11.交際開始

「じゃ、じゃあそういうことなんで!」


 あかねが手で口を隠して、顔を耳元まで真っ赤にさせている!

 目元ははうるうるになっている!


片岡かたおかさん! もう少しお話を聞かせてください!」

「この子、二番目ふつうの子なんで! 勘弁してあげてください!」


 全力でその記者におじぎをした。

 頼む! もう見逃してくれ! 俺の記事なんて金にならないぞ!


「そ、それでは失礼します!」


 あかねの手を掴んで、この場から早歩きで立ち去る。

 

 あぁ、もう!

 まさか学校の文化祭でこんなことになるとは思わなかった!


「ごめんあかね!」


 しかも全然関係のないあかねを巻き込んでしまった。

 本当に悪いことを――。


「嬉しくて涙でてきた」

「え?」


 あかねの頬には涙が伝わっていた。

 



※※※




 さっきの記者に見つからないように、比較的人の少ない体育館裏までやってきた。


 普段は人気がない場所だが、今日は文化祭なので結構人が休憩したりしている。


「ごめん、巻き込んだ」


 いつの間にかあかねと繋いでいた手を離す。

 俺の言葉に、あかねがぶんぶんと全力で首を横に振った。


「ううん! 少しでもそういう対象として見てくれたんだなって嬉しかった」

「いや、でも――」

「でも? でも、本当に付き合っちゃう?」


 あかねが俺から目線を視線を逸らす。

 自分で言っておいて、とても恥ずかしそうだ。


(やっちまった……)


 どれくらいの大きさになるかは分からないが、あの様子だと記事になるのは確実だと思う。



片岡かたおかって本当に女が好きなの?)



 昔、同級生にそんなことを言われて頭にきたことがあったな……。

 見た目のせいで、同性愛者だと思われていたこともあった。


 ……。


 ……。


 ひよりのことを考えるなら、俺も一歩前に進まないと。

 元天才子役(♀)ではなく、普通の男子高校生になれるようにしないと。


あかね

「どうしたの?」

「俺、恋愛ってよく分からないけどさ……」


 あかねが不安と期待の眼差しをしている。


 こういう洞察力は、役者をやっていたから身についてしまった。


 あかねは俺の次の言葉を待っている。

 きっとあの言葉を言われるのを待っている。


「俺たち本当に付き合ってみる? どうせ記事に書かれそうだし」

「うんっ!」


 あかねは食い気味に俺の言葉に返事をした。


 


※※※




◆ 片岡かたおかひより ◆



「うぅ、私も文化祭に行けば良かったかな……」


 昨日はお兄ちゃんがミスコンに出たことを怒り過ぎてしまった!

 お兄ちゃんのことだからなにか考えがあったかもしれないのに。


「私ももっと大人にならないとなぁ」


 お兄ちゃんはいつも私のことを守ろうとしてくれている。


 でも、守られてばかりだといつまでもお兄ちゃんに私のことを一人の女性だと見てもらえない。


「よし! 今日お兄ちゃんが帰って来たら私も来週から学校に行くって言おう! そしてちゃんと謝らないと!」


 自分のことを好きになってもらいたいなら、自分がまず変わらないとだよね!


 よーし、今日は景気づけに夜はご馳走にしちゃうぞ!

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