かりそめの花嫁、姑に溺愛される
金澤流都
かりそめの花嫁と公爵夫人、意気投合する!
むかしむかし、とある国に病弱な貴族の御曹司がおりました。その貴族の家は何代も親戚同士で結婚を繰り返し、血が濃くなり、子供は7つまで育たないか、育っても50歳になるころには病気で寝たきり……という曰くつきの家柄でした。
その御曹司は三男でしたが、兄ふたりは幼くして亡くなり、いままさに病床にある父に「お前が嫁をもらって幸せにしているところを見たい」と言われ、家じゅうに結婚をせっつかれるようになりました。しかしはたから見れば呪われた一族です、公爵の身分があっても結婚したがる娘はおりませんでした。
その一方、王都にとぼとぼと出てきた貧しいお百姓の娘がおりました。故郷は未曾有の大飢饉でとても暮らしていけないという状況です。
口減らしと実家への仕送りを兼ねて王都に出てきたのですが、王都のような大都会にやってくるのは初めてで、王都の口入屋でどんな仕事にありつけるのか、恐ろしくてたまりませんでした。
もしかしたら悪人に騙されて売春婦にされてしまうかもしれません。悪人に騙されて無法者の慰みものにされるかもわかりません。とにかく華やかな王都が恐ろしく、それでも口入屋を見つけて入ろうとしたところで、さきほどの貴族の御曹司に声をかけられました。
「きみ、そんなところで仕事を探さないで、うちにこないか?」
お百姓の娘は御曹司を、悪人を見る目で睨みました。御曹司は美しく着飾っていましたが、顔いろは青白く、健康そうには見えません。
きっとなにか悪い薬どご飲んで遊ぶ悪党でねが。お百姓の娘は逃げ出す準備をしながら、ふと故郷の村で見た新聞の映し絵を思い出しました。娘は文字の読み書きはできませんが、村長の読んでいた新聞に、この御曹司の映し絵があり、その美しいことに驚いて村長に尋ねたら、
「公爵さまの御曹司だど」と言われたのです。
「
「あ、ああ……嘘に見えるかな。ほら」
御曹司は指に輝く大きな宝石の指輪を、娘に見せました。それは王から下賜された、貴族の証しでした。
「本当に御曹司
御曹司は娘が謝っていることに気付いて、顔をあげなさいと声をかけました。
娘は百姓の子だというのに色白で、目はすっと切れ長、唇と頬はぽっと色づいたように赤いです。これはちょっと化粧させてきれいな服を着せてやれば、公爵家にふさわしい貴族令嬢に見えないこともないのでは……? と御曹司は考えました。
「父が存命のうちに結婚式を挙げたいんだが、僕の家は血がとても濃いからみんなすぐ死んでしまう。それで結婚してくれる人がいないんだ。よかったら、僕と式だけ挙げてもらえないだろうか。相応のお礼をするし今後は不自由しない暮らしを保証する」
「ほんとだか!? あいー、
「君は決してブサイクじゃないし、結婚式を挙げるだけだからね」
というわけで、娘は御曹司の屋敷に向かいました。本物の大貴族の邸宅に、娘は心底驚き、出てきた料理のおいしさにも驚き、うめぇうめぇとヤギのように言いながらお腹いっぱい料理を食べました。
(そうだ……式を挙げるだけとはいえ、母に紹介しないわけにいかないな……)
すっかり「
御曹司の母は娘を一目見るなり、ふんと鼻を鳴らしました。
「ずいぶんみすぼらしいなりだこと」
「そんなこと言わないでおくれよ。この家は呪われているんだ、嫁いでくれる人なんてこの子くらいしか――結婚式を挙げるだけだけど」
「あいしか……申し訳
「……あなた、国はどこ?」
「北の……オデァテというところだす」
「オデァテ!? わたしの、いえ、……
「サノマル!? 辺境伯さまのご血縁だすか?! おらはエツリンだす! ホンダーさまの荘園だす!」
「あいーすかすかすか、
と、いうような具合で、トントン拍子に話が進んでしまったのです。王都育ちの御曹司には母親とかりそめの花嫁あらため未来の妻がなにの話をしているのかすらわかりませんでしたが、とにかく結婚式を挙げることになりました。
公爵家の結婚式ですから、それは王家の結婚式に準ずるものでした。このためにオデァテのホンダー荘園から連れてこられた花嫁の家族はみなボロを着ていましたが、公爵家の有り余る財力で、まさに「馬子にも衣装」の状態となり、それはそれは華やかな結婚式が執り行われました。
御曹司の父は車椅子でその様子を見守り、その次の日天に召されました。花嫁の家族はついでに葬式にも参列しました。これでもう完璧に親戚です。
御曹司は結婚から2年後、妻となったお百姓の娘の腹に子供を残して肺病で亡くなりましたが、娘あらため女当主は男児を産み、健康に育てて家を継がせて、また姑に溺愛されて幸せに過ごしましたとさ。
「お嫁ちゃん!
「はぁいお義母さん、サラダ寒天がいあんべに固まってらすよ! あさづけも
(おわり)
かりそめの花嫁、姑に溺愛される 金澤流都 @kanezya
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