12.寝取られた! ※片岡ひより視点
「ふんふーん♪」
エプロンを着て、キッチンに向かう。
今日はお兄ちゃんの大好きなものフルコースにしよう!
唐揚げに天ぷらに、豆腐とワカメの味噌汁でしょー!
「そういえばお兄ちゃんは高校でお友達できたのかな?」
この前、夜ご飯いらないって言われたときは誰かと食べてきたのかと思ったけど。
お、お兄ちゃんが文化祭で友達と回っているところが想像できない……。
お兄ちゃん、結構ぼっち気質だもんなぁ。
中学生のときも、一人でいても結構へっちゃらそうな顔してたし。
「でも、もしお兄ちゃんに友達がいたら私もお友達になれるよね!」
そうだ、そうだ! そうしよう!
私は友達を作るのが下手だから、お兄ちゃんの友達と友達になればいいんだ!
「あっ、それともお兄ちゃんったら友達がいないから私のことあんなに文化祭に誘ってたのかも」
その可能性もあるかも。むしろそっちの可能性のほうが高いような気がする。
だとしたらちょっと可哀相なことしちゃったかな……。
(学校かぁ……)
私だって青春に憧れはある。
お兄ちゃんとお弁当一緒に食べられるかな。
席はお兄ちゃんの近くかな。
勉強は苦手だけど、試験前はお兄ちゃんと一緒に図書館に行くのも悪くないかもしれない。
(「前の学校みたいなことにはならないと思うな。もっと打算なく付き合える人しかいないんじゃないかな」)
お兄ちゃんもそんなこと言ってたし。
「ちょっと楽しみになってきた!」
あんなに嫌だった学校が、お兄ちゃんの言葉のおかげで前向きになってきた。
早く言いたいな。
お兄ちゃんに学校に行くって!
「ただいまー」
あっ! そんなことを考えていたら玄関からお兄ちゃんの声が聞こえてきた!
「おかえりー!」
つい弾んだが声が出てしまった。
※※※
「同じクラスの
「はい?」
私が待っていたのはお兄ちゃんだけのはずなのに、何故かお兄ちゃんの隣には知らない女がいる。
真っ黒な髪、白い蝶型のヘアピンを付けている女の子だ。
「い、
表情は一切変わっていない。
(鉄仮面みたいな女)
私のその女に対する第一印象は最悪だった。
「この前、助けた人がいるって言っただろう。その子がこいつでさ」
「は、はい! お兄さんに助けてもらいまして……」
二人が何かを話しているが一切耳に入ってこない。
ただその女がお兄ちゃんと話していることが不快で仕方がなかった。
「はぁ……はぁ……」
ただ息切れがする。
心臓がバクバクと音を立てている。
「あの! 私、ずっとひよりさんに憧れてました! 今日会えてとても光栄です!」
だから聞こえてないんだって!
どこの誰とも知らない女にそんなこと言われても全然嬉しくない!
「ひより、
「最後の一言は余計じゃない!?」
「だって事実なんでしょう?」
「事実だけど、今憧れの人の前にいるんだから黙ってて!」
お、お兄ちゃんが私以外の女の名前を呼び捨てにしてる。
許せない!
許せない!
許せない!
誰よこいつ! 一体どこの誰なのよ!?
「――っ!」
話さないといけないのに声が出ない。
今すぐこの女に出ていけって言いたいのに、全然声が出てこない。
「ひより?」
「ひよりさん?」
お兄ちゃんとその女が心配そうに私の顔を覗き込んできた。
二人でそうしているだけで、私の目にはじわっと涙が浮かんでくる。
「はぁ……はぁ……!」
何か言わなきゃ……!
このままだとこの知らない女に私のお兄ちゃんが取られちゃう!
「うぅう……!」
「どうしたひより?」
私の大好きなお兄ちゃん。
子供の頃からずっと好きだったお兄ちゃん。
男の子なのに女の子役の天才だって言われて、ずっとつらそうにしていたお兄ちゃん。
お兄ちゃんに近づきたくてモデルを始めたのに、私が事務所に入ったことをずっと申し訳なさそうにしていたお兄ちゃん。
東京からこっちに来るときも、ずっと私の傍にいるよって言ってくれたお兄ちゃん。
ずっと……。
ずっと……!
ずっと大好きだったのに!
私のほうがお兄ちゃんのことを愛しているはずなのにっ!
「私のほうが先に好きになったのにぃいい!」
嫌い嫌い嫌い! この女なんて大っ嫌い!
好き好き好き! お兄ちゃん大好き!
私のお兄ちゃんを寝取らないでよっ!
「ひ、ひより……?」
お兄ちゃんが見たこともないくらいびっくりした顔をしていた。
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