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 4月の末、ゴールデンウィークに入った。この時期は学校や仕事は休みが多くなり、その期間に旅行をする人が多くなる。香川県にも多くの人が訪れる。彼らの目的は様々で、讃岐うどんを食べに来る人もいる。


 だが、旅行に興味のない望、俊作、明日香はいつものように朝を迎えていた。だが、俊介や安奈は朝から仕事だ。ゴールデンウィークに入ってから忙しくて、食事は作り置きだ。だが、彼らは寂しくない。テレビゲームをしていると、寂しさを忘れる事ができる。


「おはよう」

「おはよう」


 望は起きて、リビングにやって来た。だが、そこには俊作と明日香しかいない。


「今日からゴールデンウィークだね」

「うん」


 2人はすでに朝食を食べている。だが、2人とも寂しそうではない。去年もそうだった。


「何をしよう」

「特に考えてないよ」

「そっか」


 休みだからと言って、勉強やテレビゲームばっかりではつまらない。外に出て遊びたいな。と、俊作は思った。この近くの空き地で野球をやろう。


「じゃあ、野球でもしよっかな?」

「そうだね」


 その話には、望も乗り気だ。きっと同級生も来ているだろうから。


「近くの空き地でやろうよ」

「うん。午後からね」


 俊作は思った。勉強をするのが先だ。午後から外で遊ぼう。


「わかった!」


 3人は決めた。午後から空き地で野球をしよう。きっとみんなも集まってきて、楽しいだろう。


 午前中、望は外を見ていた。池辺うどんにはまだ誰も並んでいない。ゴールデンウィークは多くの人が来ると聞いたんだが、本当だろうか? どれぐらいの人が集まるんだろう。栄作の言っている事は、本当だろうか?


 昼下がり、望は家でのんびりしていた。そろそろ約束の時間だ。時間になったら俊作がやってくるだろう。


「望ー、時間だぞー」

「うん!」


 俊作の声だ。近くの空き地に向かおう。そこで野球をやろう。きっとみんなも集まってるだろうから。


 3人は空き地に向かった。だが、そこまでの道のりで行列ができている。すでに昼下がりだ。普通ならもう昼食を食べ終わっている時間帯だ。行列の先には池辺うどんがある。その行列はどこまでも続いているように見える。


「あれ? 何だこれ」


 望は驚いた。栄作の讃岐うどんが食べたいがために、こんなにも人が集まるのか。


「ああ、この時期はゴールデンウィークだからね。全国からうどんを食べたい人がやってくるんだ」

「そうなんだ」


 望は思った。自分も将来、これだけの人に讃岐うどんを食べさせないといけないのかな?


「どうしたの?」


 俊作は、望の表情が気になった。何を考えているんだろう。


「いや、何でもない」

「そっか」


 3人は空き地にやって来た。だが、そこには大量の車が停められている。この空き地は、池辺うどんに来る人の臨時駐車場で、ゴールデンウィークなどの混雑時のみ使われているようだ。


「あれ?」

「車でいっぱいだな」


 俊作はため息をついた。これでは野球ができないな。どうしよう。


「うん。ゴールデンウィークは多くの人がうどんを食べにやってくるから、そのための駐車場なんだよ」


 と、俊作は行列の中の交通整理の人を見つけた。この辺りはゴールデンウィークになると道まで行列や渋滞ができるため、交通整理が来るようになっている。それほど、池辺うどんは大人気なのだ。


「見てみろよ、あれ。おまわりさんも来てんだよ」

「本当だ」


 望は辺りを見渡した。大きな臨時駐車場を設けても、車が入りきらない。その場合、交通整理が来ている。


「渋滞が発生してるから、来てるんだよ」

「ふーん。それは何とかならないんだね」


 望はため息をついた。この行列、何とかならないのかな?


「ああ。混んでるからね」


 と、望は栄作の事を思い出した。栄作は今頃、忙しいんだろうな。自分も作り方をマスターして、栄作を助けたいな。


「父さん・・・」

「どうしたの?」


 俊作は望を見た。何を考えているんだろう。


「いや、何でもないよ」

「ふーん」


 結局、ここでは野球ができない。別の場所を探そう。


「別の場所を探そうぜ!」

「うん」


 と、俊作は思った。あの住宅地の先に公園がある。そこではできないだろうか?


「あそこはどうかな?」

「どうだろう。行ってみよう」

「ああ」


 3人は残念そうな表情で公園に向かった。


 その頃、行列の中にいる人は混乱していた。いくら人気店とはいえ、こんなに並ぶとは思っていなかった。それでもここの讃岐うどんは食べたい。どのガイドブックにも載っている有名店だから。


「どうしよう、こんなに並んでるよ」

「うーん・・・。でも池辺さんは香川で一番おいしいと言われているから、ここに行くべきだって」


 だが、運転手は諦めない。ここのうどんは本当においしいから。ここは絶対行くべきだろう。


「そうだね。頑張って並びましょ」

「うん」


 2人はため息をついて、進まない前の様子を見ていた。あと何分で、駐車場に入れるんだろう。全くわからない。


「まいったな・・・。これが人気店なのかな?」


 とんでもない店に来てしまった。だけど、ここの讃岐うどんは外せない。絶対に行かなければと思っているのに。

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