第13話 お隣の大谷さん
救急車は隣の大谷さんの前で、止まった。見過ごすことができないのか、お人よしなのか、使命感なのか、すぐに、優子が
「見てくる。」と言って飛び出した。
やれやれ、いつまでもワーカーホーリックは変わらないかと思いながら、博もついていくが、なぜか、その前を環がいく。
「どうしたですか。」
「おじいちゃんがおなか痛いって、冷や汗かいて、うなっているものだから。」
とお隣さんの大谷の奥さんが答える。
救急隊員と大谷さんに、「私が診ます。」と言い、ずかずかと家に入っていく優子を「うちの妹で内科の医者なんです。」と博は説明する。
大谷さんのおじいさんは、ベッドの上で、お腹が痛い、と冷や汗かいて、横になって唸っていた。優子が、救急隊に、
「私、医者なんで。バイタルは?聴診器ある?」立て続けにしゃべる。
「今、血圧測定します。」
救急隊もあまりの冷や汗に強張った顔をしている。
「206の110です。脈は120、体温は、36.5度です。呼吸数は、25回、酸素飽和度は
99%です。」
優子が、胸を聴診して、お腹を診ようとしたときに、環が、突然、
「おじいちゃん、下の腹が膨らんでいる」と言う。即座に、優子が腹を見ると、
明らかに、腹が膨満状態で、下腹部を抑えるとすごく苦しむし、すでにズボンが 少し濡れていた。
優子が、
「尿閉?これ、かなりおしっこが溜まっているよ。最近、おしっこ出てた?」
首を横に振りながら、「わからない」とかろうじておじいさんが答えた。
救急隊に、泌尿器科のある病院を探すようにといい、念のため、救急車内で、心 電図モニターを付けて、心筋梗塞などの判断は必要だからと指示した。
救急車内では、心電図モニターでは明らかな心筋梗塞の変化はないとのことであったが、結局、優子は救急車に同乗することになった。
「さすがは、元循環器内科医だわ、いや、今も、半分は現役かな」
「じゅんかんきないかい?」
「ああ、優子ねーちゃんは、心臓のお医者さんなんだよ。」
と、環と話していたら、
救急隊が、病院へ受け入れ確認を行い、慌ただしく、病院へ連絡をしている。
「80歳 男性 下腹部痛で、尿閉疑いの患者さん、オオタニ シュウヘイさんです。そちらの病院での受診歴はないそうです。今から搬送します。」
そして、救急車は病院へ出発した。
救急車を見送りながら、やれやれ、と思いながら、博は、心の中で、大谷さんのじいちゃん、シュウヘイさんだったんだ。もう少しで、メジャーリーガー?、いやでも、今は大谷尿閉なんだなぁと下らぬことを思っていた。しかし、環はすぐに、お腹のことを指摘したよな、と環を見たら、
「おとうさん、今、ダジャレ考えていたでしょ。」とジト目で見られた。
この子はときに、恐ろしいほど大人のような口ぶりになる。
まるで、コ〇ン君に出てくるAIちゃんのようだ。中身は、大人?それも、博がダジャレを思いついたときに、反応する。こいつ、ダジャレ阻止ハンターか。略して、DSH。そして、この前に、ミッキーの声真似したら、恐ろしいほど、ドン引きされたので、それ以来気を付けていたが、ここまで鋭いとは、と感心していると、環が、再び見透かしていたかのように、壮大な溜息をした。
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