17.宣 戦 布 告
「お兄ちゃん、一緒に出ようよ~」
「絶対にヤダッ!」
この企画でよくあるのが、全校生徒の前で愛の告白をするやつだ!
「○○さん好きでーす!」「ごめんなさーい!」の流れを何かで見たことがある!
大体、ミスコンに出て、この企画に参加するなんてどんだけ目立ちたがりなんだよ!
「お兄ちゃん~!」
「そもそもお前、人前に出られないだろう」
「うっ……」
ひよりの顔が青ざめた。
完全に思いつきだったなこいつ……。
「でも……」
「でもじゃない、無理だって。変なこと言ってないでたこ焼買いに行こうぜ」
「む、無理じゃないもん!!」
急にひよりが大きな声を出した。
「ど、どうした!?」
「無理じゃないもん! だったら私だけで出るし!」
「お、おい!」
ひよりが俺から離れて、どこかに走り出してしまった。
「待てって! お前、まだ学校のことよく分かってないだろう!」
「トオル君!」
ひよりを追いかけようとしたら、
※※※
「な、なんだよ! 早く追いかけないと!」
「そうだけど、ちゃんと整理したほうがいいかなと思って……」
「整理?」
「トオル君はもうひよりさんの気持ちは知ってるんだよね?」
「え?」
「それは――」
「私、トオル君とひよりさんの関係はよく分からないけど……」
「普通の兄妹なら寝取られたって言わないよ?」
「……」
「普通の兄妹ならキスするなんて言わないよ?」
俺が目を逸らそうとしていたことを、ズバリ
「……っ!」
触れては欲しくないところに触れられてしまった。
できれば見ないフリをして欲しかった。
「俺たち普通じゃないのかもな……」
ボソッとそんな言葉が漏れてしまった。
女の子の天才子役と言われていた俺。
引きこもりの元カリスマモデルの義妹。
高校生にもなってミスコンで優勝できる俺なんて、どう考えても普通じゃない。
ひよりだって――。
「失礼かもしれないけど、私、トオル君もひよりちゃんも思ったよりも普通だと思ったよ」
「え?」
「時代最強の美少女も普通に恋するんだなって」
「
「だからちゃんと向き合わないとダメだよ。トオル君はお兄ちゃんかもしれないけど」
クラスで二番目の美少女は俺に優しくそう言ってきた。
俺がこの子に感じた感覚を、この子も俺に感じてくれていた。
「ごめん、昨日から引き続き俺たちの変な騒動に巻き込んで」
「んーん、私は平気だから」
「本当に?」
「うん。だって私、トオル君の彼女だし」
※※※
プルルルル
ひよりの携帯を鳴らすが応答はない。
どこだ!?
どこに行ったんだあいつ!?
ひよりは、この学校に縁もゆかりもないはずだ……。
ひよりの行く場所が全く検討がつかない。
「家に帰っちゃったとか?」
前のひよりだったら十分に可能性がある。
でも、あの様子だとそれは少し考えづらい気がする……。
「あっ、そろそろ始まっちゃうね」
「始まる?」
「未成年の主張」
時計を見ると、時間は午前の十一時になろうとしていた。
未成年の主張は確か午前と午後の部で行われるようになっていて――。
「まさか」
俺は急いで屋上に向かうことにした。
※※※
「いた……」
屋上に行くと、入口付近で、受付をやっている机がすぐに見えた。
安全管理のためか、先生の姿もちらほらと見える。
校庭が見渡せる手すりの近くには小さな台が用意されていた。
その後ろにはこれから主張をするだろう生徒が並んでいる。
一、二、三……。
ひよりは三番目に並んでいる。
「あれ!?
「出ませんっ!」
受付にいる女の先輩に声をかけられたがすぐにそう即答した。
今は敬称いじりは無視だ!
「あの子、どこのクラス?」
「すげー美人じゃない?」
ひよりの姿を見て、そんな声が周囲から聞こえてくる。
「ひより!」
「……っ!」
後ろからひよりに声をかけるが無視される。
背中は小さく震えていた。
「三年一組高橋さーーーん! 好きです付き合ってくださーい!」
「ごめんなさーい! 好きな人がいるんですー!」
定番のやり取りが目の前で繰り広げられている。
どうするつもりなんだひよりは?
まさか全校生徒の前で、俺に告白するつもりなのだろうか……。
「……」
もしそのときがきたら、俺はどう答えたらいいんだろう。
さっきの人たちみたいにすぐにごめんなさいなんて言える関係ではない。
ちゃんと向き合うにも時間が足りなすぎる……!
考えがまとまらないでいると、すぐにひよりの番がやってきてしまった。
「ひより! 無理するなよ!」
後ろからその小さな背中を見守る。
俺にもなんとも言えない緊張感が襲ってきた。
「い、一年七組ー!
ドッと学校中がざわめきだした。
ここから下にいる観客は見えないが、盛り上がっている様子だけは目に浮かぶ。
(大丈夫かな……)
あれは相当無理している……。
足は小刻みに震えているし、顔色も良くない。
声も昔に比べたら全然出ていない。
どうしてそこまで無理をするのだろう……。
どうしてそこまで頑張ろうとするのだろう……。
「わ、私ー! 昨日まで家に引きこもってましたが今日から登校しましたー!」
声を震わせながら、ひよりがなんとか声を出している。
下からは「頑張れー!」とか「これから宜しくねー」とか、そんな言葉が聞こえてきた。
「こんな私ですがこれから宜しくお願いしまーす!」
ひよりが、みんなに注目されながら丁寧に頭を下げた。
どうやら無事にスピーチを終えたようだ。
俺が思っているよりも、ずっと普通の主張だった。
……ただ、その一生懸命さだけはとても伝わってきた。
俺、ちょっと過保護だったのかな……。
ひよりは俺がいなくても自分自身で頑張ろうとしていたのかも。
俺が無理に学校に行こうと言わなくても、そのうち自分一人で学校に来れるようになっていたのかも。
ひよりは俺が思っているよりもずっと大人になろうとしていたのかも。
「それとーーー!」
最後にひよりが一言だけ付け加えた。
「あんたなんかに絶対にあげないんだからぁあああああ!」
今日一番の大きな声が学校中に響き渡った。
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