22.波乱の幕開け!

「ねぇねぇ! 名字が片岡かたおかってことは片岡かたおか君の妹のなの!?」


「中学はどこ行ってたの? 地元じゃないよね!?」


 ひよりがみんなに囲まれて質問攻めにあっている。


「んと……えと……」


 ひよりはとても困惑しているようだ。


 これもきっと一つの才能なんだろうなぁ……。

 人に好かれやすいって、とても大切なことだと思う。


 それに加えて、先日の未成年の主張だ。



(わ、私ー! 昨日まで家に引きこもってましたが今日から登校しましたー! こんな私ですがこれから宜しくお願いしまーす!)



 あんなこと言われたら、この子と友達になりたいって思っちゃうよなぁ。


「お、お兄ちゃぁん……!」


 でもどうしていいのか分からないひよりは、俺に助けを求めてきた。



「やっぱり片岡かたおか君の妹じゃんかー! やだー! 美男美女!」


「このクラス、顔面偏差値高くね?」



 ひよりの一声にクラスが沸き立つ。


 熱烈歓迎モードは俺として嬉しいが、肝心のひよりは顔が真っ青になってしまっている。


「俺の妹の片岡かたおかひより、諸事情あって今日から登校することになったんだ。みんな宜しくね。あと、あんまり人と話すことに慣れてないからほどほどにしてもらえると嬉しいな。な? ひより」


 ひよりに声をかけながら、俺はみんなに頭を下げた。

 ひよりも俺に釣られてみんなに頭を下げる。



「尊い!」


片岡かたおか兄妹にそんなことお願いされたら頑張っちゃうよぉ」



 ……なんか異様に盛り上がっている気がするけど、ひよりの初登校の反応としては文句なしだと思う。


 これから、俺もひよりも普通の学校生活が送れるといいな。


 


※※※




「それじゃ片岡かたおかさんは、今村いまむらさんの後ろの席でお願いします」

「……」


 ひよりが担任の吉田ちゃんに案内をされる。

 なにやらものすごく不満そうな顔をしている。


 ちなみに俺の席は窓際の一番後ろ。


 あかねは真ん中の後ろから二番目。

 ひよりは真ん中の一番後ろの席になった。


 俺とひよりの間には他のクラスメイトいるので、近いようでなんとなく話しづらい位置にいる。


「なんであんたの後ろ……」

「もっと聞こえないように言ってよ……」

「聞こえるように言ったんだもん」

「うぅ……」


 なにやらひよりとあかねがやり合っている……。


「心配?」


 二人の様子を見ていたら、隣の席の女子に声をかけられた。


「すごく心配そうな顔で見てたよ」

「そう?」

「あっ、誰って顔してる」

「うーんと……」


 初めて隣の席の女子にこんな風に話しかけられたかも。

 あれだ……あれ……。

 俺をミスコンに誘ってきたあかねの友達だ。

 顔は覚えているのだが名前が全然出てこない……。


三条さんじょう姫花ひめか。この前はミスコンありがとうね」

「あっ、ごめん。まだクラス全員の名前をちゃんと覚えてなくてさ……」

「まだ入学してから二・三ヶ月くらいしか経ってないから仕方ないよ。私も男子の名前はまだちゃんと覚えてないし。片岡かたおか君は有名人だから別格だけど」

「それはどうも」


 金髪のショートボブが、落ち着きなく揺れている。

 なんとなく騒がしい印象のある子だった。


「あれ? この前、黒髪じゃなかった?」

「文化祭を機にイメチェンしてみたの」

「ふーん」

「全然興味なさそう。そりゃあかねと比べたら、私なんてちんちくりんですけど」

「卑屈だなぁ」


 三条さんじょう姫花ひめかと名乗った女子が、わざとらしく唇を尖らしている。


あかねと付き合っているのは秘密にするの?」

「知ってたんだ」

あかねとは幼馴染だからね。あっ、あかねから聞いたわけじゃないよ。なんとなくそうなのかなって思っただけ」

「鋭いね」

「で、どうなの?」

「別に秘密にするつもりはないよ」

「へぇ~」


 三条さんじょうが興味深そうに俺の言葉を聞いている。


 あかねとの関係を秘密にする必要はないし、秘密にする理由もない。

 それにどうせ例の件があるから、このことが話題になるのは時間の問題だろう。


あかねは男子のこと苦手なはずだったんだけどなぁ」

「えっ? そうなの?」

「うん、でもそれを覆すくらい片岡かたおか君のことが好きになったんだね」

「……」

「あっ、ちょっと照れてる?」

「うるさい」

あかねのことこれから宜しくね。あかね、ああ見えても結構頑固だからね」

「それはなんとなく知っている……」

「多分、片岡かたおか君が思っているよりもだよ?」


 三条さんじょうがどこか含みのある言い方をしてきた。


 


※※※




片岡かたおかさーん! トイレに行こー!」


 一限目の授業が終わると、すぐにひよりの席に色んな人が集まってきた。


片岡かたおかさんって趣味とかあるの?」


 女子だけではなく、男子もひよりに群がっている。


「ひよりちゃん、すごい人気だね」


 その様子を見てあかねが俺に声をかけてきた。

 ちょっと前ならあかねを中心にクラスが回っていた気がするが、ひよりの登場で完全に立場を奪われてしまった感がある。


「大丈夫?」

「何が?」

「ひよりが人気一位になっちゃったみたいだけど……」

「二番じゃダメなんでしょうか」


 あかねがどこかの政治家みたいなことを言っている。


「二番を自虐に使うのやめろよなぁ」

「ふんっだ。どうせ私は永遠の二番手ですよ」


 今度は緑の配管工になってしまった。


「ねぇねぇ~、二人とも~?」


 茜とそんなやり取りをしていたら、隣の席の三条さんじょうが俺たちに声をかけてきた。


「どうしたの姫花ひめか?」

「このネットの記事って片岡かたおか君のこと?」


 三条さんじょうが、スマホのネットニュースを俺とあかねに見せてきた。



“元天才子役と元最強美少女! 禁断の恋愛!?”



 ……は?


 顔にはモザイクがかけられているが、間違いなく俺とひよりの写真が出ていた。


 文化祭で俺とひよりが腕を組んで歩いている写真だった。

 

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