第12話 妹 優子の訪問
博の妹、優子は、内科の医者で近くの病院で勤務している。独身で、ひたすら、昼も夜もなく、鬼のような働き、ついに、運悪く、トラブルにも巻き込まれ、燃え尽き、健診部門への転職をしている。
よくもまぁ、過労死しなかったとは思うが、本人曰く、過重労働でも楽しいと感じていれば、大丈夫だったそうだ。しかし、当然、そんな働き方をしていては、体が持たないし、理不尽ともいえるトラブルに巻き込まれると、いくら使命感に燃えて、楽しいと思っていても、突然、切れてしまうこともある。人間である以上、何かのきっかけにそうなってもそれは仕方ないだろう。
幸い、とことん思いつめる前に、優子の場合は、使命感も楽しさも吹っ飛んだようで、最悪の事態は避けられたようだった。
だから、ゆとりを持てるようになった優子に、博は環を引き取るときに、もし、博に何かあれば、環を任せてもよいかは相談しており、実は了承済みだ。だから、ときどきは、環と顔合わせをしている。
そして、優子と環の関係も良好であった。
あるとき、今日は休みだからと、優子が家にやってきていた。環も最初のころは、「ゆうこねーちゃん」と言っているつもりが、「うんこねーちゃん」に聞こえていたが、今は発音も大丈夫となった。
「最近は、普通の診察はしているの?」
「一応ね。やっぱりしないと、臨床力が落ちるのは、嫌だからね。」
「りんしょうりょくってなに?」
「患者さんをしっかりみて、きちんと一番いいお薬だしたりすることだよ。」
「へぇー、おねーちゃんすごいね。」
「まぁ、最近は、いろいろあって、お疲れだったけどね。」
確かに、昨今、時代は変わり、モンスターペイシェント問題、内科医の不足などの問題があり、巻き込まれやすい医者ならば、いつ心が折れてもおかしくない状況だ。博も製薬会社の営業をして、医者の最近の愚痴は聞いていた。中には、開業を辞めるきっかけになっている場合まである。
さすがに最近の頻発する医療従事者が被害者になる事件もあり、優子も当然、そのような被害が受けていただろう。それは、女医であるということも関係しているだろう。まぁ、医療従事者にも問題ある人はいるし、患者にも問題のある人は必ず一定数いる。
しかし、最近は、多数のマスコミや一部の人々は、一方的に医療従事者が悪いと騒ぎ立てる。そして、その双方に挟まれる立場になれば、たまらない。
優子が来ると、いつも環は、優子の膝の上に座ろうとする。これは、秀樹、雅人にはしない。なぜか、優子だけなのだ。そして、いつも優子は、
「生き返ったわ。また明日から頑張れるわ。」と言って帰るのであった。
しかし、この日は、色々話していると、救急車の音が近づいてきた。
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