第12話:無礼な客人
心臓が爆ぜたように目の前が真っ白になった。
レイが?
王様として……?
「会わせて……」
「レイナちゃん」
「レイに会わせて」
「君は僕のお姫様なんだよ」
「お願いだから、会わせて!」
「僕には君しかいないんだ」
彼の背中には何も届かない。言葉たちはいつしか露となって頬を滑った。
「泣かないで」
細い指が私の眼元を撫でる。背に感じた彼の腕は呼吸を忘れるほどに力強かった。
「絶対に入ってくるな。いいね、レイナ。……僕は君を信じているよ」
最後に感じた温もりは唇だっただろうか。ガタン、という軋んだ音がして足枷が崩れ落ちた。軽くなったはずなのに、身体はどこまでも重たくて立ち上がることさえままならなかった。
*
「ディア様。先ほどは取り乱して申し訳ありませんでした。応接間にてレイ王がお待ちです」
「不服そうだね、コルテス」
彼は元から姫君を気に入らなかった。当然といえば当然か。拉致してきた姫君なんてヴァシアにとって危険因子でしかないのだから。
「先方はレイナ様の返却を希望されております。多額の賠償金を払うよりもお返しする方が賢明でしょう」
「返却ねえ。彼が追い出したも同然なのにね」
「彼女を手元に置いておいても利益はありません。それに王様もディア様のご結婚を望んでいます。彼女がいてはそれも難しいでしょう? そろそろ玩具遊びは終わりですよ」
僕が結婚をしないことも、彼女を誰の目にも触れさせないように匿っているのも、この国にとっては迷惑極まりないのだろう。分かっているよ、そんなこと。
「貴方は王になるお方です。立場上、多少の不自由くらいご聡明な貴方なら理解されているかと」
「君だって聡明なんだから分かっているだろう? レイ王が、彼女を求める理由くらい」
彼は少しだけ表情を強張らせた。今、ベルドールは飢饉に陥っている。それは王政の揺らぎに繋がりかねない。事実、彼の政権に不満を持ち始めた国民がクーデターを起こしたとも聞いている。レイナが死んだから王になれたレイの地盤は、彼女の生存が分かれば揺らぎかねない。彼にとって姉は肉親でもなく、政敵だ。レイがどれ程までに王座に固執しているのかをコルテスも知らないわけではない。
「私はディア様の臣下です。ディア様のことを一番に考えております。レイナ様がたとえ殺されたとしても、私は両国の国益になると考えます」
ベルドール王に貸しを作り、自国から危険因子を排除する。確かにそれは国益になるだろうね。
「君はいつだって冷静で客観的だ。だから傍に置いていられるし、信頼出来る」
「痛み入ります」
「ねぇ、コルテス」
「はい。ッ……!」
赤黒い血がぼたりとカーペットを染めた。腹に刺したナイフを、ぐっと押し込む。
「ッ……ディア、様」
「お前、死んでもいいよ」
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