第6話 里親制度

 児童相談所の職員に無理やりおいていかれた里親制度の書類を二人で確認すると、里親の条件で重大な問題があった。受け入れるならば、制度的には、養子縁組里親だけど、子供が成人したときの年齢が65歳未満(であることが望ましい)という条件だ。確かに、望ましいと思う。なにせ、博は、60歳なのだ。また、亜希は、50歳なのだ。あの子が、20歳になったら、博は、80歳、亜希は、70歳なのだ。それって、下手したら、もう死んでる。生きていても、認知症になったりしていたらと考え出すときりがない。順番でいうと俺の方が。さすがに、亜希もその年齢となると、いくら、新NISAとか確定拠出年金、高配当株式投資をしていても、生活する上での十分の資金があるわけでもなし、年金はこの先どう変わるかわからないし、退職金もどう扱うかの問題もある。大学とか、もし行くならば、とてもではないが、本当の子どもでも厳しいのに、そこまで面倒みきれるのかという考えにたどり着くのは当然であった。どこかの誰かが、異次元の少子化対策など言っているが、一般的にそれなりに裕福な国民であっても現実は厳しい。当然、それなりにも裕福と言えない国民はもっと厳しい。まぁ、お上は現実を理解できていないと思う。

 そして、また、その里親の役割に引き継ぎを、息子たちに頼むのも、お門違いであった。もっとも、そんなことを考えている雰囲気もあの二人はなさそうだった。普通、現実問題として、そこまで、お人よしになれない。当然、少し里親を受け入れようかと傾いた気持ちは、一気にしぼんだ。

「少し条件が合わないですが、」と言い、苦笑いし、書類だけおいて、そそくさと退散した児童相談所の人の考えていたことに初めて気がついた。

 とにかく、書類は目を通してから、断る理由も考えてといいながら、見ていくと、なにやら、元厚生労働大臣が、里親になった話、いわゆるお金の補助などのことも書かれており、月15万程度は支給され、それ以外の医療費なども支給されるなどのことも記載されていた。

「お金の問題は、まだそれなりに手厚くされているようだな。」

でも年齢のこともある。たとえ、元厚生労働大臣が年齢を問題とせず、里親となったといわれても、私たちと家庭の条件が違うと思う。当然、ここでも、亜希も私も、困ってしまった。またもや、ここで、自分たちの年齢、経済的な問題について考える。これからは、いつ大きな病気が出るかもしれない。なぜか、あちこち痛いのは消えてしまったが。もちろん、この年齢で、今は、しばらくは、失業保険が入るが、安定した生活のためにも、それなりの収入は必要。年金をもらうのは、もう少し先が妥当だが、そのゴールポストもいつ遠のくのかわからない。国にお任せでは、これからはやっていけない。時間は、今はまだあるので、5日間の里親研修などはするなら、今のうちだが。

 結局、博と亜希は、悩みに悩んで、里親を引き受けることにした。一番、驚いているのは、当事者の二人だが、もちろん、二人の息子も。二人ともあきれた感じで、秀樹は、「二人で、元気で長生きしてね。」と言い、雅人は、「現実の問題がいろいろありすぎじゃないの?まぁ、がんばってね。それより、俺のこと、何と呼ばせようかなぁ。お兄様かな。」と言われて、何も言えなかった。

しかし、二人とも、「妹ができるは、もっと早い時の方がよかったのになぁ。」と言われてしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る