14

 その頃、泥棒は交番にいた。泥棒は下を向いて、落ち込んでいた。今回も大丈夫だろうと思ったら、見られてしまった。そして、捕まってしまった。もう盗めない。どうしよう。家族のためにやっていたのに、もう家族に会えない。おそらく家族は風評被害を受けるだろう。家族のこれからが心配だ。


「どうしてうどんを盗んだんだ!」


 警察は怒っていた。泥棒はやってはいけない事なのに、どうしてしたんだ。


「お金がなかったんです・・・」


 それを聞いて、警察は少し顔が緩んだ。そんな理由があったのか。つらかっただろうな。本当はしたくなかったんだろうか?


「そっか・・・。でも、盗みはいかんぞ!」

「ごめんなさい・・・」


 と、そこに栄作がやって来た。今日は午前中だけの勤務で、泥棒に会うために交番にやって来た。栄作を見て、泥棒はおののいている。栄作の顔が怖いのだ。


「店主から話だ」

「お前が盗んだそうだな」


 栄作は硬い表情だ。盗みはいけない事だとわかっている。なのに、どうしてやったのか。


「はい、ごめんなさい」

「でも、まさか盗んだ店が有名店だったなんて」


 泥棒は知らなかった。ここが香川県で一番と言われている店だと。こんなに多くの人が並んで、愛されている店だったとは。


「知らなかったのか?」

「はい」


 泥棒は泣き出した。申し訳ない気持ちでいっぱいだ。その姿を見て、警察は可愛そうになった。本当はしたくなかったのに、家族のためにやってしまったのだ。




 その夜、栄作は荒谷家にやって来た。この事件の報告をするためだ。なので、今日は晩ごはんも一緒だ。望は緊張している。隣に栄作がいるからだ。


「どうだったの?」

「お金がなかったから盗んだんだって」


 俊介はため息をついた。よくありがちな理由だ。本当は盗みたくなかったんだろうな。だけど、空腹に負けて、盗んでしまったんだろうな。


「そうなんだ。何はともあれ、解決してよかった」


 安奈はほっとした。これで泥棒はしばらく来ないだろう。だが、また来るかもしれない。開店するまでは、鍵をしっかりかけておかなければ。


「ほんとほんと。売り上げに影響してくるんだもん」


 と、望は泥棒の事を考えた。盗んだとはいえ、空腹のためにやってしまったと聞くと、泥棒がかわいそうに思えてくる。


「どうした?」

「でも、あの人、かわいそうだなと思って。お金がないっていてるんだから」


 だが、栄作は厳しい表情だ。泥棒はやってはいけない事だ。しっかりと反省してほしい。そして、また頑張ってほしい。


「望、泥棒なんて放っておきなさい」

「はい・・・」


 望は下を向いた。栄作に言われたのだから、放っておかないと。栄作の言う通りにしないと、とんでもない事になりそうだ。


「望、お前は泥棒とかの悪い事をしない、いい子になれよ」

「わかってるって」


 栄作は願っていた。薫のようにいけない大人になるな。どんな子になるかはわからないけれど、正しい道を歩む、いい子に育ってほしいな。




 それからしばらく経って、池辺うどんはいつものように営業していた。防犯カメラを取り付け、開店時間以外はしっかりと鍵をかける。これが泥棒対策になるだろう。


 その中に、1人の警察がいる。あの時、泥棒に職務質問をしていた警察だ。ここが香川県で一番おいしいと言われているうどん屋だと知って、ここに行ってみようと思った。この時間帯は非番だ。せっかくだからここで食べてみようと思ったようだ。


 警察は中に入った。そこには多くの客がいる。こんなに人気の店だとは。


「いらっしゃい!」

「ひやひやのぶっかけ並で」


 俊介はすぐにうどんを湯がき、水で締めてどんぶり皿に盛った。


「はい、どうぞ」


 その顔を見て、栄作は驚いた。あの時の警察だ。まさか来てくれるとは。ここが人気店だと知って、やって来たんだろうか?


「あっ、あの時の」

「あの時はお世話になりました」


 警察はお辞儀をした。あのときはお世話になったから、ここにやって来たようだ。


「いえいえ」

「この人は?」


 俊介は戸惑った。栄作が知っているとは。知り合いだろうか?


「先日の泥棒を警察まで連れてった人」

「そうなんだ」

「あの時はありがとうございました」


 俊介は驚いた。まさか、あの時捕まえた警察がここに来たとは。警察はすでにその先で天ぷらを取っている。


「えっ!? 子供?」


 と、その後ろに望と俊介と明日香もいる。こんな子供も食べに来るとは。幅広い年齢層に愛されているんだな。


「あー、この子たちね。ここの従業員の子供たち」


 ここの従業員の子供たちもやって来るのか。この子たちがこの店の未来を担うのかな?


「そうなんだ」

「君たち、泥棒とかの悪い事はしちゃいかんよ」


 警察は笑みを浮かべた。怖い人のように思っていたけど、実際には優しそうだ。


「わかってるよ!」

「なら、いい」


 警察は天ぷらを取り終えて、会計に向かった。3人はその様子を見ている。


 その後、彼らはうどんを食べた。本当においしい。やっぱりここは香川県で一番だ。こんなうどんを盗むなんて、とても許せないな。


「やっぱここのうどんはうまいよなー。コシが最高!」

「でしょ。やっぱり父さんのうどんは香川一!」


 望は自慢していた。息子も誇りに思っているとは。ここの店主はとても尊敬を受けているんだな。自分もそれぐらい尊敬される警察にならねばと思えてくる。


「だよね」

「ごちそうさま!」


 讃岐うどんを食べると、3人は食器などを返却して、店を出ていった。警察はその様子を見ている。

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