第10話 幼稚園での出来事

 1年が経ち、年も明けて、幼稚園に行くことは大丈夫だろうということになった。年少組への入園は、最初はいろいろと心配したが、むしろよくしゃべるし、幼稚園になじんでいる感じがした。


 あるときに、砂場で足を取られ転んだ子が、泣きだした。小さな子供ではよくあることだ。その時に、近くにいた環が、「大丈夫、大丈夫」と言いながら、泣いている子を抱いている。すると、泣いていた子供はすぐに泣き止むし、怪我もしていない、ということが、当たり前のようにあるのだという。

 まるで、大人がするようだし、不思議なことに、環がきていから、幼稚園で、怪我をする子が極端に少なくなったらしい。幼稚園の先生の間で話題になっているとの話であった。

 ただし、自分が転んだときは、泣くことはなかったが、怪我はしっかりしていた。だから、環が怪我をしたときは、一人だけ、絆創膏をつけていたりして、すごく目立つらしかった。だから、子供たちの間でも、環は特別な存在だったらしい。喧嘩していたり、泣いていたり、怪我をした子供がいれば、なぜか、他の子が、環を呼びにいくらしく、そのあとは、なぜかみんな仲良くしているし、怪我もしていないらしいし、キチンと報告までしてくれるそうだ。そして、言葉が遅れ気味の子には、しきりに話しかけるとも、言っていた。

 担任の先生には

 「本当に不思議なんですけど、一人、保育士が増えたみたいで、これまでにないぐらい、助かっています」とも言われるほどであった。

博は、環が本当の子供ではないので、そのことでいじめられるのではと心配はしていたが、幼稚園では、問題はなさそうだった。そして、違う意味で目立っていた。


その後、さほどの問題もなく、環は、年長になった。



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