2.天才子役(♀)だった俺
「今……村?」
ほっと胸を撫で下ろしたのも一瞬だった。
俺は、すぐにこの場の異常事態に気がついてしまった。
「なんで誰も助けようとしないんですか!?」
「だってなぁ……」
俺の問いかけに、誰かが返事をする。
「救急車を呼ばないと!」
「救急車は呼んだけど……」
「じゃあ誰かが介抱しないと危ないじゃないですか!」
俺の言葉にまた周囲が揉め始めた!
「俺には妻子がいるし」
「変に救助して、痴漢免罪みたいになったら嫌だしなぁ……」
「あっ、そろそろ仕事行かないと」
「女子高生に触るのってリスク高過ぎね?」
……。
どうやら、救助活動をするか否かで揉めていたみたいだ。
何かで見たことがある。
女性の救助にはリスクがあると。
痴漢やセクハラを疑われるから、男性は迂闊な行動はしてならないと!
「って、そんなこと知るかーーーー!」
俺は急いで、
「き、君! 大丈夫なのかい!?」
うるさいなぁ!
今はそんなことを気にしている場合じゃないだろうに!
「ってあれ? 君は女の子……? どこかで見たことあるような?」
俺の顔を見て、またどこかからそんな声が聞こえてきた。
こんなときにまでそこを言われるとは……。
その声を無視して、俺は倒れている
「大丈夫!?」
「はぁ……はぁ……」
呼吸はしているが、とても苦しそうだ。
意識は朦朧としているように見える。
「ちょっとごめんね」
少しラクな体制にしてあげないと……。
俺は
昔、親に習った救命処置を必死に思い出す。
確か回復体位ってこうだよな……。
「はぁ……ふぅ……」
ほんの少しだけ
「ちょっとごめんね」
少しでもラクになるように、
真っ白な胸と薄ピンクのブラがちらっと見えてしまったが、今はそんなことを気にしていられない。
「ちょっと! 脱がすのはまずいんじゃ!」
「あー! もう! 俺、女だから!」
まーたそんな声が聞こえてきた!
誠に不服だが、今はそういうことにしてしまおう!
今は自分のプライドよりこいつの救助が優先だ!
後は、体を道の端に寄せてあげないと……。
「あれ? 君、あの有名子役に似てない?」
「……」
「君、あの映画に女の子役で出ていた天才子役じゃない?」
無視だ、無視。
いちいち反応をしていられない。
「大丈夫? もうすぐ救急車が来るからね」
「……」
できるだけ優しく声をかけると、
「頑張れ、もうすぐだからね」
再度、励ますように
俺の言葉に
「ぜぇ……ぜぇ……」
横向きにした体がどんどん小さくなっていく。
足をくの字に曲げた拍子にスカートがめくれてしまったので、俺は自分の制服で
でも、どうしよう……。
これ以上はどうしていいのか分からない。
「大丈夫、大丈夫だからね」
救急車が来るまで、今の俺には声をかけることしかできない。
痴漢だとか、セクハラだとか、そんなこと言っていられない。
ピーポー
ピーポー
しばらくそうしていると、救急車の音が聞こえてきた。
※※※
「
「本当! 女の子みたい!」
昔も今もよくそんなことを言われる。
大人気ホラー映画「佐藤・オブ・ザ・デッド」
パンデミックで文明崩壊した日本を生き抜いていくといったホラー映画だ。
ホラーの中に涙あり笑いありで、シリーズ化もされた超人気作である。
俺は子供の頃、その映画に主人公の娘役として出演していた。
何故か男の俺が、女の子役で出演していたのである。
顔を監督に気に入られたからなのか。
それとも現場の人手不足のせいか。
なんでそうなったのかは俺にも分からない!
でも、“可愛い女の子が実は男の子”だったということで世間を騒がせることになった。
天才子役だなんて言われてちやほやされて、CMにでたり……。
「お前って全盛期の堀北真希みたい顔してるよな」
悪友曰く、俺はそんな顔をしているらしい。
もちろん悪い気はしないのだが、男としてはどうなのかなぁとも思う。
小さい男の子ならヒロインよりも格好良いヒーローに憧れる時期があるだろう。
もちろん俺もそうだった。
でも、そんな時期に女の子役をやって育った俺は、どこか大切なところが歪んでしまったような気がしている。
「――で、お兄ちゃんはその子のおっぱいを見たんだ」
「おっぱいって言うな!」
妹から聞きたくない言葉ベスト3に入るだろう単語を言われてしまった!
「あのなぁ! 俺は倒れているのがお前だと思ったんだぞ!」
「コンビニに行くだけで倒れるわけないじゃん」
ひよりの機嫌がすこぶる悪い。
朝はあんなに豪華だった食事が、夜はお茶漬けとたくわんだけになってしまった。
「おっ、じゃあちゃんと買い物に行けたんだ」
「うっ」
「ダメだったのか……」
「朝のコンビニがあんなに混むって聞いてない!」
「あっちゃー」
ひよりにはまだ高いハードルだった……。
朝のコンビニって通勤・通学の前の人がいるから意外に混むんだよなぁ。
「そんなことよりも、お兄ちゃんが助けた女の子の話!」
「これ以上なにもないよ。ただ助けただけ」
お茶漬けをすすりながら、ひよりにそう答える。
あの後、
そのまま学校に行くのもどうかなぁと思ったので、俺は一応病院まで付き添いをした。
詳しい病状は教えてくれなかったが、
「嫌な予感がするなぁ……」
ひよりがたくわんを食べながら、そんなことを呟いた。
ひよりが面白くない顔をしているので、この話題はここで強制的に終わらそう!
「そんなことよりもひより」
「んー?」
「来月さ、文化祭があるんだ。良かったらひよりも来ないか?」
※※※
次の日の朝。
いつも通り登校していたら、昨日のあの場所で俺と同じ高校の制服を着ている女子を見かけた。
というか見覚えのある顔をしている。
「って、
「か、
「具合大丈夫なの? もう病院から平気なの?」
俺の顔を見ると、
ちなみにこれが初会話。今まで話したことは一切ない。
「だ、大丈夫! 割とよくあるから……」
「よくあると困るやつだと思うんだけど」
「で、ででも! 具合はもう大丈夫だから」
「ならいいけど……」
声が上擦って、とても緊張しているように見える。
「もしかして待ってたの?」
「そ、そそそうなの!
「別に気にしなくていいのに」
「で、でもぉ……」
うーん……。
聞いていた噂と違うような……?
確か
「か、
「ど、どうした!?」
こ、今度はなんだよ!?
急に大きな声を出すからびっくりしてしまった。
「す、好きです! 私と付き合ってくれませんか!?」
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