8

 ゴールデンウィークは続いている。この間、多くの家族は旅行に出かけている。だが、荒谷家には全く関係ない。両親はその間も池辺うどんで働いている。


「おはよう」

「おはよう」


 だが、そこには両親がいない。朝から両親は働いていて、朝食は作り置きしてある。


「今日もいないんだね」


 食卓には、いつものようにごはんとみそ汁がある。だが、みそ汁はぬるい。少し前に作って、そのままにしてあるからだ。もう何日もそんな朝が続いている。


「うん。お父さんもお母さんも朝から忙しいもん」

「そうだね。寂しい?」

「ううん」


 だが、彼らは全く気にしていなかった。そんな時は、友達と遊んで紛らわせばいいじゃないか。


「そっか」


 望は椅子に座った。朝食を食べるようだ。リビングではテレビが流れているが、興味があって見ているのは明日香だけだ。


「ありがとう。いただきまーす」


 望は朝食を食べ始めた。すでに俊作と明日香は朝食を食べ始めている。


「まぁ、寂しいと思わずに、遊んで勉強すればいいじゃない」

「そうだね」


 ふと、望は栄作の事を考えた。栄作は深夜の3時から仕事をしている。そう思ったら、この時期の俊介も安奈もそれぐらいから頑張っているんだろうかと思う。僕はもっと厳しい世界に入らなければならないんだろうか?


「父さん、深夜の3時から仕込みをしてるんだ。ひょっとして、おじさんやおばさんもそれぐらいからしてるのかな?」

「いや、してないと思うな。聞いたんだが、朝の6時ぐらいだって。お父さんお母さん、こねの作業をさせてもらえないもん」


 俊介と明日香は朝の6時から仕込みをしているという。まだ一部の工程はしてもらえないようだ。栄作は頑固で、させようとしない工程もあるようだ。


「そうなんだ。あの時見たのって、こねと踏みぐらいだった。だけど、だいたい工程はわかったな」


 その時、2人は知った。どうしてあの日、望は朝帰りしたのか。そして、釜玉うどんを食べてきたのか。栄作のうどんの仕込みを見学したからだ。まさかその前日、偶然池辺うどんに行ったために、こんな事になったとは。


「そうだったんだね。あの時、どうして夜遅くに呼び出されたんだろうと疑問に思ったんだけど」

「だけど、途中で寝ちゃった」


 望は少し舌を出した。寝てはいけないのに、あの時寝てしまった。なので、途中までしかわからなかった。だけど、中力粉をこねて生地を作り、その生地を踏む所までは見ていて、知っている。


「ふーん。あの時間で仕事なんて、僕では耐えられないな。だけど、こういう仕事に入ったら、こうならなきゃいけないのかな?」


 俊作は驚いた。こんなにも早くから作業をしているなんて。自分はとても耐えられないな。だけど、栄作のようにこんな時間から仕事をしている人もいるに違いない。仕事でこんなに大変なんだな。


「そうかもしれないね」

「うーん・・・」


 3人は少し考え事をしていた。だが、そんな事を考えていたら、ごはんがおいしくなくなる。今は考えないようにしよう。次第にわかる事だ。


「深い事を考えないようにしよう」

「そうだね」


 3人は朝食を食べ終わり、リビングでくつろぎ始めた。ゴールデンウィークの、ゆったりとした時間が過ぎていく。普段は騒がしい朝だが、今日は静かだ。ゴールデンウィークが終わると、元の日常が戻ってくる。そして、再び学校だ。その間は、ゆっくりと休み、ゴールデンウィーク明けに備えよう。




 3人は朝から勉強をしていた。宿題はそこそこたまっていて、それをゴールデンウィーク明けに提出しなければならない。つらいけれど、先生の信頼を得るためにはやらなければ。


 正午になった。そろそろ昼食の時間だ。昼食はレトルトカレーだ。炊飯器のごはんを皿に盛り、温めたレトルトカレーをかけるだけだ。


 3人はレトルトカレーを食べていた。だが、俊介と安奈はいない。だけど、今日までだ。ゴールデンウィークは今日で終わり。明日からはまた学校だ。寂しい日々もあと少しだ。


「お昼も作り置きか」

「我慢しようよ。今日までだよ」

「そうだね」


 レトルトカレーを食べ終えた3人は、気晴らしにどこかを歩いてみようと思った。


「ちょっと店の様子を見てみよう」


 望は、池辺うどんがどういう状況なのか見ようと思った。先日見た時には、かなりの人が並んでいた。今日の状況はどうだろうか? 望は気になったようだ。


「そうだね。どうなってるのか、気になるし」

「うん」


 3人は池辺うどんに向かった。食べるからではない。行列の状況を見るためだ。


 3人は池辺うどんの前の道路にやって来た。そこには今日も大行列ができている。先日と全く状況は変わっていない。それだけ栄作の作る讃岐うどんが有名なんだと感じる光景だ。


「な、何だこれ」

「こんなに集まってるの?」


 俊作は驚いた。今日もこんなに人が集まっているとは。そして、こんなに車が停まっているとは。駐車場は満席なので、駐車場待ちの列だろう。


「人気店だからね」


 ふと、望は栄作の事を考えた。こんなに多くの人の讃岐うどんを作る栄作って、すごいなと思った。自分もこんなに多くの人のために作らなければならないのかなと思った。


「父さん、大変そうだね」

「大丈夫だよ。だって、大将だもん」

「そうだね」


 だが、3人は全く心配していなかった。栄作は大丈夫だ。だって、池辺うどんの大将だ。


「どうしたの? じっと見て」


 望は、行列の様子をじっと見ている。夏休み、特に盆休みはもっと多くの人が並ぶんだろうなと思った。


「僕も、こんなことしなくっちゃいけないのかなと思って」

「えっ!?」


 だが、望は少し笑みを浮かべた。あまり考えないようにしよう。


「いやいや、何でもないよ」

「ふーん」


 そろそろ帰ってゲームでもしよう。ただ行列を見ていても、何にも面白くない。


「じゃあ、帰ろう」

「そうだね。家に帰ってゲームでもしよう」


 3人は家に帰っていった。

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