第11話 食育参観

  環は、見た目はごく普通の女の子であった。運動能力は中のやや上程度に見える。言葉は、初めてのころは、極めて遅れている感じだったが、今は全く問題ないし、少し舌足らずだった発音も、ほぼ問題はなくなった。そして、物事の理解力は同年代よりも明らかに上だ。しかし、明らかに不思議と言えることが、いくつかあった。


 その日は特別な給食の日だった。ここの園の給食は、外部委託されていた。

食育についてのイベントであり、たまたま休みだった亜希も参加していた。二人の息子のときはなかった行事でもあった。この日は、お弁当の形式をとられていたが、なぜか、みんなテーブルに座った時に、

環が、

「ごはんがおかしい」

というのだ。それもまだ、ふたが開いていないのに。

亜希は不思議に思い、まだ、先生がお話している最中だったが、ふたを開けてみると確かにふたにご飯から糸を引くようについてくる。納豆もはいっていないのに。

(どうしよう。これは環の言う通り、おかしい。そういえば、この前に、お弁当のごはんが原因での食中毒事件があったわ。)

環が亜希の顔を覗き込みながら、

「おかあさん、私が言うね。」と言い、

急に、「先生、今日のご飯は食べちゃダメ」と大きな声で言った。

一斉に、注目を浴びて、亜希は、しどろもどろになりながら、

「お米がねばついています。これは、何かとの味つけですか?」

と焦りながら、なんとか言うと、食育の話をしていた講師の人が、ふたをとり、「そんなことはないはずですが」

と戸惑いながら、ご飯を確かめだした。講師の人の顔が歪み、

「みんなまだ食べてはだめですよ」

と言い、幼稚園の先生に、「これは食べてはまずいです。」と囁いた。

保護者がいる前では、さすがに、食中毒を起こす可能性があることは大々的には言えない。それも食育のインベントで。しかし、ごまかしようがないのも事実で、ここで、普通に食べると、問題が生じる。

  急遽、講師の先生が、

「みなさん、まずは今日のお弁当のふたをとってください。食べたらだめですよ。いつも通り、いただきます、してからですが、保護者の方々から、まず今日は、まず匂いをかいでみましょう。それから、よく観察してください。」

 保護者が、ふたを開けて、まず匂いをかぐ。一部、不自然な顔をしているが、

匂いでははっきりないようであった。

 「それでは、お箸で、ご飯をかき混ぜてください。」

納豆も入っていないのに、かき混ぜるとは、不自然極まりないが、数人の保護者が、「ああっ」と声を上げた。さすがに、ご飯がおかしいことに気づいたらしい。ここで、講師の先生が、

「本日は、食育の一環として、給食を親子で食べていただく予定でしたが、どうも先ほどのお子さんと保護者の方が指摘されたように、これはおかしいので、本日の弁当は回収させていただきます。子供たちの食事については、園の先生からお話ししていただきます。本日は、普段食べている食事でも,病気になるかもしれないという意味では、食育かもしれませんが、幼稚園の子供がそこまで、学習するのは、難しいし、とりあえずは、食中毒事件を防げたと思いますので、申し訳ございません。」 

 園長先生は、食育の先生の話の後に、慌てていたが、何とか、本日はこの後、臨時のお休みにすること、また、お弁当についての報告は後日、連絡することを伝えることになった。

 帰り道に、亜希は、環に、

「どうしておかしいと思ったの?」と聞いてみたら、

「う~ん、なんとなく、変なにおいがした。」

 後日、ニュースでも話題となり、原因はご飯であり、黄色ブドウ球菌などが検出されたそうだ。ここの園では、たまたま、環の指摘で、被害がなかったが、同じ給食業者が納入している他の園では、それなりの被害もあった。そして、今回も、環の不思議な能力が、園の保護者の間で話題となった。

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