19.妹ファースト!

「それじゃ行ってくる」


 今日は文化祭後の連休初日。

 朝、あかねと約束をしているので出かける用意をする。


 文化祭は本当に色々なことがあった……。


 あかねと付き合うことになって、ひよりが登校することになって――。


 俺たちの生活はこれを機に色々変わる予感がする。


「いってらつしゃい」


 ひよりが玄関まで見送りにやってきた。


「……」

「……」


 ひよりの顔がスンッとしている!

 

 完全に明鏡止水の境地! 悟りの域に達してしまっている。


 あ、あまりにも不気味過ぎる。


「い、言いたいことあるならちゃんと言えよ!」

「特にありません」


 何故か敬語だ……。


 怒っている……?

 でもそれだと見送りにはこないような?


「最初はどちらに行かれるご予定で?」

「とりあえず映画を見に行く予定」

「分かりました」


 それだけ聞いて、ひよりは無表情で自分の部屋に戻っていった。

 ……なんかちょっと嫌な予感がするぞ。


 


※※※




「待った?」

「待ってないよ」


 近くのコンビニであかねと合流する。

 お互いに定番の台詞を吐いてしまった。


「今日は初デートだね」

「いちいち言わなくてもいい」

「もしかしてトオル君照れてる?」

「うるさいなぁ」

「……」

「……」

「――で、あれはどういうこと?」


 あかねが近くの電柱柱に指を差した。


「あっ――!」


 帽子にサングラスをかけた人がサッと物陰に隠れた。

 あの背格好……あのどこかで見たことのあるパーカー……。


 ど う み て も ひ よ り で あ る。


「初デートは妹さん同伴?」

「俺は連れてきてない」

「私、今日のために沢山おしゃれしてきたのに」


 言われてみると、今日のあかねはうっすら化粧をしているようだ。

 白いワンピースは膝上まで短くて、黒いストッキングを履いてきている。


「へー、普通に似合ってるよ」

「なんかその言い方は嫌」

「ミスコンの格好を見た後に私服の感想求めるなよ」

「それでも聞きたくなるじゃん! それにトオル君はずるいと思う」


 あかねが俺のことをじとっとした目つきで見つめてきた。


 今日の俺の服装は白いワンポイントの半袖のTシャツにジーンズ。

 胸元にはメンズ用のプレートネックレスを付けているだけだ。


「イケメンだとTシャツさえお洒落になるって本当だったんだ」

「うるさいなぁ。で、これからどうするよ」

「予定通り映画館に行く?」

「まぁ、定番だとは思うけど……」


 俺も出かける前は映画に行く気になっていた。

 だが気になるのはそこの電柱にいる義妹だ。

 ちらちらとやたら視線を感じる!


「今日休みだから映画館は混むよな?」

「ん? 多分、そうだと思うけど……」

「じゃあ今日はのんびりと人が少ない所に行こうか」

「あっ! いいね! 私、そういうのも好きだよ!」

「よし、じゃあとりあえず公園で散歩でもしようか」


 どうせひよりは尾けてくるんだろうなぁ……。

 じゃあ人混みは避けてやらないといけないじゃん。


 


※※※




 学校の近くにある比較的大きな公園に来ていた。


 公園とは言っても、テニスコートに野球場や体育館があり、スポーツ系のレジャー施設が割と充実しているところだ。


 敷地が広いので、ちらほらと人とすれ違ったりするが、人混みになるほど人はいないようだ。


「えっ? あかねも妹がいるの?」

「うん、今年中一になったばかりだよ」

「意外にもお姉ちゃんだったとは……」

「意外ってなによ! だからトオル君とはお兄ちゃんとお姉ちゃん同士だよ」


 その公園のお散歩コースを、あかねとのんびり歩く。


 今まで落ち着いてお互いのことを話したことがなかったので、これはこれで丁度良かったかもしれない。


 映画だと会話はできないもんな。


あかねの両親はなにしてるの?」

「二人とも普通の会社で働いてるだけだよ。そういうトオル君の親は?」

「父さんは田通でんつうの営業マン。母さんは東京で自分の店で美容師やってる」

「で、田通でんつうって大手広告代理店の!?」

「みたい」

「で、お母さんは東京の美容師さん!?」

「東京の美容師さんくらいでびっくりしすぎじゃない?」

「も、もしかして東京で一番予約が取れないと言われている美容室のKATAOKAって……」

「おっ、よく知ってるじゃん」

「トオル君たちが別の世界の人間に見えてきた」


 父さんは映画の宣伝の仕事をやっていたことがあるらしい。

 その関係で俺は映画の子役をやることになった。


 母さんは母さんで、芸能人のスタイリストもやっている。

 ひよりは母さんのツテでモデルをやることができた。


「トオル君の話を聞くと、恥ずかしくてうちの話はできないよ」

「ただ目立つ仕事をやっているかどうかの違いだけでしょう」

「そうかもだけど……」


 あかねがいらんことを気にし始めた。

 たかが親の話で気後れしないで欲しいんだけど……。


「……ところでトオル君」

「ん?」

「私、一つだけとっても気になってることがあるんだけど」

「奇遇だな、俺もだよ」


 さっきから下手糞な尾行をしているやつがいるんだよなぁ……。

 木に隠れたり、ベンチに隠れたりしている。


 俺たちの会話を聞こうとしているのか、段々と距離が近づいているし。

 サングラスはずれ落ちて、もはやただのひよりになっている。

 そしてまぁまぁ険しい表情で俺たちのことを見ている。


「そんなにお兄さんのことが好きなんだね」

「うっ……」

「それにトオル君もひよりちゃんのことが大好きなんだね」

「……そう見える?」

「だってトオル君、全部妹ファーストでしょう」

「妹ファースト!?」

「ひよりちゃんのことを気にして、人混みじゃないところに来たくせに」


 ぐっ……。

 あかねには、あっさり俺の魂胆が見抜かれていた。


「私、ひよりちゃんに嫉妬しております」

「ごめん」

「でも、私のこともっと知ってもらって、妹ファーストより二番目ファーストになってもらえるように頑張ります!」

「二番目ファーストってなんだよ!?」


 ついにあかねが二番目を持ちネタにし始めた!


「それにしてもひよりちゃんも可愛いなぁ……。はぁ……尊い……」

「お、お前って実は厄介ファンの素質があるよな……」

「うるさいなぁ! 大体さ! トオル君は、あんな可愛い子と一緒に住んでて女の子として意識したりしないの!?」


 あかねがからかうように俺にそんなことを聞いてきた。


「したりするよ。ひよりと俺は血が繋がってないからさ」

「えっ」

「それに俺の初恋はひよりだし」


 俺はあかねに正直にそう答えた。

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