだ。この大行列は盆休みが終わるまでずっと続くようだ。


「おはよう、あれっ、おじさんとおばさん、いないんだね」

「ああ。朝から忙しいんだって」


 俊作は知っていた。この時期はゴールデンウィーク同様、忙しい。池辺うどんの辺りには長い行列ができるだろう。


「この時期もそうなんだね」

「うん。うどん屋さん、この時期忙しいからね」


 明日香もその事は知っていた。それをよく受け入れていた。


「そうなんだ」


 ふと、望は考えた。もし、池辺うどんに就職したら、これだけの人にうどんを提供しなければならないんだな。そう思うと、もっと頑張らなければと思う。あの体験学習よりも厳しいだろう。


「どうしたの?」

「いや、何でもないよ」


 望は笑みを浮かべて、ごまかそうとしている。一体、何を考えていたんだろう。俊作は首をかしげた。


 今日も3人での朝食だ。すでに作ってある冷たいみそ汁とご飯だけ。つまらないけれど、この時期はだいたいそうだ。耐えなければ。


「ごちそうさま」


 望はすぐに食べ終えて、2階に向かった。2階からは、池辺うどんの様子が見える。開店の1時間前だが、多くの人が並んでいる。深夜から並んでいる人はさすがにいないが、これだけ並んでいるとは。


「どうしたの?」


 誰かの気配に気づき、望は振り向いた。そこには俊作がいる。


「こんなに並んでるの?」

「うん」


 俊作は望の横にやって来て、行列を見た。今日もこんなに並んでいる。俊介も安奈も栄作も大変だな。


「こんなに並んでるの、ゴールデンウィーク以来だ」

「この時期も多くの人がやって来るからね」

「そっか」


 もうこんな時間だ。そろそろ歯を磨いて、ゲームでもしよう。


「歯を磨いたら、ゲームでもしようかな?」

「そうだね」


 望は洗面台のある1階に向かった。それを見て、俊作も1階に向かった。




 それから1時間後、ようやく店が開いた。だが、少しずつしか入れない。今日も朝から暑い。暑さで倒れないように、多くの人が水筒を持ってきている。その中には、汗をタオルで拭っている人もいる。


「あっついなー」

「こんなに並ぶって、聞いてないよー」


 並んでいる人々は暑そうだ。だが、ここは香川県で一番の人気店で、絶対に外せないと旅雑誌にあった。


「やっぱここは人気店だからね」

「うんうん。池辺うどんは香川で一番だと言われているからね」


 みんな知っていた。池辺うどんは香川県で一番の店だ。


 並んでいる人は、池辺うどんの外を見た。外にも客席があり、暑い中食べている人もいる。彼らはみんな、冷たいうどんに冷たいつゆだ。


「外でも食べてるね」

「晴れた日は外ですするってのもいいね。のどかな風景を見ながら」

「それもいいね!」


 と、そこに2本のソフトクリームを持った人がやって来た。どうやら別の人と一緒に並んでいるようだ。暑い中並ぶのだから、アイスが欲しくなる。


「あっ、裕太、買ってきた?」

「うん!」


 裕太は一緒に並んでいる女性にソフトクリームを渡した。ソフトクリームは少し溶けている。


「ありがとう」

「あっついからねー」


 行列は時間が経つごとに長くなり、何百メートルも続いている。それを見て、2人は驚いた。こんなにも並ぶとは。


「こんなにも並んでる!」

「すっごいなー」


 と、女は思った。本当にここに来てよかったんだろうか? あまりにも長い時間、暑い中で待たなければならないからだ。


「どうしよう・・・」

「どうしようって言っても、ここまで来たんなら行かなくっちゃ」


 だが、裕太はここは外せないと思っている。香川県で一番おいしいと言われているんだから、ここは行かなければ。


「うーん・・・」

「ここの讃岐うどんが一番なんでしょ?」


 女は思った。ここの讃岐うどんは香川県で一番だ。絶対に外せないから行くと決めていた。


「うん・・・」

「じゃあ、行こうよ!」

「そうだね」


 1時間ぐらい並んで、ようやく店に入れた。店内には冷房がかかっていて、外の暑さが吹っ飛ぶ。


「やっと店内に入れた」


 裕太はうどんをオーダーするところにやって来た。そこには俊介がいる。


「えーっと、ざるの並で」

「私も!」


 2人ともざるうどんを注文した。暑い夏だからこそ、冷たいのが食べたいし、讃岐うどんのコシが生きているからだ。


「ざる並2丁!」


 俊介はすぐに、ざるうどんを持ってきた。とても早い。2人は驚いた。


「どうぞ、ざる並です」


 2人は食器を取って、その先のカウンターに向かった。カウンターには天ぷらが並んでいる。うどんに天ぷらは外せない。


「天ぷらは何を取ろう」


 何種類もの天ぷらがある。どれもおいしそうだけど、数個だけにしよう。


「えびにしようよ!」

「俺はかき揚げ!」

「ちくわもおいしそう!」

「そうだね」


 裕太はえびとかき揚げ、女はえびとちくわを取った。


 会計を済ませた2人は、空いていたカウンターにやって来た。店内では、多くの人が讃岐うどんをすすっていて、すする音がよく聞こえる。


「いただきまーす!」


 2人はざるうどんを食べ始めた。本当においしい。さすがに、香川県で一番と言われている味だ。


「おいしい!」

「これが一番おいしいと言われているうどんなのか!」


 それに、とてもコシがある。これが讃岐うどんの特徴だ。


「コシがある!」

「これが本場のコシかー」


 裕太はえび天を食べた。この天ぷらもおいしい。それに、つゆともよく合う。


「天ぷらもおいしい!」

「やっぱ並んだ甲斐があるわー」

「そうだね!」


 こんなに並ぶとは思っていなかった。だが、それほど多くの人に支持されているのだから、相当おいしいのだろう。そう思うと、並んだ甲斐があるなと思う。

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