6.ミスコン開催!

 県立諸泉もろいずみ高校。

 今、俺が通っている高校の名前だ。


 中学の頃は、俺もひよりも東京の中学校に通っていた。

 私立で芸能人が沢山いる少し中学校だった。


 とても華やかなところだったなぁと思う。


 東京なので、出かける場所は有名なところばかりだったし、周りの同級生もテレビで見たことのある人ばかりだった。


 みんな活力には満ち溢れていたし、みんな己の野心のために自分を磨くことを怠っていなかった。


 でも、本当の友達と呼べる人は少なかったと思う。


 雑談といえば、自分がやっている芸能活動の話。


 有名な誰かと仲良くしていれば、自分もいつか仕事がくるかもしれない。

 有名な誰かとつるんでいれば、今後自分の得になるかもしれない。


 自分が上に行くために、みんなが打算的なことをしていたと思う。


 ……ひよりは、そんな学校生活が嫌になってしまった。


 天才子役の妹、そして今は人気沸騰中の時代最強の美少女。


 そんな肩書を持つひよりに沢山の人が近づいてくるようになってしまった。


 ひよりを利用しようとする人。

 ひよりに悪いことを吹き込もうとする人。


 他にも色々あってひよりは人前に出るのが怖くなってしまった。


 そんなひよりを見て、俺は親に相談して東京から出ることを決意。


 俺も芸能活動をやめたいと思っていたし、普通の生活への憧れもあったので、俺たちは父の故郷の少し田舎の高校に行くことになった。


 もちろん親も一緒に引っ越しをしてくれたのだが、親は東京の仕事があるためこっちにいることは少ない。


 それでもまとまった休みが取れた日はちゃんと帰ってきてくれるので感謝している。


(ちょっと楽しみかも)


 普通の高校で過ごす、初めてイベント。


 この前もひよりには言ったが、六月の諸泉もろいずみ高校文化祭が直前に迫っていた。


 


※※※




片岡かたおか君! ミスコンに出てくれない!?」

「やだ」


 ある日、放課後になるとクラスメイトの女子が俺に声をかけてきた。


「えー! お願い! 絶対に盛り上がると思うから!」

「だからやだって」


 確かこの子は文化祭の実行委員会をやっている子だっけか……。


「ほら、あかねも出るって言ってるし!」

「言ってない!」


 今村いまむらもその女子に声をかけられた。

 俺と同様にすぐに拒否の意思表示をした。

 

「本当にお願い! 美男美女カップルが出るって言ったら話題になるでしょう! それに片岡かたおか君が出るって言ったらみんな来ると思うし!」

「ミスコンって女子がやるやつでしょう。俺、男だし」

「えー! でも、クラス一の美少女は実は片岡かたおか君じゃないかって女子の間では噂になってるよ!」

「ふざけんな!」


 ついムカッとして大きな声をだしてしまった。


 そもそもカップルじゃねーし! そもそも美少女じゃねーし!


 ……と心の中でそんなことを思ったのだが、何故か俺よりも今村いまむらが険しい顔をしている。


 細い眉毛がきりっと吊り上がってしまっている。


姫花ひめか片岡かたおか君は男子だよ」

「うん、知ってる」

「女子だけの話を片岡かたおか君に言うのは良くないと思うな」

「あーー! 分かった! あかね片岡かたおか君に一位を取られそうで嫌なんでしょう!」

「そ、そんなことは……」


 なんだそういうことか……。


 今村いまむらが、まさか俺の代わりに怒ってくれたのかと思ってびっくりした。


 こいつ、この前も自分でクラスで一番可愛いって言われてるって言ってたもんな。


「とりあえず! やりたくないって言ってる人を無理矢理やらせるのは違うでしょう!」

「でもさぁ。折角、芸能人がいるのにもったいないじゃん」


 ……なんとなく分かったけど結局はこうなるんだよなぁ。


 俺は普通に過ごしたいと思って普通に過ごしているが、周りが普通の目で見てくれない。


 仕方のないことなんだけど、いざひよりが登校するとなったときはとても心配だ。


「で、でも……」

「じゃあそこで決着をつければいいじゃん! うちのクラス一位は一体誰なのか!」


 なんだそれ……。

 勝っても俺にメリットないじゃん。


「まぁあかねが勝ったら、片岡かたおか君はもう美少女って言われなくなるかもね。二番目の美少女ってなんか変だし」

「えっ……?」


 そう言われると、今村いまむらは真剣な表情で考え込んでしまった。

 少しの沈黙の後に今村いまむらが口を開いた。


片岡かたおか君、一緒にミスコン出よう」

「はぁあああああ!?」


 なんでそうなる!

 お前もさっきまで嫌がってたじゃんか!


「やだよ! 勝手に出ればいいじゃん!」

「胸」

「くっ……」

「私、なんでするって言ったよね」

「理不尽すぎる」


 相変わらずめちゃくちゃだ。

 普通、告ってきたほうのなんでもするがそっちだと思わないじゃん。


「はぁ、もういいよ。言いたきゃ言えばいいじゃん」

「えっ?」

「それでも出るの嫌なの。この歳で男の娘とか言われるのしんどいし」

「……」


 俺がそう言うと、今村いまむらが悲しそうな表情を見せた。

 いや、今その顔をしたいのは俺なんだけどね……。


「ひよりちゃん……」

「へ?」


 素っ頓狂な声が出てしまった。

 まさか今村いまむらの口から、ひよりの名前が出るとは思わなかった。


「えっ? 今村いまむらってひよりのこと知ってるの?」

「ひよりちゃんより私のほうが可愛いもん」

「あ、あのなぁ、ひよりは昔モデルをやっていて――」

「私のほうがひよりちゃんよりできるって言ってるの!」

「む」


 こ、こいつ……。

 言うに事欠いて、ひよりにまで張り合ってきやがった。


 ひよりはそういう争いが嫌で引きこもりになったというのに!


「わ、私のほうが絶対に可愛いんだから!」

「お前……」


 ひよりと俺は同じクラスだ。

 つまり今村いまむらとも同じクラスである。


 登校したらきっとまた、天才子役の妹、時代最強の美少女だと言われることになるだろう。


 それは悪意ある言い方も含めてだ。


 争いごとが嫌いな妹につらい思いは絶対にさせたくない。


 ……今村いまむらに絶対にひよりの前でそんなことは言わせない。


「……分かったよ。ミスコン出てやるよ」

「えっ?」

「お前の鼻っ柱を折ってやる! お前をクラス二番目にしてやるからな!」


 こうして俺は文化祭のミスコンに出ることになってしまった。


「やったー! 片岡かたおか君、《あかね》茜! ありがとう!」

「「ぐっ……!!」」


 今村いまむらと声がダブった。

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