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 午後5時過ぎ、3人は全国高校野球選手権大会をテレビで見ていた。3試合目が行われているが、大量得点で差が付いている。これはもう試合が決まったような状況だ。だが、負けているチームの応援も、希望を捨てていないかのような応援を見せている。


 そろそろ試合が終盤だ。そろそろ池辺うどんに向かおうかな?


「もうすぐだな」

「ああ」


 明日香もそろそろだと思っていた。すでに3人とも宿題をある程度進めていて、のんびりしている。


「さて、行くか」

「うん」


 3人は戸締りをしっかりとして、池辺うどんに向かった。池辺うどんは、昼頃には多くの人が並んでいたが、すでに閉店時間を過ぎ、行列はできていない。今日はどれぐらいの人が並び、どれぐらいの人が食べたんだろう。


 3人は池辺うどんにやって来た。閉店時間を過ぎているのに、店の入り口は開いている。おそらく、3人を待っていたんだろう。


 3人は池辺うどんに入った。そこには、栄作と俊介、安奈がいる。


「父さん、来たよ」

「おお、来たか。晩ごはんだけど、好きな天ぷらを取って、天丼食べていき」


 今日の客に対応するために、多くの天ぷらを作ったが、少し余ってしまった。そこで、その余った分を天丼にしている。これがまかない飯の定番だ。


「ありがとう」


 3人はテーブル席に座った。すでにテレビはついていて、甲子園球場の中継が流れている。すでに試合は9回表で、試合終了が迫っていた。


「そろそろ始まるね」

「うん」


 ふと、望は思った。四国の高校野球は、強いんだろうか? 優勝した事はあるんだろうか?


「香川県って、強いの?」

「うん。というより、四国4県どこも強いんだよな」


 香川県も含めて、四国4県とも高校野球が強い。中には優勝経験のある高校もある。


「ふーん。香川は尽誠学園、高知は明徳義塾、徳島は徳島商業、愛媛は宇和島東や松山商業、宇和島東だね」

「そっか」


 望は思った。こんなに競合が多いのに、どうしてプロ野球がないんだろうか?


「今年はどこまで進めるんだろうね」

「応援しよう!」


 話しているうちに、試合が終わり、勝った高校の校歌が流れている。香川県の代表はこの後の試合だ。初戦突破できるように、一生懸命応援しよう。


 その間、栄作と俊介と安奈は、店の片付けをしている。いつもの事だが、今日はテレビ観戦で帰るのが遅くなる。


 数十分後、次の試合が始まった。従業員も3人も、テレビの前にくぎ付けになった。今年はどこまで進めるんだろう。今年こそは優勝してほしいな。


「さて、試合が始まった!」


 両チームが礼をして、後攻めの高校のナインが守備についた。香川県の代表は先攻だ。今年は打力に注目と言うが、どれぐらいだろうか?


「がんばれがんばれー!」


 試合は徐々に進んでいく。今年は打力が注目と言ったが、なかなか先制できない。本当に打力が強いんだろうか? 望は疑問に思えてきた。


 試合は3回表に入った。相手の投手も、こっちの投手も頑張っている。


 と、このイニングの先頭打者が打ち返した。打球から見るに、ホームランになりそうだ。


「あっ、これは! ホームラン!」


 ボールがスタンドに入った。ホームランだ。打った部員は、右手を高く上げ、ガッツポーズを見せた。


「よっしゃー!」


 と、安奈が丼に入ったごはんをもってやって来た。そろそろ晩ごはんのようだ。


「みんなー、そろそろ晩ごはんよー!」

「はーい!」


 目の前に天丼が置かれると、3人は天丼のつゆをかけた。


「天丼のつゆをかけてっと」

「これ取ろう」

「僕も!」

「かき揚げ!」


 次に3人は、目の前に置かれた天ぷらから、好きな物を取った。トレーの中には、かき揚げに、エビ、イカ、ちくわなどがある。望はえびとかき揚げとナス、俊作はかき揚げとイカとタコ、明日香はかき揚げとえびとちくわを取った。


「いただきまーす!」


 3人は天丼を食べ始めた。とてもおいしい。ここはうどんだけではなく、天ぷらもおいしいな。


「おいしい!」


 食べ始めた頃、香川県の代表が同点のピンチになっていた。どうすれば防げるんだろう。全く思いつかない。


「うわっ、ピンチだ・・・」

「粘って粘って」


 だが、エースが無失点に抑え、ピンチを切り抜けた。見ていた人々は歓喜を上げた。


「よっしゃ切り抜けた!」


 試合は順調に進み、終盤に入った。リードを続けていて、このままいけば勝てそうな気がしてきた。


「あと2回だね」

「うん! 去年は初戦敗退だったけど、今年はいけそうだね」

「うん」


 前回は初戦敗退だった。今年はどこまで進めるんだろう。できれば、優勝して香川県に帰ってきてほしいものだ。


「ごちそうさま」

「食べ終わったら返却口に置いてね」

「はーい!」


 食べ終わった3人は、食器を返却口に持っていった。その奥には栄作がいて、返却した食器を洗っている。


「よし、このままいけば初戦突破だ!」


 試合は9回に入った。エースは相手打線を0点に抑えている。これは初戦突破できそうだ。みんな期待していた。


 それから5分ぐらい経って、試合が終わった。香川県の代表は初戦を突破した。


「よっしゃ勝ったー!」

「やったー!」


 みんな喜んでいる。母校ではないのに、香川県の代表だと思うと、なぜか応援したくなる。どうしてだろう。負けた香川県の高校の分も頑張っているからだろうか?


「次も頑張ってほしいね!」

「ああ」


 俊介も安奈も喜んでいる。従業員も、大盛り上がりだ。


「このまま勝ち進んで優勝だー!」

「じゃあ、次の試合も閉店時間だったら来ようかな?」

「いいぞ!」


 その様子を見ていた栄作は、次の試合を見に来るのを許可した。次の試合も閉店後の夕方からの予定だ。


「やったー!」

「今度は好きなうどんを作ってやろうじゃないか!」

「ありがとう」


 勝利を見届け、3人と俊介、安奈は家に帰っていった。栄作もその後に続いて店を出て、入り口の鍵を閉めた。

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