3.一番目の美少女 ※今村茜視点

◆ 今村いまむらあかね ◆



今村いまむらさん! 付き合ってください!」


 四月の中旬。

 今日も体育館の裏に呼び出された。

 そしてまた名前も知らない男子に告白をされた。

 

「ごめんなさい」

「早ッ! もっとちゃんと考えてよ!」

「うーん……」


 一体なにを考えればいいのだろう。

 知らない人にそんなこと言われても困るんだけなんだけど……。


「ちゃんと考えてもお付き合いはできないよ。私、あなたのこと全然知らないし。っていうか誰?」

「うわぁあああああ!」


 その男子は私から逃げるようにどこかに行ってしまった。


「はぁ……」


 体育館裏に一人取り残された。


 つい溜息が出てしまった。


 なんで知らない人が私に告白してくるのだろう。



「さ、さすが今村いまむらあかねだ……! 容赦がねぇ」


「あんな冷たいフリ方がある……? さすが諸泉もろいずみ高の雪女」



 そして、なんでいつも告白現場に見学人がいるんだろう……。


「男の人って苦手だなぁ……」


 ぼそっとそんな言葉が漏れてしまった。


 


※※※




 私の名前は今村いまむらあかね


 十五歳の高校一年生。


 部活はやっていない。


 中学の頃にソフトテニスをやっていたが、私の試合だけを見に来る人が多いのでやめてしまった。


 趣味、特技は特になし。


 生まれつきの喘息持ち。


 中学二年の頃にスカウトされて読者モデルとやっていたが、それもすぐにやめてしまった。


 自分ではごくごく普通の人間だと思っているけど……。


あかね、聞いた?」

「えっ? なにを?」

あかねが、男子の人気投票一位だって! クラスで一番の美少女だってさ!」


 高校に入って一ヶ月が経った頃だろうか。

 仲の良い友達にそんなことを言われた。


 どうやら男子たちが秘密裏で女子の人気投票をやっていたらしい。


「っていうかあかねは、小学校の頃から人気投票一位だよね~! 羨ましい!」

「あははは……別に何もしてないんだけどね……」


 学年が変わる度にそういう投票がある気がする……。

 その度に、何故か私は一位を取り続けていた。


 なので、自分のルックスには少しだけ自信がある。


 おしゃれにも気を使っているので、みんなが可愛いって言ってくれるのはとても嬉しい。


「ねぇー! ねぇー! 片岡かたおか君が誰に投票したか気にならない?」

片岡かたおか君?」

「うん! でも、片岡かたおか君を入れたら絶対に美少女一位は片岡かたおか君だよね!」

「むっ」


 痛い所をつかれてしまった。


 同じクラスの片岡かたおかとおる君。


 元芸能人で、学校では知らない人がいないくらいの超有名人。


 細身でスラっとしていて、アイドル顔負けのルックスをしている。

 女装をすれば、多分男の子だと分からないくらい中世的な顔立ちだ。


 当然、女子にも大人気。

 でも基本はクールで塩対応。


 見た目と態度のギャップが、片岡かたおか君人気を更に加速させていた。


「実はあかねに投票してたりして!」

「ないない!」


 私、片岡かたおか君とは話したことすらないのに……。

 それに男の人は苦手だからあんまりこの話に興味ないんだけど……。


今村いまむらさーん! 隣のクラスの男子が呼んでるよ!」

「あっ……」


 また、呼び出しをくらってしまった。

 きっとまた告白されるのだろう。


 嫌だなぁ……。

 断るほうもメンタル削られるんだけど。


「さすがあかね! よっ、クラス一の美少女!」

「ちょっとやめてよぉ!」


 昔馴染みの友達にすらからかわれてしまった。


 片岡かたおか君の話をした後じゃ、クラス一の称号なんて恥ずかしいだけなんだけど!


 だって、私が読者モデルをやめた理由は――。


 


※※※




「うぅ……学校に行きたくない」


 五月の下旬。


 文化祭のシーズンがやってきてしまった。


 こういうイベントがあると、急にラブレターが増え出す。


 今日も誰かに声をかけられるかもと思うと、学校への足取りが重くなる。


「はぁ……はぁ……」


 ストレスで息が上がってきた。


「ちょ、ちょっと休まないと……」


 喘息持ちの私は、いつも季節の変わり目に体調が悪くなってしまう。

 最近、急に暑くなってきたもんなぁ……。


「げほっ、げほっ」


 胸が苦しい。

 咳が出てきてしまった。


 ちょっと休まないと……。


「ぜぇ……ぜぇ……」


 あっ、まずい。

 その場に座り込もうとしたら、足に力が入らなくなってしまった。

 目の前が急に真っ暗になった。


 


※※※




「頑張れ、もうすぐだからね」


 気が付くと、目の前には片岡かたおかとおる君の顔があった。


「大丈夫、大丈夫だからね」


 片岡かたおか君が優しく私の背中をさすってくれている。


 あっ、そうか……。

 私、倒れちゃったんだ……。

 でも、なんで片岡かたおか君がいるんだろう……。


(綺麗な顔……)


 男の子は苦手なはずなのに、片岡かたおか君には全然そんなことは思わなかった。


 きっと女の子みたいな顔をしているからかな……。


 ――私のクラスにはまだ一人、登校していない生徒がいる。


 片岡かたおかひよりちゃん。


 “時代最強の美少女”


 それがカリスマ読者モデルをやっていたひよりちゃんの称号だ。


 なので私は二番目だ。


 それに片岡かたおか君もいるので絶対にクラス一の美少女は私ではない。


 裏では絶対に一番になれない女。


 それが私なのだ……。


「げほっ! げほっ! 迷……惑を……ゴホッ! かけて……ご……めんなさい……ゴホッ!」

「気にしないで。今は自分のことをに考えて」

「えっ……」


 片岡かたおか君の言葉に心臓が跳ね上がってしまった。


 あ、あれ? なんだろう……この胸のドキドキは?


「俺、男装している女だから! だから女の子を助けても大丈夫でしょう!?」


 片岡かたおか君が、周囲に向かって声を荒げている。


 確か片岡かたおか君って、女の子役をやっていたのを言われるのを嫌がるはずじゃ……。


 私の中の価値観がなにか変わった気がした。


 


●●●




「す、好きです! 私と付き合ってくれませんか!?」


 次の日の朝、助けてくれたお礼を言おうと片岡かたおか君を待っていたのだが、勝手にそんな言葉が口から漏れてしまった。

 

「ごめんなさい」


 ……が、秒速でフラれてしまった。


「早いよ! もっとちゃんと考えてよ!」

「だって俺、今村いまむらのこと知らねーし」

「へ?」


 片岡かたおか君がどこかで聞いたことのある言葉を私に言ってきた。

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