14.夜這い?
「ダメ……かな?」
「ダメ」
「な、なんでぇ!?」
「だって、いきなりおかしいだろ……」
俺がそう言うと、ひよりはすがるような目で俺のことを見つめてきた。
「学校に行くんだろう。そんなことしてないで明日の用意をしないと」
「うぅう……」
「制服の準備は大丈夫なのか?」
「まだしてない……」
「ほら、俺も手伝ってやるから」
「うぅううう」
「歯磨きとお風呂は?」
「シャワーは浴びてきたし、ちゃんとお口のケアもしてきたもん」
ひよりの様子が本格的におかしくなってしまった!
こいつ、
(き、気づいていないフリしないと……)
シャワーを浴びてきたということはそのつもりで来たということ……?
相手は妹! 妹は家族だ!
それに今の俺には付き合って一日も経っていない彼女がいる。
(いつも通り……いつも通りに接しないと)
内心は動揺しまくっているが、それは絶対に表に出さないぞ……。
役者をやっていたのが初めて私生活で役に立った。
「お兄ちゃんは私のこと好き?」
「当たり前だろ。家族だし」
「……」
ひよりがなにか言いたそうに俺の顔を見ている。
「ほら、早く用意しないと明日寝坊するぞ」
「うん……」
そう言って俺は、ひよりの肩を押して自分の部屋から出ることにした。
※※※
時間は夜の十時過ぎ。
ひよりの明日の学校の準備を終え、俺は再び自分の部屋に戻ってきた。
俺とひよりの部屋は隣同士だ。
「もう今日は早く寝てしまおう……」
精神的にも肉体的にもくたくただ。
ベッドに入り目を瞑ると、すぐにまどろみがやってきた。
今後、ひよりのことはどうしようか……。
あっ、親にひよりが学校に行くことになったって連絡してない。
あの週刊誌の記事はいつ出るのだろうか……。
ミスコンで借りた制服もクリーニングして返さないといけないよな――。
……。
……。
……。
……。
――まとまらない思考のまま、うとうととしていたら急にベッドの中に異物が侵入してくるのを感じた。
「……よいしょっと」
ふわっと鼻先にシャンプーの匂いがする。
これは俺も使っているシャンプーに匂いだ。
「……なにしてんの?」
「ごめん、起こした?」
目を開けるとひよりの顔が目の前にある。
どうやらひよりが俺のベッドに入ってきたようだ。
「一緒に寝ないって言ったじゃん。俺たちもう何歳だよ」
「昔は一緒に寝てたじゃんかぁ……」
「寝てないだろ!」
俺の親とひよりの親が再婚したのは、俺たちが小学四年生のときだ!
お互いにいい歳だったので、小さな子供みたいにベタベタするというのは一切なかった!
「一緒にお風呂も」
「入ってない!」
「お医者さんごっこも――」
「してない!」
「……そうだよね、私たち普通の兄妹じゃないもんね」
「え?」
急にひよりがしんみりとした声を出した。
――ひよりの手が俺の背中に回ってくる。
胸と胸、お腹とお腹がぴったりとくっつく。
ひよりの足が俺の足に絡まってきた。
ひよりの呼吸は少し荒くなっている。
「私、お兄ちゃんのこと大好きだよ?」
ひよりが熱に悩まされたような目つきで俺にそう告げた。
クラス一の美人だ、女の子役の天才だと言われても、俺の中身は間違いなく男だ。
女の子に興味はあるし、それなりに性的なことに興味だってある。
……なのでこの状況は非常にまずい。
「どうした? 今日は変だぞ」
「私のほうが……私のほうが……あの女より大好きなはずなのに……!」
ひよりの体が震えている。
これはきっと寒さで震えているわけではないと思う。
「……お兄ちゃんももう高校生だもんね。彼女が欲しくなっちゃったんだもんね」
「ん?」
「いいよ、お兄ちゃん。私のこと彼女だと思って好きにしても……」
背中に回された手が力いっぱいにぎゅっと握りしめられた。
ひよりが体を限界まで密着させようとしてくる。
ひよりの女の子として柔らかい部分がパジャマ越しに俺に当たってしまっている。
「ひより……」
「お兄ちゃん……」
「よしよし」
「えっ?」
俺はひよりの頭を撫でてることにした。
何度も言うが役者をやっていて良かった……!
落ち着け……落ち着くんだ俺……。
ここは兄として乗り切らないと、色々死ぬことになる。
ひよりは妹。
ひよりは家族。
エロいことは考えてはいけないのだ。
そうだ! こういうときはゴリラの顔を思い浮かべよう!
ゴリラには性欲がわかないから!
今、隣にいるのはゴリラ!
ひよりではなくゴリラにハグされていると思うようにしよう!
「お、お兄ちゃん! 私、お兄ちゃんのためならなんでもするよ! エッチなことだってなんだって――」
ゴリラがなんかしゃべってる。
ゴリラはなんでもしない……ゴリラはエッチなことしない……。
「よしよし、ひよりは可愛いなぁ……」
「も、もう……お兄ちゃんってば……」
ゴリラは柔らかくない……。
ゴリラは良い匂いしない……。
「も、もう……お兄ちゃんったら……」
しばらくそうしていると、ひよりからはすぅすぅと寝息が聞こえてきた。
今日はきっと泣き疲れていたのだろう。
「はぁ……はぁ……!」
額には汗がびっしょりだ。
まさかひよりがこんなことを言ってくるなんて……。
俺は何故か義妹に迫られている!
(いや、何故かじゃないか……)
そこまでひよりが俺のことを思ってくれていたなんて……。
でも、ここは“何故か”にしておかないと大変なことになってしまう。
だって、俺は少なからず
それに父さんと母さんにもなんと言ったらいいか……。
※※※
ピンポーン
朝、玄関の呼び鈴で目が覚めた。
「すぅ……すぅ……」
目を開けるとすぐにひよりの寝息が聞こえてきた。
俺、ひよりに何もしてないよな……?
つい自分の身の回りを確認してしまった。
ピンポーン
再び呼び鈴が鳴った。
「あっ、はいはーい!」
ひよりを起こさないようにそっとベッドから出た。
誰だろう? こんな早い時間に?
時間はまだ朝の七時前だ。
「おはようトオル君!」
「
玄関を開けると
「どうしたの?」
「朝、一緒に行こうと思って」
「携帯で連絡してくれれば良かったのに」
「私、まだトオル君の携帯教えてもらってないよ」
「あっ」
その笑顔を見て心の底からほっとしてしまった。
「あははは! それにしてもトオル君、すごい顔だよ」
「えっ?」
「寝れなかったの? クマが凄いよ」
しまった、顔も洗わずに
そ、そりゃあ昨日はほとんど寝られなかったからな……。
「ごめん、今用意するから」
「うん、私も早く来ちゃってごめん。外で待ってていい?」
「いや、家にあがればいいじゃん」
「……本当にいいの?」
「どうしたんだよ、遠慮して」
「後ろ……」
「へ?」
白いパジャマは左肩がはだけている。
「ひよりさん、おはようございます!」
「……私、寝たから」
「え?」
「私、昨日お兄ちゃんと寝たから」
「はぁああああ!?」
ひよりが
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