20.都合のいい女じゃないよ?
それは俺たちが小学四年生のときだった。
「喜べ
「え?」
ある日、父さんが突然俺にそう言ってきた。
(やだなぁ……)
そのときはそんなことを思ったのを覚えている。
「
「
俺は女性にそんなことを言われ続けて育ってきた。年上の女性はもちろん、同級生や年下の女の子にさえそんなことをずっと言われていた。
……それがとても苦痛だった。
小学四年といえば、恋愛にも少し興味が出てくる時期でもあった。
男として恋愛に興味が出てくる自分と、周囲の自分に対する評価があまりにも違い過ぎる。
心と体がふわふわと乖離しているような感覚がずっと見にまとわりついていた。
「は、初めまして
だが、時間は俺のそんな内情なぞ関係なしに進んでいく。
いつの間にか父さんの再婚の話は決まり、いつの間にか同じ歳の妹と生活をすることになった。
俺たちがもっと小さかったなら話は別だったのかも……。
俺たちはお互いに思春期真っ盛りのときに兄妹になってしまった。
夏休み前に親が再婚して、何か月かが経ち冬になった頃だろうか。
ある日、ひよりが俺にこんなことを聞いてきた。
「
「ま、まぁ仕事があるから」
「なんでそんなに頑張るんですか?」
「うーん……なんでだろう? 俺がちょっとでも稼げば父さんが幸せになるかもしれないから?」
「お父さんが?」
「い、いややっぱり父さんがって言うか家族がかな? 俺の本当の母さんはお金がなくて出ていっちゃったみたいだから」
「……」
ややぎこちない会話ながらも、ひよりが興味深そうに俺の話を聞いていた。
「兄さんは格好良いです! じゃあひよりも働いてみたいです!」
「へ?」
この時、初めて同級生の女の子に格好良いって言われたのかもしれない。
※※※
「そんなふわっとした初恋だけどね。小学生だから自分のこと肯定してくれる人が気になっちゃって」
「……」
「それからひよりが俺にベタベタするようになってさ」
それから父さんにはよく同じことを言われるようになった。
ちゃんとお兄ちゃんとして妹と仲良くしなさいって。
父さんは、今も俺にひよりのことをお兄ちゃんとして任せたと言ってくる。
さすがにこの歳になれば、父さんのその言葉の本当の意味が分かってくる。
「なんでそれを私に話してくれたの?」
「昨日、変な騒動に巻き込んじゃったから。それに――」
「それに?」
「ちゃんと
「そのくせ今日は妹ファーストしたくせに」
「それはごめんって! どうせなら付き合うならお互いに自分を
「トオル君って意外に子供っぽい……」
「なぬっ」
「今時、ただ付き合うだけでそんな風に思う人少なくないかなぁ」
「し、仕方ないだろう! だって初めてできた恋人なんだから!」
「それは私もだけど……」
そう言うと、
「……トオル君、私都合のいい女になるつもりはないよ?」
「分かってる。俺のこと嫌いになった?」
「その言い方はずるい」
普通じゃない俺が、
だって、普通の人は妹のこと好きにならないし。
「じゃあ手を繋いで」
「ん?」
「ひよりちゃんのいる前で手を繋いで」
「分かったよ」
俺は
……早い者勝ちとはちょっと違うけど、俺は
「あ゛ぁああああああああああああああああああ!」
あっ、妹の大声が聞こえてきた。
……お互いにひよってなければとか、そんな考えは今は胸にしまっておこう。
「
ひよりが俺たちにタックルを仕掛けてきた!
第一章 文化祭編 ~完~
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