7.二番目の美少女 ※今村茜視点

◆ 今村いまむらあかね ◆



 片岡かたおかが、怒った顔をして教室を出ていってしまった。

 実行委員会をやっている姫花ひめかと一緒に私は教室に取り残された。


「良かったー、あかね片岡かたおか君も出てくれるようになって」


 全然良くないよぉ……。


 やってしまった。

 言ってしまった。

 片岡かたおか君のことを怒らせてしまった。


「これで文化祭は大盛り上がり間違いないよね!」

「うぅ……」

「今まであかねは絶対にそういうのに出なかったのにね、今回はありがとうね!」


 好きな人に敵視されるのってこんな気持ちになるんだ……。


 全身から力が抜けていく。

 胸がズキズキする。

 

あかねが出るって言ったらクラスの男子は喜ぶぞ~」

姫花ひめかはちょっと黙ってて!」


 私の幼馴染の三条さんじょう姫花ひめか

 イベントとお祭りが大好きな女子。

 小学校の頃から、いつも悪気なくこうやって私のことを巻き込む!


「あ、あかね!?」

「なによぉ……」

「泣いてるの?」

「え?」


 姫花ひめかに言われて、自分の目元を触ってみる。

 自分でも知らない間に、涙が出てしまっていた。


 男の人なんて苦手……。

 男の人なんて苦手だったはずなのに……。


 好きな人が女の子っぽいって言われたら頭にきちゃったじゃんかぁ……。


 確かに片岡かたおか君は女の子っぽいけど、私は片岡かたおか君のことを男性として好きになったのに……。


 男の子なのに、女の子のフリまでして助けてくれた片岡かたおか君のことを好きになったのに!


姫花ひめかの馬鹿!」

「なんであかねが怒ってるのよ!?」


 家に帰ったらミスコンの対策を考えないと……。


 


※※※




 片岡かたおか君を巻き込んだのには理由がある。


 ――私が一番になることで、片岡かたおか君の精神的な何かを取り除いてあげたい。


 ミスコンに誘われたときの片岡かたおか君の表情と言ったら!


 一切を包み隠さず、嫌そうな顔をしていた。


 だったら、私が真の一番になってしまえば片岡かたおか君がそう言われるもの少なくなるかもしれないと思ってしまったわけだが……。


「勝てるわけないよぉおおお!」


 ミスコンなんて所詮は人気投票だ。

 有名人の片岡かたおか君に勝てるビジョンが全く見えてこないよ!


「私の馬鹿馬鹿! なんであんなこと言っちゃったの!」


 ベッドに飛び込んで足をバタつかせる。


 ひよりちゃんを引き出したのは明らかにやり過ぎだった!


 私の馬鹿!


 私のアホ!


 私のアンポンタン!


 私なんかがひよりちゃんに勝ってるわけないじゃん!


 私から見たらひよりちゃんは雲の上の存在!

 憧れの存在でしかないのに!


「げほっげほっ! うぅ、どうしよう」


 しまった……興奮しすぎて咳が出てきてしまった。

 

 片岡かたおか君をやる気にさせるためにかなり余計なことを言ってしまった……。


 そもそも、人前に出ること自体が嫌なのに……。


(でも……)


 片岡かたおか君に助けてもらった日のことを思い出す。


 片岡かたおか君は必死に私のことを助けてくれた。

 自分の評判なんて気にせずに、私のことを思いやってくれた。


「頑張ろう」


 助けてもらった恩返しをしたい。

 片岡かたおか君の力になりたい。


 これから私が一番になることで有名になれば……。

 片岡かたおか君を二番目の美少女にすることができれば……。


 片岡かたおか君が可愛いって言われなくなるかもしれない!


 片岡かたおか君にあんな表情をさせなくて済むようになるかもしれない!


 しばらく使っていなかったお化粧道具を探さなければ。



 

※※※











 ――文化祭、当日。


 司会役をやっている先輩のアナウンスが会場中に響き渡った。


「それでは第22回諸泉もろいずみ高等学校のミスコン優勝者は、片岡かたおかとおる君に決まりましたー!」

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