第5話 葛藤
児童相談所の人が帰った後、二人はしばらく、動けず、しゃべらず、茫然としていた。再起動したのは、長男の秀樹からの電話であった。
「今度の金曜日に、仕事で、そっちに行くから、土曜日に家に帰るわ。」
「う、うん。」
「どうしたの?お母さん、なんか上の空なんだけど」
「それが」かくかくじかじかで、とものすごい勢いで、亜希が話し出して、やっと秀樹も状況を飲み込めた。
「そんなことあんの。で、どうするの、里親なるなら、いろいろ手続きもあるだろうし。雅人も聞いたら、びっくりするだろうな。そういえば、昔、猫が家にきたときあったね。すごいね。今度は、子供でしょ。なんかに好かれているの、うちの家は。まぁ、決まったら、また教えてね。」
こいつ、他人事と思って~と、心の中で叫びながら、電話を終わった亜希が、
「どうするの、うちが今から、3歳の子どもを育てるの?。やっと雅人も就職して、子育て卒業したばかりなのに。」
「どうするも、こうするも、・・・。なんか外堀も内堀も埋められたような気分だな。」
「あと、私たち、なんかえらい何かに好かれているの?」
しばらく、沈黙がつづいたが、重い雰囲気を変えたい博が、話題を変える。
「そういえば、亜希は、最近、汗がよく出るって言わなくなったな。」
「だって、冬でしょ、今は。でも、なんか更年期の症状が確かによくなったような気がするわね。それも急によくなった感じ。ちょっと不思議だけど。あなたもあの頃より、かなり顔色もいいし、なんとなくしんどい、腰痛いとか言わなくなったわよ。」
亜希は、最近、更年期のホットフラッシュもあり、確かに暑いといって、汗ばかりかいていた。漢方なども一時飲んでいたが、効果なく、あきらめているようだった。よく考えれば、自分も体の痛みはよくなった気もする。
「それは、まぁ、確かに体はよくなった感じもするな。納得のいかない退職だったから、ストレスもあったけど、そちらも吹っ切れた感じ。時間がたったし」
そう、あの頃は、確かに落ち込んだ。せっかく新しいプロジェクトリーダーでの新薬開発が成功して、よしこれからというときに、55歳だから、早期退職をと打診され、断ったら、営業職へ移動となり、60歳で退職という路線を引かれてしまった。この5年間は、確かに仕事へのモチベーションも上がらなかった。したくもない仕事というだけではなく、営業という仕事も大変なのだ。特に慣れないことをしているだけでなく、人間のややこしさもこれまでよりも強く感じた。ストレスがあっても、メンタルは大丈夫だったが、体の経年劣化もあり、首も腰も痛いはひどくなる一方だった。それが、なぜかよくなった気がするのだ。それも新たな予想もしなかった問題が起きているにもかかわらずだ。元々、健康オタク傾向だったせいか、退職後は、ヨガなどもして、体のメンテナンスに余念はなかったが、亜希と同じで、なにか急によくなった感じだ。
「で、どうしよう。」話は、現実に戻る。
「今さら、3歳の子供を面倒みるのは、孫ができたらと思っていたけど、」
「そうだな、その可能性は、まだまだなさそうだけどね。」
しばらく沈黙の後、同時に二人が、
「仕方ないね。」
「仕方ないわね。」
「と言ってもなぁ。どうしよう。」
とりあえずは、書類を見ることにしたが、結局、二人は、里親になるしかないのかと考えあぐねた。
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第5話までたどり着きました。次回は12月25日に投稿します。良い悪いは別として、今のところ、三日坊主にはなっていません。。。
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