17
午後5時過ぎ、3人は全国高校野球選手権大会をテレビで見ていた。3試合目が行われているが、大量得点で差が付いている。これはもう試合が決まったような状況だ。だが、負けているチームの応援も、希望を捨てていないかのような応援を見せている。
そろそろ試合が終盤だ。そろそろ池辺うどんに向かおうかな?
「もうすぐだな」
「ああ」
明日香もそろそろだと思っていた。すでに3人とも宿題をある程度進めていて、のんびりしている。
「さて、行くか」
「うん」
3人は戸締りをしっかりとして、池辺うどんに向かった。池辺うどんは、昼頃には多くの人が並んでいたが、すでに閉店時間を過ぎ、行列はできていない。今日はどれぐらいの人が並び、どれぐらいの人が食べたんだろう。
3人は池辺うどんにやって来た。閉店時間を過ぎているのに、店の入り口は開いている。おそらく、3人を待っていたんだろう。
3人は池辺うどんに入った。そこには、栄作と俊介、安奈がいる。
「父さん、来たよ」
「おお、来たか。晩ごはんだけど、好きな天ぷらを取って、天丼食べていき」
今日の客に対応するために、多くの天ぷらを作ったが、少し余ってしまった。そこで、その余った分を天丼にしている。これがまかない飯の定番だ。
「ありがとう」
3人はテーブル席に座った。すでにテレビはついていて、甲子園球場の中継が流れている。すでに試合は9回表で、試合終了が迫っていた。
「そろそろ始まるね」
「うん」
ふと、望は思った。四国の高校野球は、強いんだろうか? 優勝した事はあるんだろうか?
「香川県って、強いの?」
「うん。というより、四国4県どこも強いんだよな」
香川県も含めて、四国4県とも高校野球が強い。中には優勝経験のある高校もある。
「ふーん。香川は尽誠学園、高知は明徳義塾、徳島は徳島商業、愛媛は宇和島東や松山商業、宇和島東だね」
「そっか」
望は思った。こんなに競合が多いのに、どうしてプロ野球がないんだろうか?
「今年はどこまで進めるんだろうね」
「応援しよう!」
話しているうちに、試合が終わり、勝った高校の校歌が流れている。香川県の代表はこの後の試合だ。初戦突破できるように、一生懸命応援しよう。
その間、栄作と俊介と安奈は、店の片付けをしている。いつもの事だが、今日はテレビ観戦で帰るのが遅くなる。
数十分後、次の試合が始まった。従業員も3人も、テレビの前にくぎ付けになった。今年はどこまで進めるんだろう。今年こそは優勝してほしいな。
「さて、試合が始まった!」
両チームが礼をして、後攻めの高校のナインが守備についた。香川県の代表は先攻だ。今年は打力に注目と言うが、どれぐらいだろうか?
「がんばれがんばれー!」
試合は徐々に進んでいく。今年は打力が注目と言ったが、なかなか先制できない。本当に打力が強いんだろうか? 望は疑問に思えてきた。
試合は3回表に入った。相手の投手も、こっちの投手も頑張っている。
と、このイニングの先頭打者が打ち返した。打球から見るに、ホームランになりそうだ。
「あっ、これは! ホームラン!」
ボールがスタンドに入った。ホームランだ。打った部員は、右手を高く上げ、ガッツポーズを見せた。
「よっしゃー!」
と、安奈が丼に入ったごはんをもってやって来た。そろそろ晩ごはんのようだ。
「みんなー、そろそろ晩ごはんよー!」
「はーい!」
目の前に天丼が置かれると、3人は天丼のつゆをかけた。
「天丼のつゆをかけてっと」
「これ取ろう」
「僕も!」
「かき揚げ!」
次に3人は、目の前に置かれた天ぷらから、好きな物を取った。トレーの中には、かき揚げに、エビ、イカ、ちくわなどがある。望はえびとかき揚げとナス、俊作はかき揚げとイカとタコ、明日香はかき揚げとえびとちくわを取った。
「いただきまーす!」
3人は天丼を食べ始めた。とてもおいしい。ここはうどんだけではなく、天ぷらもおいしいな。
「おいしい!」
食べ始めた頃、香川県の代表が同点のピンチになっていた。どうすれば防げるんだろう。全く思いつかない。
「うわっ、ピンチだ・・・」
「粘って粘って」
だが、エースが無失点に抑え、ピンチを切り抜けた。見ていた人々は歓喜を上げた。
「よっしゃ切り抜けた!」
試合は順調に進み、終盤に入った。リードを続けていて、このままいけば勝てそうな気がしてきた。
「あと2回だね」
「うん! 去年は初戦敗退だったけど、今年はいけそうだね」
「うん」
前回は初戦敗退だった。今年はどこまで進めるんだろう。できれば、優勝して香川県に帰ってきてほしいものだ。
「ごちそうさま」
「食べ終わったら返却口に置いてね」
「はーい!」
食べ終わった3人は、食器を返却口に持っていった。その奥には栄作がいて、返却した食器を洗っている。
「よし、このままいけば初戦突破だ!」
試合は9回に入った。エースは相手打線を0点に抑えている。これは初戦突破できそうだ。みんな期待していた。
それから5分ぐらい経って、試合が終わった。香川県の代表は初戦を突破した。
「よっしゃ勝ったー!」
「やったー!」
みんな喜んでいる。母校ではないのに、香川県の代表だと思うと、なぜか応援したくなる。どうしてだろう。負けた香川県の高校の分も頑張っているからだろうか?
「次も頑張ってほしいね!」
「ああ」
俊介も安奈も喜んでいる。従業員も、大盛り上がりだ。
「このまま勝ち進んで優勝だー!」
「じゃあ、次の試合も閉店時間だったら来ようかな?」
「いいぞ!」
その様子を見ていた栄作は、次の試合を見に来るのを許可した。次の試合も閉店後の夕方からの予定だ。
「やったー!」
「今度は好きなうどんを作ってやろうじゃないか!」
「ありがとう」
勝利を見届け、3人と俊介、安奈は家に帰っていった。栄作もその後に続いて店を出て、入り口の鍵を閉めた。
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