16
8月上旬、小学校は夏休み真っただ中で、小学生は長い夏休みを利用して、遊んだり宿題をしていた。毎日暑い日々が続いていて、何日も夕立以外の雨が降っていない。水不足が深刻化していたが、あまり騒ぎになっていないという。
「あっつー」
望はぐったりしていた。今日も朝から暑い。こんなに熱いと、テレビゲームも宿題もやる気がなくなってくる。
「暑くてなんもやる気が出ないよ」
「うん」
俊作はテレビゲームをしていたが、あまり元気じゃない。暑さでぐったりしてりうようだ。明日香は勉強をしているが、暑さのせいで進みがよくない。
と、望は思った。こんな暑い日だからこそ、冷たい讃岐うどんでも食べようかな? そうすれば、少しは元気になるのでは?
「お昼は冷たいうどんでも食べるか?」
「そうだね」
そろそろお昼時だ。池辺うどんに行ってみよう。今は夏休みだ。どれぐらいの人が並んでいるんだろう。気になるな。
3人は池辺うどんの前にやって来た。池辺うどんには多くの客が並んでいる。夏休みのためか、いつも以上だ。でも、盆休みになったらどれぐらいの行列ができるんだろう。もっと多くの人が並ぶだろうな。こんな暑い中で交通整理をしている警察は大変だな。
「そこそこ並んでるなー」
「あとちょっとでお盆だけど、この時期になると特に多くの人がやってくるんだよなー」
俊作は思った。お盆になると、どれぐらいの人が並ぶんだろう。
1時間待って、ようやく3人は店に入れた。店では栄作と俊介、安奈がいつものように働いている。
「いらっしゃい、あれ、俊作じゃん!」
俊介は3人が来たのに反応しているようだ。まさか来るとは。暑いから冷たいうどんを食べに来たんだろうか?
「うん。すだちおろしの並で!」
「じゃあ僕も!」
「私も!」
3人ともすだちおろしうどんを注文した。暑い夏こそ、さっぱりとしたものが食べたくなる。
「すだち並3丁!」
と、そこに栄作がやって来た。3人が来たのに反応したようだ。
「来たのか・・・」
「暑そうだったから、冷たいうどんを食べに来たのかね」
栄作は笑みを浮かべた。こんな時こそ、冷たいうどんだな。
「そうだな。冷たくてさっぱりするすだちおろしは、夏にいいからね」
「うん」
すだちおろしうどんをもらうと、3人は天ぷらに目もくれず、会計に向かった。最初から何もトッピングをしないようだ。
3人はテーブル席に座った。すでに多くの人がすすっていて、すする音がよく聞こえる。
「いただきまーす」
「やっぱりすだちおろしは夏に最高!」
「そうだね」
と、カレンダーを見て、安奈は何かに気が付いた。
「そういえば今日は香川県の高校が夏の甲子園の初戦だね」
「ああ」
兵庫県の甲子園球場では、全国高校野球選手権大会が行われていて、今日の夕方ぐらいから、香川県の代表が出る。地元として応援しないと。
3人がすだちおろしうどんをすすっていると、俊介がやって来た。何をしに来たんだろう。
「俊作!」
「何、パパ」
俊作は俊介の方を向いた。
「今日の香川県代表の試合、ここで見ようか?」
「いいの?」
俊作は驚いた。まさか、冷房のかかったこの店で見られるとは。もちろん行きたい。
「ああ、いいよ。閉店後で客はいないし、大将にもOKもらってるから」
「本当? ありがとう」
池辺うどんは午後3時で閉店だ。すでに客はいない。そんな中でのんびりとテレビを見られるし、夕食は天ぷらだろう。
「家で見るより、ここで見るのもいいぞ」
「そうだね」
望もここで試合を見ようと思った。ここなら冷房がかかっていて、快適に見られるだろう。
「じゃあ、みんなで見ようか?」
「うん」
「ごちそうさま!」
3人はすだちおろしうどんを食べ終え、返却口に食器を返した。3人はその様子を、温かい目で見ている。
「じゃあ、また夕方に来るね」
「ああ。待ってるよ」
3人は池辺うどんを後にした。試合が近くなったら、またここに来よう。
「まさか、うどん屋で観戦するとは」
「思ってなかったけど、面白そうだね!」
望は考えた。テレビ中継を見ながら、時間が近づいたら、池辺うどんに向かおう。
「じゃあ、前の試合が7回になったらうどん屋に来ようよ」
「そうだね」
帰宅した3人は、リビングでくつろぎながら、テレビ中継を見ていた。テレビからは、暑い中一生懸命プレーする高校球児の姿が映し出されている。彼らは負けたらそこで終わり、3年生は引退になる。負けた悔しさや、もうこのメンバーと野球ができない辛さで、涙する高校球児の姿は、胸が打たれる。今年はどんなドラマがあるんだろう。
「一生懸命頑張ってるね」
「うん」
望は彼らの事が気になった。どうして負けたら泣くんだろうか? 悔しいんだろうか?
「そして負けたら涙する。どうしてだろう」
「3年生はこの試合を最後に引退してしまうからだろう」
「そっか」
俊作は彼らの事をよく知っていた。高校3年生はこれが終わると就職活動、もしくは大学受験に進むだろう。そして、部活を引退する。
「それに、負けたのがよほど悔しいんだろうな」
「ふーん」
「もっと先輩と試合がしたいと言っても、負けたら終わりなんだね。あまりにも悔しそうだよね」
明日香も、彼らの負けた時の気持ちがわかるようだ。もし自分なら、やっぱり涙するだろうな。
「ああ」
「野球部になったら、こんな事を経験するのかな?」
「そうかもしれない」
望も俊作も思った。自分も野球部に入ったら、県大会止まりであっても、こんな事を経験するんだろうな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます