第二話 降り立つ世界

「はぁはぁはぁ」


一人の少女が走る、ナニカから逃げているみたいに


「はぁはぁはぁはぁ」


路地裏に入ったり、出たりを繰り返して、逃げる


「あっ」


だがとうとう、目の前に壁が現れる


一人の大柄な男という壁が


「よぉ嬢ちゃん、何してんだ?こんなところで」


大柄な男が一人の少女を上から見下す


ところどころに刺青が入っていて、怖い


優しそうな雰囲気で声を掛けているが、どこか不気味だ


「ナニカから逃げるみたいによぉ、どうしたんだァ?」


「もう逃げ場はないぜ?お嬢ちゃん」


少女は大柄な男を見上げ、睨む


「はぁはぁはぁはぁはぁ」


息切れは止まらず、周りを警戒している様子だが


どこか余裕を持っている


「はぁはぁはぁ」


「すぅーはぁ」


「あまり私を舐めるなよ、小童」


少女がそう言った瞬間、少女の眼の鋭さが増す


「魔術 壱式 水流籠めええええ」


彼女が何かを唱えようとした、その瞬間、彼女の上に人が降ってきた


「あ、ごめん、なんか邪魔しちゃった?」


彼女を踏み台にした、彼、神と成った『神咲終徒カンザキシュウト』は


この瞬間、滅ぼす予定の世界に降り立った


「この、小童がぁぁああ!」


「妾がのぉ、かっこよくのぉ、撃退するところじゃろうが、普通ゥ」


ぷんぷんという言葉がよく似合う、僕の目の前にいる一人の少女?


が憤っている、ずっと、ドタバタ喚きながら


「ごめん、ほんとうに、知らなかったんだよ、マジで」


「何が知らない、だァ?人のかっこいいしーんを邪魔しおって」


悪いことをしたとは思っている、だが本当に知らなかったんだ


誰が悪いかの論争をするのなら、あいつだ、神だ


こんなところに落としやがった神が悪い


「ごめん、ほんとにごめん、そんな気なかったんだって」


その言葉を聞いて、少女は納得した様子で、ため息をつく


「はぁまぁいいわい、はよ去れ、まったく、もう」


「魔術 零式 花繭蚕ハナマユカイコ


少女がそう唱えると、彼女の怪我をしている腕に虫が湧く


蚕が怪我している所に糸を吐き、その怪我が治っていく


「なるほど、これが『魔術』か」


それを見て、俺がそうつぶやくと


こちらへの興味を無くしていた少女が、こちらに興味を向ける


「ん?お主、『魔術』を知らんのか?」


そう尋ねられる、確かに、気にしていなかったがおかしいか


この世界で一般的に使用されている『魔術』という物


俺は知らないが、この世界の人間なら、知っていないとおかしいか


「そう言えば、お主、空から降ってきたのォ」


怪しみの視線を向けられている、そうか、当たり前だ


空から降ってきた魔術を知らない俺は


傍から見たらおかしな人間だ


「いや、あれ、あれなんだよ、記憶がないんだ」


もう記憶がない以外の選択肢がない


神です、とも言いにくいし、異世界から来た、とも言いにくい


『記憶がない』それが一番納得できて、わかりやすいだろう、そう判断した


「記憶がない、と、なるほど、魔術の影響か、それとも他の何かか」


おお、納得?してくれたみたいだ、やはり記憶がないは通用する


もう、これから全部記憶ないで済ませよう


「う~む、わからん、だが記憶がないというのなら、そうなんじゃろう」


「小童、行くあてはあるのか?家とか場所とか、色々じゃ」


「わからない、あるのかもしれないし、無いのかもしれない」


「まぁそれはそうか、行く当てなどないか」


少女がそう言って、黙り込んだ、何か考えているみたいだ


「わかった、なら家に来い、ちょうど昨日使用人が逃げての、困っていたんじゃ」


助かった、金も何もなくて、このままだと野宿になるところだったんだ


申し訳ないが、他に住むところを見つけるまで、ここで厄介になろう


「ありがとう、えっと、そうだ、名前は?」


「あ、そうじゃのう、自己紹介がまだじゃった」


「儂の名前は、狐彌氷華キツネビヒョウカ、よろしく頼むぞ、今日から」


ん?よろしく頼む?いや、まぁ一緒に住むのだから当然か


流石に、何もしないのでは、こちらも気が引ける


ん?使用人が逃げて困っていた?ん?いや、まぁ流石に、ねぇ


一抹の不安はあったが、他に選択肢がないので着いて行くことした


この後、この選択を後悔するともしらずに

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